24 ヌシの恩返し
24 ヌシの恩返し
カケルクン、教頭、サー先生は、沈みゆく軍用船に巻き込まれるように沈んでいったが、しばらくして自力で浮き上がってくると、
「たっ……たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!!」
湖の真ん中でばしゃばしゃと暴れ、助けを求めはじめた。
カケルクンの身体からは、まるでものすごい勢いで毛が抜けるみたいに、羽根の生えた万札のエフェクトが絶え間なく散っていた。
カケルクンは100億もHPがあるし、サー先生は軍人だから泳ぎは得意だろうし、教頭先生もたぶん大丈夫だろう。
それにここは学園のすぐ近くだから、きっともうすぐ救助隊が駆けつけてくるだろう。
俺がわざわざ助けなくてもいいだろうと思い、俺はさっさと湖から離れ、湖のヌシが墜落した森へと向かう。
他のみんなはまだ、湖の先生方に気を取られていたが、モナカだけは「レオくん!」と俺についてきた。
森の木々は、嵐が過ぎ去ったあとのようになぎ倒され、一本の大きな道ができている。
その果てに、濡れ光る異形がいて、呼吸をするよう上下していた。
勝負をしているときは、ヌシは湖の中だったので全貌がわからなかった。
しかしこうして釣り上げてみると、全長がマークよりもデカい。
ヒレはどこも刃物みたいに鋭いが、顔のところはシャチみたいに丸っこく、愛らしさすらある。
口はノコギリみたいな歯が並んでおり、だらりと垂れた舌は大蛇のように長かった。
近づいてみると、湖のヌシはもはや虫の息。
黒い瞳で俺を見つめたあと、観念したように目を閉じた。
これはもう、俺が手に入れた獲物だ。
ならば『鑑定』もできるのかなと思い、ためしに鑑定してみた。
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クラシチャルカ(二つ名『オーシャンズ・デッド』)
個数1
品質レベル1285|(素材レベル1285)
クラシチャルカが悠久の時を経て変種となったもの。
七つの海をまたにかけ、漁師たちからは海の死神として怖れられている。
骨が多くて身も固く、食用には適さない。
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「食用には適さない、か……」
俺は鑑定結果をつぶやきながら、クラシチャルカの胴体に足をかける。
突き刺さっていたバリスタの槍に手をかけ、モナカに言った。
「モナカ、今からこの槍を引っこ抜く。たぶん血がたくさん出るから、癒してくれるか?
モナカは一瞬「えっ」となっていたが、すぐに俺の意図を察してくれた。
「この子を助けてあげるんですね。わかりました」
モナカほどの聖女の癒しは貴重で、勇者や賢者、そして王族などにしか与えられないとされている。
魚に与えるなんてとんでもないと言われそうだが、モナカは何のためらいもなく俺の言う通りにしてくれた。
モナカの癒しを受け、クラシチャルカは回復し、どすんばたんと暴れだした。
「待て待て、そう慌てるなって。今から家に帰してやるから、じっとしてな」
その言葉が通じたのか、クラシチャルカはそれっきり大人しくなる。
今の俺はちょうど『筋力』に極振りしていたので、クラシチャルカを運ぶのは造作もなかった。
尾びれを掴んでずるずると引きずって、湖にまで連れて行く。
湖に戻ると、学園の救助隊に助けられた先生方が、クジラの潮吹きみたいに水を口から吐き出しながら、タンカで運ばれているところだった。
……どぷんっ!
クラシチャルカを湖に帰してやると、ヤツは振り返りもせずに泳ぎ去っていく。
「逃した魚は大きかったけど、これで良かったんだよな」
なんて思っていたら、湖の中央で、クラシチャルカの尾びれが跳ね上がった。
……どっ、ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんっ!!
高い水の柱がたちのぼり、空に無数の銀の光が舞い上がる。
俺の隣にいたモナカは、「きれい……」と見とれていた。
「レオくんが助けてくれたのを、あの子はわかっていて、こうしてお礼をしてくれたんですね」
「そうかぁ? ただの偶然じゃないか?」と俺は信じていなかったが、モナカのほうが正しかった。
空に浮かんだ銀色の光が俺たちのほうに降ってきて、まるで雨のようにぼたぼたとまわりに落ちる。
よく見たらそれらは、どれも魚だった。
しかも10匹や20匹どころじゃない。
100匹……いや、1000匹をゆうに超えるほどの、大量の……!
「まさかの、1000倍返しとは……!」
サー先生チームはリーダーがいなくなってしまったので、もはや勝負が続行しているかも怪しかったのだが……。
いずれにしてもこの瞬間、俺たちチームの決定的な勝利が確定した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺はチームのみんなといっしょに、湖畔に打ち上げられた魚を拾い集めた。
小魚なんてひとつもない、どれも大ぶりの魚たち。
「今日はこれが昼メシだっていうから、さっそく調理を開始するか」
俺はチームをふたつに班分けする。
魚を下処理する班、木の枝を集めてくる班。
木の枝が集まるまでの間に、俺は魚の下処理をする班のメンバーたちに、下処理のやり方を教えた。
ハラワタやエラを取り除き、表面にしっかりと塩をまぶしておく。
下処理班メンバーの中では、なかなかの包丁さばきを見せるコトネが言った。
「お師匠様、こちらの取り除いたハラワタやエラはいかがいたしましょう?」
「ああ、それはこっちの革袋のなかに入れておいてくれるか?」
「えっ、お捨てにならないのですか?」
「捨てるなんてとんでもない。使い道はいくらでもあるんだ。食ってもうまいぞ」
「ハラワタやエラが食べられるだなんて、知りませんでした……」
そうこうしているうちに木の枝を集める班が戻ってきたので、木の枝で焚火を作る。
人数が多いから、キャンプファイアみたいに大きいのを。
あとは木の枝をナイフで削って串にして、下処理の終わった魚に通す。
それを焚火のまわりの地面に刺して、しばらく待てば……。
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魚の串焼き
個数100
品質レベル43|(素材レベル12+職業ボーナス22+調理ボーナス10)
湖の魚を串焼きにしたもの。
素材の新鮮さと漁師の調理法があわさり、非常に美味。
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「できた! サバイバルじゃなくても、こいつは最高のごちそうだぞ!」
しかし、みんなは半信半疑の様子だった。
「こんな風に、釣った魚をその場で焼いて食べるだなんて、初めてだけど……」
「ただ塩を振っただけの魚なんだから、そんなにおいしいものではないよね……」
「いくらレオピンくんの言うことだって、ごちそうは言い過ぎだよ……」
しかし、ひと口食べた途端、
「おっ……おいしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
みんな揃って飛び上がっていた。
「なんで!? なんでこんなにおいしいのっ!?」
「ただ焼いて、塩を振っただけなのに!? いままで食べたどんな魚よりも、ずっとおいしいっ!?」
「皮はパリパリで、中はホクホク……! 魚は嫌いだったんだけど、これならいくらでも食べられちゃうよ!」
「っていうかこれ、売れるよ! 居住区で売ったら、みんな買いに来るよっ!」
「し、信じられません! お魚の本場の国のわたくしでも、こんなにおいしい魚を頂いたのは初めてですっ!」
みんなが焼き魚に舌鼓を打っている間に、俺はもうひと仕事。
俺に関してはやたらと目ざといモナカが、すぐに声をかけてきた。
「……あれ? レオくん、なにをしているんですか? お魚を召し上がらないんですか?」
「ああ、この仕込みが終わったら食べるよ。1000匹もの魚だから、腐らせちゃもったいないからな」
俺は開きにした魚を、急ごしらえで作った竿にぶら下げて干す。
みんなが魚で満腹になったあとひと休みして、湖まわりで遊んで、そろそろ帰ろうかという頃……。
「よし、みんな、お土産ができたぞ」
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魚の干物
個数800
品質レベル43|(素材レベル12+職業ボーナス22+調理ボーナス10)
湖の魚を干して干物にしたもの。
保存がきき、また旨味がギュッと凝縮されている。
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「おっ……おみやげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」














