08 水車を作ろう
08 水車を作ろう
次の日、俺はとんでもない時間にマーチャンに叩き起こされた。
「おはよーっ、レオピンくん! 起きて起きて起きて、おきてーっ!」
「ううん……なんだよ……。まだ、真っ暗じゃないか……」
「でももうすぐ陽が昇るよ! 早くしないと、コムギが逃げちゃうよーっ!」
俺は引っ張られるように畑まで連れ出された。
空はまだ群青色で、地平の向こうがほんのり水色になっている。
あたりは暗く、マークもトムも当たり前のようにイビキをかいていた。
畑のコムギもセサミも、まるで眠りこけるかのように頭を垂れている。
その中で、ひとあし早い太陽のように、手足をぶんぶん振って準備運動に余念がないマーチャン。
「さあさあ、今日はなにから始めるの!? やっぱり収穫!?」
「ああ。お望みとあらば、お前にはコムギの収穫をやってもらうとするか」
俺は『森林石のナイフ』を使って、コムギの収穫の仕方を教えてやる。
そのあとナイフをマーチャンに貸してやり、森へと向かうことにした。
「俺は森で採取したあと、他の道具の準備をするから、収穫はひとりで頼んだぞ」
「オッケー! まかせて! いってらっしゃーい!」
両手をぶんぶん振るマーチャンに見送られながら、俺はコートのポケットから手書きの地図を取り出す。
これは、『炎の七日間』で森をさまよったときに作ったものだ。
「水場を探すついでに、目についた素材のありかを大雑把に地図に書き込んでおいたんだよな。
えーっと、まずは『ダイジャヅル』のある崖に行って、そのあとは『バンブーウッド』のある林を巡って、それから……」
頭の中でルートを組み立てたあと、マーチャンの真似をするみたいに、手足をブルブル振って身体をほぐす。
「それじゃいっちょ、『採取マラソン』といきますか……!」
俺はそれから、陽がすっかり顔を出すくらいまで、俺は森の中を走り回った。
収穫はばっちり、コートのポケットにたっぷりの素材を詰め込んで、ホクホク顔で家へと戻る。
家の近くにある川のそばを歩いていると、マークとトムにばったり出会う。
マークの鼻は、リンゴみたいに腫れあがっていた。
「なんだマーク、鼻が真っ赤っかじゃないか。もしかして、ハチにでも刺されたのか?」
「くおん」と涙目で頷くマーク。
その腕にはトムが抱かれていて「ぴゃあ」と力なく鳴いている。
「トムは足をケガしてるじゃないか。ふたりして、どこでなにをやってきたんだよ?
ちょっと待ってろ。薬草になりそうなものが、たしかあったはずだ」
今回の採取マラソンでは必要な素材だけでなく、めぼしい素材を見つけたら手当たり次第にコートのポケットに放り込んでいた。
おかげで、ポケットの中はよりいっそう大変なことになってしまったのだが……。
「ヒマでしょうがない時にでも、ポケットの整理をしなきゃな。あ、あった」
中身をポイポイ放りだしているうちに、お目当ての薬草が出てきた。
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センタタキ
個数1
品質レベル7|(素材レベル7)
野生のセンタタキ。小さくて堅い実がいくつもなっている。
錬金術や薬草の材料として利用可能。
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これは、実をすり潰すとペースト状になって、傷薬になるんだよな。
『レンジャー』の『生存術』で得た知識だ。
センタタキの実は豆粒よりも小さくて、しかも堅い。
コートのポケットに入れたおいた乳鉢に移し、ゴリゴリとやってみたのだが、まったく潰れる気配がなかった。
「力を入れすぎると、鉢が割れそうだし……。根気よくやるしかないのかな」
それから俺は、腕が疲れるまでひたすらすり潰してみたのだが、1時間かけてようやく荒いペースト状にすることができた。
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センタタキの塗り薬
個数1
品質レベル12|(素材レベル7+器用ボーナス5)
センタタキの実を千回叩き、潰して作った塗り薬。
虫刺され、できもの、裂傷、火傷、打ち身、捻挫、筋肉痛、肩こりに効果がある。
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俺はそれで、この植物の名前の意味を知る。
「そうか、千回叩かなくちゃいけないから『センタタキ』か。こりゃ、作るのがひと苦労な薬草だな。
相当な薬効がないと、割りに合わないぞ」
論より証拠とばかりにさっそく試してみる。
マークとトムの患部にセンタタキを塗ってやった。
すると、マークの鼻の腫れは3分の2くらいまで縮み、トムは自力で立って歩けるくらいにまで回復する。
「魔法や祈りでもないのにケガをここまで回復させるとは、すごい効き目だ。これなら明日には完治しそうだな」
そして俺は思う。
この薬を常備できれば、いざという時に役に立つんじゃないかと。
「でも、いちいち千叩きするのは面倒だな……」
クラフトの作業はほとんどが楽しいものだか、なかには根気ばかりが必要なものもある。
そういう場合は俺はいつも、楽する方法を考えてきた。
「なんとかして千叩きを百叩き、いや十叩きくらいまで楽にする方法はないかなぁ?」
傍らに流れる川を眺めながら考えていると、すぐにヒラメキが降りてきた。
「そうだ! 水車だ! 水車を作って千叩きをやらせればいいんだ!」
俺はすぐさま家まで戻る。
家の傍らに停めてあるギスの木材を積んだ荷車を引いて、取って返した。
川に戻ると、『器用貧乏』の『器用な転職』スキルで『大工』に転職。
「大工仕事をやるのは久しぶりだな」
川べりの平地に狙いを定めたあと、猛然とした勢いで『建築』スキルを発動。
川の流れに寄り沿うように、長い小屋を建てた。
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ギスの長屋
個数1
品質レベル35|(素材レベル12+器用ボーナス5+職業ボーナス18)
高品質なギスの木材で作られた長屋。
各種ボーナスにより、地震・火事・腐食への耐性がある。
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室内は仕切りの壁はなく、回廊のように突き抜けている。
そして床もないので、土足で出入りすることができる。
出入り口の扉はなく、荷車が通れるくらいに大きくしてみた。
ようは完全なる、『作業場』だ。
「よーし、それじゃ、肝心の水車を作るとするか!
水車なら、小さい頃からちっちゃいのを作って、川で回して遊んでたんだ」
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ギスの水車
個数5
品質レベル35|(素材レベル12+器用ボーナス5+職業ボーナス18)
高品質なギスの木材で作られた水車。
各種ボーナスにより、風水・腐食への耐性がある。
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自分の身体よりも、ひと回り以上も大きい水車を作り上げる。
それはモンスーンの身長ほども高さがあり、俺にとっては巨人のようだった。
「水車は回っているときの光景を想像すると、楽しく作れるんだよな。
さっそく、備え付けてみるとするか」
長屋にあらかじめ開けておいた穴に、丸太を渡す。
川のほうに飛び出た丸太に、水車をはめ込んだ。
するとサイズはピッタリ。
水面に届かなかったり、川底を擦ったりもせず、水をしっかりと捉えて回りだした。
……ご、ご、ご、ごごごご……。
川に並んだ5連の水車。
その力強い回転は、見ているだけでテンションが上がる
「そうそう、これこれ! これこそが、水車の醍醐味だ!
よぉし、さっそく臼と杵を取り付けるか!」
俺は水車の力を分け与えられたかのように、続きの作業を行なう。
自分でも信じられないほどのハイスピードで、お目当てのものを作り上げた。
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ギスの臼
個数5
品質レベル35|(素材レベル12+器用ボーナス5+職業ボーナス18)
高品質なギスの木材で作られた臼。
各種ボーナスにより、高い耐久性がある。
ギスの杵
個数5
品質レベル35|(素材レベル12+器用ボーナス5+職業ボーナス18)
高品質なギスの木材で作られた杵。
各種ボーナスにより、効率的に素材に力を与えることができる。
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俺は水車に板を挟み込んで、いったん動きを止めてから、水車の回転軸に臼と杵をセットする。
臼の中に、ためこんでおいたセンタタキの実を流し込んだ。
そして、板を外せば……!
水車は再びゴウンゴウンと動き出し、その回転で杵を上下に動かす。
杵は重さで臼に叩きつけられ、ゴスゴスと実をすり潰していく。
「うーん、ただ杵が機械的に上下に動いてるだけなのに、飽きずに見てられるなぁ」
俺が乳鉢でチマチマやってたときは、4時間でちょびっとの薬しかできなかった。
しかし水車にやらせたら、1時間で大量の薬ができてしまった。
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センタタキの塗り薬
個数50
品質レベル17|(素材レベル7+均一ボーナス10)
センタタキの実を千回叩き、潰して作った塗り薬。
虫刺され、できもの、裂傷、火傷、打ち身に効く。
各種ボーナスにより、捻挫、筋肉痛、肩こりにも効果がある。
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「おおっ!? 俺が手作りしたのより、品質レベルが高いだなんて!
やるなぁ、偉いぞ! あはははははっ! この調子で、これからも頼むぞ!」
それは俺にとって、5体の頼もしい巨人が仲間になった瞬間だった。
さらに脳内には、爆弾が誘爆するかのように、あるヒラメキがおこる。
「そうだ……! こうなったら、アレも自動化するしかないな……!」














