04 レオピン大富豪ゲーム
04 レオピン大富豪ゲーム
1年3組が加わったことで、乾杯拒否のクラスは5クラスになってしまった。
乾杯拒否の4クラスを越えてしまった以上、もはやゲームのルールという名の強制はできない。
またしても追いつめられてしまったカケルクン。
彼はとうとう爆発するかに思われたが、またしても教頭が高らかに叫んだ。
「らーっ! もうひとつ、新しいルールを発表するら!」
今度ばかりはさすがにステージ下からも「ま……またーっ!?」と声があがる。
そんな批判もものともせず、教頭のディライラはステージ横にある、書き割りの壁に手をかざした。
すると壁の向こうから10個の宝箱が飛んできて、壁際にどすんと着地。
どうやらディライラは魔法使いらしい。
ディライラが指をパチンと鳴らすと、10個の宝箱は一斉に開く。
すると開いた箱の中から2種類の看板が飛び出した。
5個の宝箱は『アタリ! プラス5千万¥!』の看板。
残りの5個の宝箱は『ハズレ! マイナス5千万¥』の看板。
それだけですべてを察したのか、カケルクンは後を引き取る。
おおげさに感銘を受けたように、涙ぐんでウンウンと頷いていた。
「女の子たちのレオピン君を想う気持ちに、この僕の心も打たれてしまったよ!
だから僕は、レオピンくんにもプレゼントをあげたくなっちゃった!
『レオピン大富豪ゲーム』のはじまりはじまり~っ!
って、おーいっ! レオピンくん! レオピンくーんっ!」
カケルクンが呼びかけても、レオピンはアリンコに夢中で気付かない。
ひとりの生徒が石を投げつけると、コツン! 「いてっ!?」と振り返る。
ステージのほうを向いたレオピンは、思わずギョッとなっていた。
なぜならば、すべての視線が自分に集中していたから。
校長は宝箱の並んだほうを指し示しながら言う。
「レオピンくん! あっちを見て! たくさんの宝箱があるでしょう?
あの宝箱は、今から閉じてシャッフルされるんだけど、そのあとにキミが箱を選ぶんだ!
もし『アタリ』を引いたら、キミに5千万¥をあげちゃうよ!
ただし『ハズレ』を引いたら、僕が5千万¥もらうからね! ねっ!」
レオピンは「はぁ」とさして興味もなさそな相づちをうつ。
「それ以外のルールもいたって簡単! アタリを引けばキミの勝ちで、ハズレを引いたら僕の勝ち!
宝箱を引くのは何回でもいいよ!
もし5個連続でアタリを引くことができたら、キミは2億5千万もの賞金を手に入られれるってわけだね!」
「はぁ」
「ただし途中でやめるのには条件があって、最低でも1回は『アタリ』を引くまでは、リタイヤはナシだよ!」
「えっ? でも俺、1億¥しか持ってませんよ」
「はみ出た分は、ぜんぶ借金ということにしてあげるね! ねっねっ!」
とんでもないことをさらりと織り交ぜつつ、ルール説明は続く。
ここで校長は急に、モナカとコトネに話を振った。
「ここでチャンスターイムっ!
もしキミたちのクラスがレオピンくんに『協力する』と宣言した場合、1クラスにつきひとつ、宝箱の『アタリ』の数が増えるよ!
ただし協力を宣言したクラスは、レオピンくんがひとつでも『ハズレ』を引いた場合、乾杯しなくちゃいけないんだ!
ようは、キミたちがレオピンくんの思い出を賭けて、レオピンくんを有利にするというわけだね! ねっ!」
『乾杯ゲーム』が『レオピン大富豪ゲーム』に変わった理由がこれでわかった。
ゲームにかこつけて、校長はなんとしてもモナカやコトネたちに乾杯をさせたいらしい。
モナカが不思議そうな表情で、小さく手を挙げた。
「あの、校長先生……。ここにいる5クラスが全員、レオくんに協力したら、10個すべての宝箱が『アタリ』となってしまいますが……?」
すると校長は、わざとらしいほどにモジモジした。
「もう、みなまで言わせないでよぉ! さっき言ったでしょ!?
僕はキミたちのレオピンくんを思う気持ちに、心打たれたって!」
モナカとコトネは、蝶よ花よと育てられた箱入りのお嬢様たち。
他人の悪意には疎いのだが、他人の善意には聡かった。
「あっ、す、すみません……! 校長先生なりの、お気遣いだったのですね……!」
「申し訳ありません、校長先生様。わたくしは校長先生様のことを、少し誤解しておりました。
わたくしは賭け事の類いは一切しないのですが、そういうことなのでしたら喜んでご協力させていただきます」
乾杯を拒否した少女たちは純粋で、人を疑うことを知らない。
特に相手が校長という立場の人間なら、なおのことである。
しかし、ひとりの少女だけは違っていた。
「んふっ、きっとなにか裏があるのね。でもいいわ、私も乗るわ。
男と危険は、馬と同じ……乗るためにあるんですもの。
ああんっ、危険な賭けだなんて、なんだかゾクゾクしちゃう……!」
結局、5クラス全員が『乾杯』を賭けて、レオピンに協力を申し出た。
傍らに並んでいた宝箱の、『ハズレ』の札が、教頭の手によって『アタリ』に差し替えられる。
ずらりと並んだ、10もの『アタリ』は壮観だった。
当然のように、不満が噴出する。
「ええっ、ずりー! 全部当たりだなんて、ズル過ぎるじゃん!」
「しかも全部で5億だぜ!? 上位クラスの俺たちが1億なのに、なんであんなゴミっぽいヤツに……!?」
「アイツって『特別用務学級』だろ!? なんてコトネ様もモナカ様もアケミ様も、あんなヤツに肩入れするんだ!?」
しかし彼らの不満は一瞬にして消し飛ぶ。
「それじゃ『レオピン大貧民ゲーム』、スタートだよーんっ!」
校長の合図の瞬間、10個の宝箱がパタンと蓋を閉じ、生徒たちの取り囲んでいた書き割りの壁を、
……ズバァーーーーーンッ!!
とブチ破るようにして四散していった。
一気に開ける視界、広々とした校庭には、なんと……。
千を超えるおびたたしい数の、宝箱がっ……!
飛び去った宝箱は、もはやどこにあるのかもわからない。
唖然となる生徒たちを前に、校長と教頭は、してやったりと大爆笑!
「カカカカカカ! 引っかかった引っかかった!
誰も宝箱が10個だとは言ってませぇ~~~~~~~んっ!
これでレオピンは借金まみれ確定でぇ~~~~~~~っす!」
「ララララララ! わざわざ2千もの宝箱を用意した甲斐があったですら!」
校長と教頭は手を取り合い、るんたったと踊りはじめる。
今まで他人に騙されたことなどないモナカとコトネは真っ白に。
その他の生徒たちは大盛り上がり。
「なんだ、そういうことだったのか! やっぱり校長のほうが一枚上手だったってことか!」
「そりゃそうだよな! あんなゴミ野郎に1¥だってくれてたまるかよ!」
「見ろよ、ゴミ野郎の顔!」
「はははは! もう借金まみれになったみたいに、途方にくれてやがるぜ!」
渦中のレオピンは相変わらず他人事のような顔。
彼はしばらくの間、季節外れの海に漂うクラゲのような、無数の宝箱を眺め回していたが、ふとステージのほうを向くと、
「……本当に、もらっちゃっていいんですか?」
「カカカカカカ! もちろんでちゅよぉ!
好きなだけ、ハズレをもっていってくだちゃ~いっ!
途中でやめたいって言ってもムダでゅよぉ! なんたってアタリを引くまでは止められないルールなんでちゅからねぇ!」
レオピンはまたしても「はぁ」と気のない返事をしたあと、宝箱の森の中にスタスタと足を踏み入れた。
しばらくなにかを探すようにキョロキョロと歩き、ある宝箱の前に止まると、なんのためらいもなくそのフタを開けた。
……パカッ!
直後、ファンファーレそして紙吹雪とともに飛び出す『アタリ』の看板。
「はっ……はっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」
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