05 呪われた職業
05 呪われた職業
10個の宝箱はそっくりに作ってあるけど、こうして見ると全然違うなぁ。
塗装の色あせ、金具のわずかな錆び付き、底のほうにチラ見えする引きずった跡。
モノづくりをしていると、些細な違いにも気付くようになるけど……。
『器用貧乏』のスキルを得てからは、動物や草木だけでなく、視界に映るすべてのものが大きく違って見えるようになった。
『五感』や『集中』のパラメーターが何倍にもなってるから、特にそう思えるのかもしれないな。
そんな思いにふけりながら宝箱を眺めていたら、俺はいつの間にか『レオピン大貧民ゲーム』なる奇妙なゲームをやらされるハメになった。
新しい校長と教頭は、そのゲームのためにわざわざ2千個もの宝箱を校庭に運び込んでいたらしい。
しかし彼らは知らない。というか、この場にいる者たちは誰も知らない。
俺はその気になれば、いつでも宝箱のプロフェッショナルになれるということに。
というわけでさっそく『トレジャーハンター』に転職。
いちおう「……本当に、もらっちゃっていいんですか?」と校長に確認してから、トレジャーハンターのスキル『財宝発見術』を発動する。
『財宝発見術』のスキルはお宝が光ったりするわけではない。
ほんの少し、しかし決定的な違和感を五感に伝えてくれるんだ。
例えていうなら『視線を感じる』という感覚に近い。
俺は宝箱の森を歩き、瞳のない熱視線を探した。
やがて感じ取ったひとつの宝箱を開けてみると、中からファンファーレとともに飛び出す『アタリ』の看板。
そして、
「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
校長のへんな絶叫。
「ば、ばかなっ!? 確率は200分の1なのに、なんで一発で当てられるんだっ!? だだだっ!?」
俺は最初の見つけた宝箱から少し離れたところで、次の当たりの宝箱を見つけた。
開けてみると、さっきよりも多くの紙吹雪が吹き出す。
どうやら、連続して当たりを引くと祝福も派手になるらしい。
俺は花から花へと渡り歩く蝶のように、宝箱を開けていった。
4個目のあたりでファンファーレは校庭じゅうを揺るがすほどになり、紙吹雪は間欠泉のように天高く舞い上がる。
俺のゲームを観戦していた生徒たちは彫像のように固まっている。
風に乗った紙吹雪にまみれても、払うことなく立ち尽くしていた。
「う……うそ、だろ……? 4連続正解だなんて……!?」
「なっ、なんで、当たりがわかるんだ……?」
「ま、まだ1分も経ってないってのに、2億も稼ぎやがった……!」
「こっ、このままじゃ、全部当たりを引いてもおかしくないぞ!」
とある生徒の悲鳴じみた声に、校長は正気を取り戻す。
ステージから転げ落ちるように降りると、
「やっ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
必死の形相で俺のところに駆けよってきた。
鼻を真っ赤にした今にも泣きそうな顔で、ハァハァと息が荒い。
「こ、このゲームは終わり! ここで終わりねっ! ねっねっ!?」
「え、でも校長は、宝箱は何回引いてもいいって……。
せっかくだから、もうちょっと……」
「うわああああっ! やめてとめて、やめてぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!」
校長は俺の足にすがりつくと、わぁわぁ泣き出した。
涙がぜんぜん出てないので、たぶんウソ泣きだと思うんだけど……。
なんだか可哀想になってきたので、俺はここまでにすることにした。
結局、『乾杯ゲーム』で乾杯したのは14クラス。
そのゲームのおかげで、俺はほんの一時の間だけ、『資産ランキング』の10位圏外に落ちた。
でも宝箱のように、フタを開けてみれば……。
1位 特別養成学級 301,200,000¥
2位 1年7組 105,201,900¥
2位以下にぶっちぎりの差をつけて、返り咲きっ……!
「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?
はぁんはぁんはぁんっ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
校長は呼吸困難に陥ったような悲鳴をあげる。
両手をブンブン振り回しながら、教頭に引きずられるようにして校庭から去っていく。
俺はそんな駄々っ子のような校長には目もくれず、自分の身体が光っているのに気を取られていた。
「ひさびさのレベルアップだな。ギャンブルをするのって、もしかしていい経験になるのかな?」
--------------------------------------------------
レオピン
職業 トレジャーハンター
LV 18 ⇒ 19
HP 1010
MP 1010
ステータス
生命 101
持久 101
強靱 1001
精神 101
抵抗 101
俊敏 1001
集中 101
筋力 101
魔力 101
法力 101
知力 101
教養 101
五感 101
六感 101
魅力 1
幸運 5
器用 500 ⇒ 600
転職可能な職業
生産系
木こり
鑑定士
神羅大工
石工師
革職人
木工師
魔農夫
陶芸家
菓子職人
花火職人
探索系
レンジャー
トレジャーハンター
地図職人
地脈師
戦闘系
戦斧使い
ニンジャ
武道家
罠師
調教師
NEW! ギャンブラー
--------------------------------------------------
新しく増えた職業に、俺は思わず苦笑い。
「おいおい、俺は本気でやるつもりはないよ……」
とはいえどんなスキルがあるのか気になったので、試しに転職してみる。
--------------------------------------------------
職業 |トレジャーハンター ⇒ ギャンブラー
HP 1010 ⇒ 301200000
--------------------------------------------------
「うおっ!?」
いきなりHPがとんでもない数値になったので、俺は度肝を抜かれる。
--------------------------------------------------
職業 ギャンブラー
職業スキル
マネーブラッド(パッシブ)
所持金がHPになる
ラストワン|(パッシブ・クールダウン30日)
全賭けのギャンブルに敗北した場合
HP0の瀕死状態で踏みとどまる
ぺーパーロックシザー(アクティブ)
ジャンケンにおいて、相手の手を予想できる
??????
『ギャンブラー』の秘められた能力のひとつ
スキルの効果を複数回発動させることにより、全貌が明らかになる
--------------------------------------------------
『ラストワン』のスキルにある『クールダウン』とは、スキルの連続使用の制限のこと。
普通、同じスキルはMPがある限りは何度でも連続して使える。
しかし、一部の強力なスキルはクールダウンが必要となっている。
その場合は指定された期間が過ぎるまでは、再度の効果発動ができない。
なんにしても……。
俺は職業スキルの一覧を見て、ギャンブラーが『呪われた職業』と呼ばれる理由を知った。
「所持金がゼロになったら死ぬだなんて、厄介すぎるよなぁ……。
そういえばギャンブラーは金の入ったお守りをいつも首からぶら下げてて、寝る時も風呂のときも付けてるらしいな。
まぁ、俺はいつでも転職できるからいいけど」














