表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/156

10 レオピン小麦粉ゲーム

10 レオピン小麦粉ゲーム


 これでヤツも懲りて、退散するだろうと俺は思った。

 しかしヤツはボディーカードから顔を拭いてもらったあと、何事もなかったかのように交渉を再開してきやがった。


「……よく考えてみたまえ。キミがコムギソウを持っていたところで、ゴミの持ち腐れだということを。

 『教養』が1のキミにはわからないと思うが、コムギソウはそのままじゃ食べられないんだよ。

 その方法はナイショだが、いくつかの工程を経て小麦粉にしないといけないのさ」


 あんな目に遭ったというのに、ペイパーは相変わらず俺を見下していた。


「コムギソウを小麦粉に変えるのは、キミみたいなゴミには不可能といっていい。

 しかし我ら豪商連合には多くの下働きを抱えている。

 その者たちに手伝わせれば、小麦粉など簡単に作れるのさ。

 そうだなぁ、この量であれば、1日もあれば楽勝だろうな」


 ペイパーは知らない。

 俺とマーチャンがさっきまで、家の庭にある作業場で、小麦粉づくりをしていたのを。


「パァ、これでわかっただろう? それじゃ、取引成立だ」


 ヤツは一方的に話を打ち切って、マーチャンをアゴでしゃくった。


「マーチャン、すぐに居住区に戻って下働きたちを連れて来たまえ。

 そしてこのコムギソウを運び出すんだ」


「えっ、下働きって、もしかして……」


「パァ、キミたち1年9組のことに決まっているだろう。

 キミたちは商人らしいことを、なにひとつできていないのだから。

 校長もそのことを重く見られていて、すでに承認済だ」


 ペイパーの背後にいたカケルクンが、満面の笑顔で「うん!」と頷く。

 校長も、さっきのゲームの勝敗など無かったような素振りを貫いている。


 「ううっ、そ、そんな……!」とマーチャン。


 なぜペイパーがここに来たのか、そしてなぜ校長や教頭まで一緒にいるのか。

 でも話を聞いているうちに、おおよその事情を理解できた。


 ようは何かと理由をつけて、俺の作物を奪おうってハラなんだな。

 居住区から見える場所で作物を育てたら、すぐに害虫のごとく寄ってきやがったってわけか。


 俺は、それらをまとめて吐き捨てる。


「誰がお前らなんかにやるか。このコムギソウはマーチャンと取引済だ」


 するとペイパーはまた、ムカつく寄り目をした。


「パァ~? キミは人の話を聞いてなかったのかい?

 コムギソウは居住区じゃ売れないんだよ、小麦粉にしなきゃ。

 それとも何かい? キミがコムギソウを小麦粉にして、マーチャンに渡すっていうのかい?」


 「ああ」と頷くと、ペイパーは弾けるように笑った。


「パア~ッ、パッパラパーッ! コムギソウを、キミひとりで小麦粉に!? しかも、この量を!?

 おめでたい、おめでたいねぇ! 製粉がどれだけ大変で、どれだけ人手が必要な作業かわかってないようだね!」


 まるで事前に示し合わせていたかのように、またカケルクンがしゃしゃり出てきた。


「よーし、それじゃあゲームといこうか! 今度は『レオピン小麦粉ゲーム』だね! ねっ!

 ここに積んである小麦の束を、時計塔の正午の鐘が鳴るまでに、ぜーんぶ小麦粉にできたらレオピンくんの勝ち!

 ペイ・パーくんは、このコムギソウをあきらめるってことで!

 でも、時間までにぜんぶ小麦粉にできなかったら……」


 カケルクンの顔が、エロ中年のようにいやらしく歪む。


「レオピンくんの負け、負け、負けーっ!

 レオピンくんの畑で作られる作物は、これから先、ぜーんぶペイ・パーくんのもの!

 1年9組は『商人連合』から『下働き連合』になって、ずーっとペイ・パーくんの下で働くように! にっ!」


 エロ中年は、最後にニッと口角を吊り上げる。

 マーチャンが「そんな!」と口を挟もうとしたが、彼女を押しのけるようにして、さらに叫んだ。


「んじゃ、レオピンくん、準備はいいかな!? かなっ!?

 おおっと、ダメって言ってもダメだよ!

 だってこのゲームも教育委員会に承認された、ちゃんとした教育指導!

 キミへの愛ある教育なんだからねっ! ねっ!」


 俺はまたしても、なし崩し的にゲームに参加させられることになるのか。


「校長、それは別にいいですけど、俺が勝ったときのメリットが皆無です。

 俺が勝ったら『商人連合』が、俺の作物を居住区で流通させることを認めてください。

 そして『豪商連合』も、マーチャンたちに嫌がらせするのを禁止ってことで」


 脊髄反射のように答えるカケルクン。


「オッケー、いいよ! もしレオピンくんが勝ったら、レオピンくんの作物はボクのお墨付きってことにしてあげる!

 居住区で売られることに、誰にも邪魔はさせないからね! ねっ!」


「その言葉、忘れないでくださいよ」


「それじゃあ、ゲームスタートっ!」


 合図と同時に、マーチャンが血相変えて俺に詰め寄ってきた。


「な、なんでゲームを受けちゃったの!?」


 俺はコムギソウの山を荷車に積み込みながら、その相手をする。


「しょうがないだろ。ダメって言ってもダメって言われたんだから」


「でも正午までって、あと3時間くらいしかないんだよ!?

 それなのにこの量のコムギソウを、ひとりで小麦粉にするだなんてムチャだよ!

 ペイ・パー様が言ってたじゃない! 製粉は、大勢の人手を使って1日かかるって!」


「人力だとそうだろうな」


「ええっ? まさかレオピンくん、コムギソウを小麦粉に変える魔法でも使えるの?」


「そんな魔法はないさ。ただ魔法より楽かもしれないな。まあ、いいから黙って俺についてこいよ」


 するとマーチャンは「えっ」と不意を突かれたような表情をしたあと、急にポッと赤くなった。


「だ、黙って俺についてこいだなんて、そんな……」


「そういう意味で言ったんじゃない」


 俺はコムギソウを積み終えると、荷車を引っ張って出発する。


「パァ~? どこへ行くつもりかなぁ?」


「カカカカ! 白昼堂々夜逃げしようとしてるね! ねっ!」


 俺のあとを、スキップしながらついてくるペイパーと校長。

 不安でたまらなそうなマーチャンと、ねっとりした笑顔の教頭が続く。


 俺が向かった先は、もはや言うまでもないだろう。

 この前の『炎の七日間』でできた、近所の川だった。


「ついた。それじゃ、さっそく製粉開始といくか」


 川のほとりにある建物を目にした途端、いくつもの絶叫が交錯する。


「すっ……すいしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス6巻、発売中です!
3yhrcih7iujm5f0tgo07cdn3aazu_49d_ak_f0_6ns3.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス6巻、発売中です!
jkau24427jboga2je5e8jf5hkbq_u0w_74_53_1y74.jpg r5o1iq58blpmbsj98lex9jb4g2_1727_3k_53_15fz.jpg 4ja22z6e9j8n5c6o2443laqx8b4v_136f_3j_53_14uc.jpg dm2ulscc6gwrdzc9cpyvkq7chn5k_wtf_3l_54_12fl.jpg l8ug24f47yvuk96t5a2n10cqlfd9_1e33_3l_54_104j.jpg jg166tlicmxb9n2r5rpfflel0ox_uif_3l_54_13bg.jpg cmau2113lvxuanohrju8z3y8wfp_8h9_3l_54_11ld.jpg
▼小説2巻、発売中です!
kwora9w85pvjhq0im3lriaqw3pv4_1al6_3l_53_11yj.jpg 2ql3dh0cbhd08b8y92kn9fasgs5d_7pj_3l_53_1329.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] …うん…勝負のチップが釣り合ってる!…はず…でも改稿前からそうでしたっけ?…すみません忘れました!
[良い点] 【改稿後の感想です】 >キミたちは商人らしいことを、なにひとつできていないのだから 上手く理由付けをされてしまいましたね。 妨害が有っての事ではありますが 確かにまだ何の商取引も出来て…
[一言] 米? 麦(大麦でも小麦でも)には殻なんてついていません(皮はある)。 籾殻は米にしかついていません。 皮は削り取るしか方法がないので、皮を削るなどといったそんな面倒なことは通常行いません…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ