表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/156

24 ヌシの恩返し

24 ヌシの恩返し


 カケルクン、教頭、サー先生は、沈みゆく軍用船に巻き込まれるように沈んでいったが、しばらくして自力で浮き上がってくると、


「たっ……たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 湖の真ん中でばしゃばしゃと暴れ、助けを求めはじめた。

 カケルクンの身体からは、まるでものすごい勢いで毛が抜けるみたいに、羽根の生えた万札のエフェクトが絶え間なく散っていた。


 カケルクンは100億もHPがあるし、サー先生は軍人だから泳ぎは得意だろうし、教頭先生もたぶん大丈夫だろう。

 それにここは学園のすぐ近くだから、きっともうすぐ救助隊が駆けつけてくるだろう。


 俺がわざわざ助けなくてもいいだろうと思い、俺はさっさと湖から離れ、湖のヌシが墜落した森へと向かう。

 他のみんなはまだ、湖の先生方に気を取られていたが、モナカだけは「レオくん!」と俺についてきた。


 森の木々は、嵐が過ぎ去ったあとのようになぎ倒され、一本の大きな道ができている。

 その果てに、濡れ光る異形がいて、呼吸をするよう上下していた。


 勝負をしているときは、ヌシは湖の中だったので全貌がわからなかった。

 しかしこうして釣り上げてみると、全長がマークよりもデカい。


 ヒレはどこも刃物みたいに鋭いが、顔のところはシャチみたいに丸っこく、愛らしさすらある。

 口はノコギリみたいな歯が並んでおり、だらりと垂れた舌は大蛇のように長かった。


 近づいてみると、湖のヌシはもはや虫の息。

 黒い瞳で俺を見つめたあと、観念したように目を閉じた。


 これはもう、俺が手に入れた獲物(アイテム)だ。

 ならば『鑑定』もできるのかなと思い、ためしに鑑定してみた。


--------------------------------------------------


 クラシチャルカ(二つ名『オーシャンズ・デッド』)

  個数1

  品質レベル1285|(素材レベル1285)


  クラシチャルカが悠久の時を経て変種となったもの。

  七つの海をまたにかけ、漁師たちからは海の死神として怖れられている。

  骨が多くて身も固く、食用には適さない。


--------------------------------------------------


「食用には適さない、か……」


 俺は鑑定結果をつぶやきながら、クラシチャルカの胴体に足をかける。

 突き刺さっていたバリスタの槍に手をかけ、モナカに言った。


「モナカ、今からこの槍を引っこ抜く。たぶん血がたくさん出るから、癒してくれるか?


 モナカは一瞬「えっ」となっていたが、すぐに俺の意図を察してくれた。


「この子を助けてあげるんですね。わかりました」


 モナカほどの聖女の癒しは貴重で、勇者や賢者、そして王族などにしか与えられないとされている。

 魚に与えるなんてとんでもないと言われそうだが、モナカは何のためらいもなく俺の言う通りにしてくれた。


 モナカの癒しを受け、クラシチャルカは回復し、どすんばたんと暴れだした。


「待て待て、そう慌てるなって。今から家に帰してやるから、じっとしてな」


 その言葉が通じたのか、クラシチャルカはそれっきり大人しくなる。

 今の俺はちょうど『筋力』に極振りしていたので、クラシチャルカを運ぶのは造作もなかった。


 尾びれを掴んでずるずると引きずって、湖にまで連れて行く。

 湖に戻ると、学園の救助隊に助けられた先生方が、クジラの潮吹きみたいに水を口から吐き出しながら、タンカで運ばれているところだった。


 ……どぷんっ!


 クラシチャルカを湖に帰してやると、ヤツは振り返りもせずに泳ぎ去っていく。


「逃した魚は大きかったけど、これで良かったんだよな」


 なんて思っていたら、湖の中央で、クラシチャルカの尾びれが跳ね上がった。


 ……どっ、ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!


 高い水の柱がたちのぼり、空に無数の銀の光が舞い上がる。

 俺の隣にいたモナカは、「きれい……」と見とれていた。


「レオくんが助けてくれたのを、あの子はわかっていて、こうしてお礼をしてくれたんですね」


 「そうかぁ? ただの偶然じゃないか?」と俺は信じていなかったが、モナカのほうが正しかった。


 空に浮かんだ銀色の光が俺たちのほうに降ってきて、まるで雨のようにぼたぼたとまわりに落ちる。

 よく見たらそれらは、どれも魚だった。


 しかも10匹や20匹どころじゃない。

 100匹……いや、1000匹をゆうに超えるほどの、大量の……!


「まさかの、1000倍返しとは……!」


 サー先生チームはリーダーがいなくなってしまったので、もはや勝負が続行しているかも怪しかったのだが……。

 いずれにしてもこの瞬間、俺たちチームの決定的な勝利が確定した。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 俺はチームのみんなといっしょに、湖畔に打ち上げられた魚を拾い集めた。

 小魚なんてひとつもない、どれも大ぶりの魚たち。


「今日はこれが昼メシだっていうから、さっそく調理を開始するか」


 俺はチームをふたつに班分けする。

 魚を下処理する班、木の枝を集めてくる班。


 木の枝が集まるまでの間に、俺は魚の下処理をする班のメンバーたちに、下処理のやり方を教えた。

 ハラワタやエラを取り除き、表面にしっかりと塩をまぶしておく。


 下処理班メンバーの中では、なかなかの包丁さばきを見せるコトネが言った。


「お師匠様、こちらの取り除いたハラワタやエラはいかがいたしましょう?」


「ああ、それはこっちの革袋のなかに入れておいてくれるか?」


「えっ、お捨てにならないのですか?」


「捨てるなんてとんでもない。使い道はいくらでもあるんだ。食ってもうまいぞ」


「ハラワタやエラが食べられるだなんて、知りませんでした……」


 そうこうしているうちに木の枝を集める班が戻ってきたので、木の枝で焚火を作る。

 人数が多いから、キャンプファイアみたいに大きいのを。


 あとは木の枝をナイフで削って串にして、下処理の終わった魚に通す。

 それを焚火のまわりの地面に刺して、しばらく待てば……。


--------------------------------------------------


 魚の串焼き

  個数100

  品質レベル43|(素材レベル12+職業ボーナス22+調理ボーナス10)


  湖の魚を串焼きにしたもの。

  素材の新鮮さと漁師の調理法があわさり、非常に美味。


--------------------------------------------------


「できた! サバイバルじゃなくても、こいつは最高のごちそうだぞ!」


 しかし、みんなは半信半疑の様子だった。


「こんな風に、釣った魚をその場で焼いて食べるだなんて、初めてだけど……」


「ただ塩を振っただけの魚なんだから、そんなにおいしいものではないよね……」


「いくらレオピンくんの言うことだって、ごちそうは言い過ぎだよ……」


 しかし、ひと口食べた途端、


「おっ……おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 みんな揃って飛び上がっていた。


「なんで!? なんでこんなにおいしいのっ!?」


「ただ焼いて、塩を振っただけなのに!? いままで食べたどんな魚よりも、ずっとおいしいっ!?」


「皮はパリパリで、中はホクホク……! 魚は嫌いだったんだけど、これならいくらでも食べられちゃうよ!」


「っていうかこれ、売れるよ! 居住区で売ったら、みんな買いに来るよっ!」


「し、信じられません! お魚の本場の国のわたくしでも、こんなにおいしい魚を頂いたのは初めてですっ!」


 みんなが焼き魚に舌鼓を打っている間に、俺はもうひと仕事。

 俺に関してはやたらと目ざといモナカが、すぐに声をかけてきた。


「……あれ? レオくん、なにをしているんですか? お魚を召し上がらないんですか?」


「ああ、この仕込みが終わったら食べるよ。1000匹もの魚だから、腐らせちゃもったいないからな」


 俺は開きにした魚を、急ごしらえで作った竿にぶら下げて干す。

 みんなが魚で満腹になったあとひと休みして、湖まわりで遊んで、そろそろ帰ろうかという頃……。


「よし、みんな、お土産ができたぞ」


--------------------------------------------------


 魚の干物

  個数800

  品質レベル43|(素材レベル12+職業ボーナス22+調理ボーナス10)


  湖の魚を干して干物にしたもの。

  保存がきき、また旨味がギュッと凝縮されている。


--------------------------------------------------


「おっ……おみやげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
3yhrcih7iujm5f0tgo07cdn3aazu_49d_ak_f0_6ns3.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス6巻、発売中です!
jkau24427jboga2je5e8jf5hkbq_u0w_74_53_1y74.jpg r5o1iq58blpmbsj98lex9jb4g2_1727_3k_53_15fz.jpg 4ja22z6e9j8n5c6o2443laqx8b4v_136f_3j_53_14uc.jpg dm2ulscc6gwrdzc9cpyvkq7chn5k_wtf_3l_54_12fl.jpg l8ug24f47yvuk96t5a2n10cqlfd9_1e33_3l_54_104j.jpg jg166tlicmxb9n2r5rpfflel0ox_uif_3l_54_13bg.jpg cmau2113lvxuanohrju8z3y8wfp_8h9_3l_54_11ld.jpg
▼小説2巻、発売中です!
kwora9w85pvjhq0im3lriaqw3pv4_1al6_3l_53_11yj.jpg 2ql3dh0cbhd08b8y92kn9fasgs5d_7pj_3l_53_1329.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 品質レベル43|(素材レベル12+職業ボーナス22+調理ボーナス10) 品質レベル44だと思います。
[一言] なるほど、海釣り用大型釣り竿……ね。 最初からズルなんじゃないか。 実際の方法は知らんけど、王族クラスがスポンサーなんだし転移門くらいなら平然と使いそう。(人工湖)
[気になる点] カケルクンの現在の貯金額w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ