17 パン職人
17 パン職人
俺の拠点の『傍人』は、クルミが加わって53人になる。
クルミは女生徒たちの中でも、ひときわ畑仕事が苦手なようだった。
転んでばかりで、手伝いというよりもみんなの足を引っ張っていたけど、俺はその気持ちだけでも有り難いと思う。
そして俺はこの学園に入ってから初めて、多くの生徒たちとマトモに接した。
いままではゴミ扱いされて、俺の話を聞いてくれるのは、モナカとコトネくらいのものだったんだが……。
今では50人もの生徒たちが、俺に話しかけてくれる。
それが良かったのか、畑仕事がいち段落する昼頃には、俺はやさしい光に包まれていた。
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レオピン
職業 魔農夫
LV 20 ⇒ 21
HP 1010
MP 1010
ステータス
生命 101
持久 101
強靱 1001
精神 101
抵抗 101
俊敏 1001
集中 101
筋力 101
魔力 101
法力 101
知力 101
教養 101
五感 101
六感 101
魅力 1
幸運 5
器用 700 ⇒ 800
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
陶芸家
菓子職人
花火職人
裁縫師
NEW! パン職人
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
地図職人
地脈師
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
調教師
ギャンブラー
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「おおっ! パン職人か! まさに今の気分にピッタリの職業じゃないか!」
ちょうど正午を告げる時計台の鐘の音が、居住区から届いた。
モナカとコトネがシュパッとそばにやってきて、両側から俺の汗を拭いながら言う。
「お疲れ様です、レオくん! お昼ごはんはどうしましょうか?」
「お師匠様、ここはひとつ、わたくしたちに昼餉の準備を……」
「いや、畑仕事を手伝ってもらったんだ。お礼といっちゃ何だが、俺にごちそうさせてくれ。
それにせっかくだから、みんなで外で食べよう。ふたりは敷物を、畑のまわりに敷いてくれるか?」
「「はい!」」と100点満点の返事をするモナカとコトネ。
俺が編んで準備してあった『ストロクロース』を、次々と畑のそばの地面に並べていく。
「みなさん、お疲れ様でした! こちらにお座りになってください!」
「これからお師匠様が、昼餉をごちそうしてくださるそうです」
モナカとコトネのの案内に「わあっ!」と歓声がおこる。
名門の娘であるふたりが言うと、なんだかすごいものが出てきそうに聞こえるな。
「やれやれ、ハードルが上がっちまったな」
俺はその期待に少しでも応えるべく、『器用貧乏』の『器用な転職』スキルを発動。
今もっとも相応しい職業に転職した。
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職業 魔農夫 ⇒ パン職人
職業スキル
製錬(アクティブ)
生地をこねる加減で、パンの食感を調整できる
発酵(アクティブ)
生地の発酵時間を短縮できる
酵母(アクティブ・スペシャル)
酵母を短時間で作成できる
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家の庭にある調理場に行き、川から汲んでおいた水で手をキレイに洗ってから調理開始。
「まずは、酵母を作らないとな」
まずは、ちょっと前にトム市場で買った『プリンセスアップル』をコートのポケットから取り出す。
ヘタを取って洗ってから、8つのくし切りにした。
皮や芯はそのままで、調理場にあるツボに入れる。
あとは水を注いで木のフタをして密閉。
「本来はここで、3日ほど冷やさないといけないんだが……」
俺はフタの上に手を置いて、パン職人の職業スキルである『発酵』を発動。
すると3分も経たないうちに、ツボの中からシュワシュワとした音が聞こえてきた。
「もうできたか、早いな!」
中を開けてみると、真珠のような泡をいくつも浮かべるアップル水があった。
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プリンセスアップルの酵母
個数1
品質レベル34|(素材ペナルティ2+器用ボーナス8+職業ボーナス21+拠点ボーナス7)
プリンセスアップルを発酵させて作った酵母。
パン作りや菓子作りのほかに、料理全般に使える。
各種ボーナスにより、通常の酵母に比べて日持ちがし、生地に混ぜた場合はふっくらした仕上がりになる。
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パン作りに酵母は欠かせないものだ。
「これがないと、パンが膨らまなくてペチャンコになっちゃうんだよな」
肝心の材料ができたところで、本格的にパン作りを開始。
木のボウルに小麦粉を入れ、水と酵母のエキスを加え、塩と……。
「あとは砂糖があればもっと良かったんだけどな」
すると、脇からそっと紙袋が差し出された。
紙袋には『おさとう』と書いてある。
「なんだ、クルミか」
「あっあのあの、あのっ、ごっ、ごめんなさい!
レオピンシェフがなにを作っているのか、きっ、ききっ、気になって……!
もしよかったら、つつっ、使ってください! しっ、失礼しましたぁーっ!」
調理場から逃げだそうとするクルミを、俺は呼び止めた。
「気になるんだったら、見ていけよ」
ピタリと足を止め、おそるおそる振り返るクルミ。
「いっ……いいん、ですか……?
りょっ、料理の職人は、れ、れれっ、レシピを盗まれるのを怖れて、つっ、作るところは見せないのに……
わっ、私のクラスも、みみっ、みんなそうで……」
「俺は料理人じゃないから気にするな。必要ならどんどん盗んで、活用してくれてかまわないよ。
そのほうが、みんなの生活が豊かになるからな」
こわごわと戻ってくるクルミを横目に、俺は調理を続けた。
クルミからもらった砂糖を加え、ボウルを中身を混ぜる。
そうすると粉が粘り気を持った生地になるので、作業台の上に置く。
ここで『製錬』のスキルを発動。
生地を洗濯物のように伸ばしたあと、再びひとつにまとめる、というのを繰り返した。
「クルミ、お前はふっくらしたパンともっちりしたパン、どっちが好きだ?」
するとクルミは明るい声で即答した「ふっくらです!」。
「女の子はみんな、ふっくらしたものが大好きなんです!」
クルミはきっと菓子パンでも想像しているのだろう。
お菓子のことになると、彼女は途端にどもりが無くなる。
俺は「そうか」と答えながら、こね上げた生地を小分けにして、『発酵』スキルを発動。
本来、発酵というのは複数回に分けて、何時間もかけて行なわないといけないのだが、スキルがあれば一瞬で終わる。
膨らんだ生地を見て、クルミは間違い探しのように小首を傾げる。
「あ……あれっ? ちっちゃかった生地が、膨らんだような……?
それも、2倍……いや、3倍くらいに……?」
焼き窯に入っていくパン生地をも見送りながら、クルミは見間違いのように首を左右に振っていた。
「ふ……ふふっ、ふっくらしたパンって、むむっ……難しいんですよね……。
わわっ、私もなっ、何度か挑戦してみたんですけど……くっ、クラッカーみたいに、かっ、固くてぺちゃんこになっちゃって……。
じじっ、実をいうと、ふっくらしたパンに、あっ、憧れてるんです……。
ああっ、憧れすぎるあまり、つつっ、つい、幻覚を見てしまったようです……」
そして現実に引き戻されたかのように、しゅんと肩を落とすクルミ。
しかし焼き窯を開い先にある、まるまる太った子狐のようなパンたちを目にして、また夢に引きずり戻されたような絶叫をあげていた。
「ふっ……ふふふっ……!?
ふわふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ほかほかと湯気をたてる、焼きたてのパン。
嗅ぐだけで幸せな気持ちになるような、豊かな香りを立ち上らせていた。
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天使のふわふわパン
個数20
品質レベル120|(素材レベル85+器用ボーナス8+職業ボーナス21+調理ボーナス2+拠点ボーナス7+クラウンボーナス20+限界ペナルテイ23)
基本的なレシピで焼かれたパンだが、良質の素材で作られているのでたいへん美味。
特殊効果
ふわふわ|(小)
食べると30秒間、見えない天使の力が働き、身体が地面から1ミリ浮く
品質維持|(小)
できたての品質を1ヶ月維持する
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