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第162話 凌駕、如く

───ERROR最後の特機『テスタス』。

その装甲はあらゆる攻撃を諸共せず、その鉄槌はあらゆる物質を破壊する。

苦戦を強いられる神威、アギト。三機の戦う地形は激しい戦闘で変形しており、周りに生えてある大木さえ圧し折られていた。

戦艦に向けて鉄槌を投げたテスタスだったが、龍の魔法により戦艦の破壊を阻止されてしまい更に魔神に鉄槌を弾かれてしまう。

だが、テスタスは右手を広げ光り輝く魔法陣を発生させると。弾かれた鉄槌が宙に浮きテスタスの手元に引き寄せられていく。

そして軽々と鉄槌の柄を受け止めると今度は二本の鉄槌を同時に投げる為に再び構え始めた。

「させるかよ!」

大きく振り被ったテスタスは神威にとって隙だらけの格好の的。

右手にプラズマを溜めた神威が瞬時にテスタスの背後に回りその拳をぶつけるが、テスタスは特に動じる事なく鉄槌を振り下ろし始める。

すると両腕を上げたテスタスの懐にアギトが横から滑り込むように入ると右腕の拳を振り上げ構えた。

「必ず止めてみせる!」

先程はテスタスの力に圧倒されアギトでさえ止める事が出来なかったが、今度こそテスタスを止めるべくアギトは巨大な右腕に付いてある拳をテスタスの胸部目掛け突き出した。、

拳の直撃により衝撃が波紋のように全体に拡散すると、空間を歪め突風を巻き起こす。

しかし、その一撃を受けても尚テスタスがその場から動く事はなく、吹き飛びもしなければその分厚い胸部の装甲を破壊する事すら出来ない。

「そんな……」

渾身の一撃をたしかに与えたはず、それだというのにアギトの拳はテスタスを破壊する所か動かす事すら出来ない。

一部始終を見ていた羅威もまた動揺してしまうが、鉄槌を振り上げるテスタスの目の前にいるアギトこそが標的だという事に気付いてしまう。

「しまった、奴の狙いは───愁!」

「っ!?」

羅威の声を聞き愁もまたテスタスの狙いに気付くが、既に鉄槌はアギトを挟むように左右から振り下ろされていた。

瞬時に左右の腕を広げ鉄槌を受け止めるアギトだったが、鉄槌の力はアギトの腕力すら上回り徐々に押し潰していく。

「アギトがッ───!」

押し返そうとするものの鉄槌には更に力が加わりアギトの各間接に異常をきたしていく中、テスタスの背後に回っていた神威がテスタスの肩の上に乗るとプラズマを纏った右手の拳をテスタスの頭上に振り下ろした。

戦場に雷鳴が轟きテスタスを覆い尽くす程の青白いプラズマが放たれテスタスの全身に稲妻が走っていく。

すると、今までどの攻撃にも動揺しなかったテスタスが足元をフラつかせると、鉄槌の力が弱まりその隙にアギトは後方に跳びテスタスの間合いから離れていく。

テスタスの間合いからアギトが離れた以上次に狙われるのは神威になる。

その事にいち早く気付いた羅威はアギトがテスタスの間合いから脱出したのを確認した直後、テスタスの肩を踏み台にして跳びアギトの方に歩み寄る。

「愁!大丈夫か!?」

「うん、ありがとう羅威。また助けられちゃったね……」

羅威に心配され機体の状態をチェックしていく愁。僅かな損傷が確認できたものの、時間か経過していく事に自動的に機体の傷が癒えているのを見て少し戸惑ってしまう。

(これが皆のレジスタルを……意思を受け継いだアギトの力……)

他のDシリーズと比べて圧倒的な力と防御力を兼ね備えた機体『アストロス・アギト』。

今では『真』の姿に覚醒し自己再生能力に加え魔法を使った強力な攻撃を繰り出すことさえ出来る。

だが、愁には魔法を使う為の発動条件が分からなかった。

前回のEDP、感情が高まり咄嗟に発動出来たアギトの魔法。その黄金の豪腕から繰り出される一撃はERRORを跡形も残すことなく消滅させてしまう程の力だった。

(もう一度、あのERRORのオリジナルを倒した時の力を発動する事が出来れば……!)

「───おい、愁。聞いているのか?」

何やら話しかけられていたらしく愁はその声を聞いて我に返ると、自分が考えていた事を素直に話していく。

「ごめん。あのERRORを倒す方法を考えていたんだ。俺のアギトは前に魔法を使ってERRORを倒す事に成功したから、今回もその力が使えたらいいんだけど……」

「奴を倒す方法。分かったぞ」

「えっ?」

羅威の思いがけない言葉に愁は驚くと、羅威は前を見つめ鉄槌を構えるテスタスを睨みつける。

「奴は他のDoll態とは違う。さっき俺が奴の頭部にプラズマを放っただろ?その時、奴はまるで目眩をしたかのように足元をフラつかせた。この意味が分かるか?」

「意味って、それは神威のプラズマの影響でERRORの頭が……」

「どうしてDシリーズと同じ原理で動くDoll態が頭部に損傷を与えられて怯む?Dシリーズの動力源は基本背部、それに頭部には制御系の回路は無いはずだ。今まで全身に攻撃を受けて怯まなかった相手が、唯一頭部に攻撃を直撃させた時のみ怯んだ……となると、奴は『機体』じゃない」

機体ではない。その言葉に愁は一瞬困惑してしまう。

たしかにDoll態は血肉に覆われており機械と血肉が混ざり合った生命体である為、厳密に言えば機体ではないかもしれない。

「俺の予想が正しければ、奴の中身は機械ではなく生身だ」

テスタスとの戦いで導き出した答え、それはERRORの特機『テスタス』が通常のDoll態ではなく生身の生命体だということだった。

「生身……それじゃあ、あのERRORはDoll態とは別の種類のERRORで、あの全身の装甲は鎧を着てるだけって事?」

「ああ、だがただの鎧じゃない。全身にブースターを埋め込み、この世の物質で作られたとは思えない程の頑丈な鎧だ。ERRORの技術力だからこそ完成出来た存在……俺達の攻撃が通用しないのも納得だが、それでも奴の頭部にダメージを与えのは事実。後は分かるな?」

「頭部への集中攻撃……!」

無敵かと思われたテスタスの弱点を見つけ二人の活力が湧いてくる。

例え勝つ方法が危険で困難だとしても、愁と羅威にそれを拒否する選択肢はない。

「間合いに入り頭部を攻撃するのはリスクが高いが、今の奴を倒すにはこの方法しかないはずだ。それとも、お前の機体が魔法を使うと言うのなら話しは別になるが……使えるのか?」

「……分からない。でも、アギトは俺の意思に答えてくれるはず……その時が来たら、アギトを信じて使ってみせるよ」

「分かった、期待してるぞ」

(意思、か……)

ふと、あるBNの戦艦に視線を向ける羅威だが、直ぐに視線を戻すと神威の拳を構えてみせる。

「無駄打ちはするな。隙があろうと攻撃を与えるなら頭部のみだ。いいな?」

「了解!」

目標は決まった。

肩を並べて立っていたアギトと神威は一斉に二手に別れ挟み撃ち形でテスタスに接近していく。

そしてアギトは右腕を、神威は左腕を振り上げると、テスタスの立つ地面に向かって拳を振り下ろした。

二人の息は完璧だった、同時に地面を殴り巨大な亀裂を走らせていくとテスタスの足元の地面を破壊し無理やり体勢を崩させる。

僅かな隙を逃しはしない。テスタスが体勢を崩した瞬間、プラズマを纏った神威の右拳がテスタスの後頭部を殴り、正面からはアギトの左拳が顔面を殴り互いの攻撃がテスタスの頭部に直撃する。

体勢を崩したテスタスは二機の同時に攻撃に再び怯み両手に握っていた鉄槌を地面に落とし二人は確かな手応えを感じた。

すると、鉄槌を手から落としたテスタスは右手でアギトの左腕を掴み、左手で神威の右腕を掴むと、意図も簡単に捥ぎ取ってしまう。

油断をしていたのはテスタスではなく攻撃した二人の方だった。

今までいかなる攻撃を繰り出しても怯ます事の出来なかったテスタスを、同時攻撃を行い怯ませると同時に確かな手応えを感じたのだ、僅かに心に余裕をもってしまった。

確かに二人の攻撃はテスタスに多大なダメージを与えたと思われるが、それはテスタスにとって取るに足らない出来事だった。

むしろアギトと神威が次に自分のどの箇所を狙ってくるのかが分かる為、二人の動きはテスタスによって誘導されたものに過ぎない。

片方の腕を捥ぎ取られた二体の機体、直ぐにでもテスタスの間合いから離れると思われたが、二人はまだ諦めてはいなかった。

テスタスが地面に落とした二本の鉄槌。腕を捥ぎ取られた二体は直ぐにその鉄槌を柄を掴むと、機体の持てる力の全てを出して巨大な鉄槌を握り締め、構えてみせた。

「これで───ッ!」

計算していた訳でも打ち合わせをしていた訳でもない、咄嗟の判断で愁はテスタスの鉄槌を利用する事を思いつき、実行に移す。

「どうだぁああああああああ!」

それは羅威も同じ。作戦の一つが通用しなかったからといって二人の意思が折れる事はなく、目の前の敵を倒す為常に状況を判断し行動してみせる。

機転を利かした同時攻撃、アギトがテスタスの正面から鉄槌を振り下ろし、その背後からは全身に稲妻を走らせる神威が鉄槌を振り下ろした。

巨大な鉄槌はテスタスの胸部と背部、同時に直撃し鈍い金属音が戦場に鳴り響くと、二体の捥ぎ取った腕を掴んでいたテスタスがその衝撃に動きを止めてしまう。

この時、二人は攻撃が効いたのか分かっていなかったが、テスタスは肉体を損傷させられる程の攻撃を初めて身に受けた事に動揺していた。

腕を捥がれ戦意喪失するかと思えば、目の前にあるチャンスを全て活かし戦ってくる。

これが人間と呼ばれる存在……心の底から湧き上がる感情、それは恐怖でもなければ人間を見下すものでもない。

初めて戦場で巡り合えた好敵手、その存在に感極まっていた。

自らの鉄槌をその身に受けテスタスの装甲に亀裂が走ると、その装甲を叩いた鉄槌にも亀裂が走っていく。

防具と武器、其々に損傷を与える事に成功、するとテスタスは両手に魔方陣を発生させると無理やり鉄槌を奪い返す。

鉄槌がテスタスの手元に戻り一度後方に跳び距離を取るアギトと神威だったが、テスタスの胸部に走る亀裂を見て愁は確信した。

(あのERRORを倒せるのは───今しかない!!)

胸に手を当て目を瞑る愁。今はただ、あの時のように信じるしかない。

「皆……もう一度、俺に力を───ッ!」

ここで使えず何が魔法か、何が力か。

アギトの全身に鏤められたレジスタルが愁の思いに答えるかのように光りを発すると、アギトの全身に力が漲っていくのが感じられた。

右腕を捥がれ後方に下がっていた神威。羅威もまた操縦席から覚醒したアギトの姿を確認していた。

「あれはっ!?……どうやらお前の意思に答えてくれたみたいだな。愁」

その身に覇気を纏う『真』の姿へと覚醒するアストロス・アギト───時は来た。

一瞬でその場から姿を消し、音速を超えてテスタスに近づいていくアギト。するとテスタスはまるでアギトが来るのを待つかのように鉄槌を構え動きを止めた。

繰り出される激しい連打。アギトは右腕一本だけで瞬く間に拳を振るいテスタスの頭部、そして亀裂の走った胸部目掛け攻撃を繰り出したが、拳は全てテスタスの鉄槌に叩かれ攻撃を防がれてしまう。

(覚醒したアギトの速度についてこれるなんて……っ!)

背後に回り隙を突こうにもテスタスもまた今までよりも更に速さを増してアギトと交戦していく。

鉄槌と拳がぶつかり合う度に衝撃で風が舞い、大地を震わせけたたましい轟音が響き渡る。

(速度は互角……それなら、あれをやるしかない!)

一旦テスタスとの距離を置き空高く跳ぶと、天に向けて右腕を高らかに振り上げた。

「この一撃に、全てを籠めるッ!!」

拳を中心に光り輝く巨大な魔法陣が描かれると、アギトを中心に無数の陣が描かれ陣から輝き溢れる光がアギトの拳に集まり、まるで光の集合体のような天を貫く巨大な腕を形成していく。

黄金に輝く神々しい豪腕。それは以前のEDPで作り出した腕そのものだった。

その光景に切り株座るセレナは見惚れ、甲斐斗もまた目を奪われる。

アギトの全身に鏤められたレジスタルも眩い光を放ち、アギトはその光の鉄槌をテスタスに向けて振り下ろした。

「砕け散れええええぇぇぇぇッ!」

真・アストロス・アギトから放たれる究極の一撃。

その光景を見てテスタスは逃げも隠れもしない。堂々とその場に踏み止まると両手の鉄槌を盾に構えてみせた。

テスタスはあのアギトの一撃を受け止める気でいる。その覚悟はERRORだろうと見事なものだった。

そして上空から振り下ろされる黄金の拳を、テスタスは二本の鉄槌で受け止めてみせたのだ。

テスタスの立つ地面には巨大な亀裂が走り地面に埋め込まれそうになるものの、その強靭な肉体で跪く事無く受け止めている。しかし、テスタスの二本の鉄槌に入っていた亀裂が徐々に広がっていくと、もうテスタスがアギトの攻撃を受け止められるのも長くはない。

アギトの攻撃力が勝つか、テスタスの防御力が勝つか……。

「っ───」

アギトの覚醒が終わりを迎え黄金の右腕が光を失い元の形に戻る。

全ての力を出し切ったアギトは力無く地面に跪くように着地すると、拳を振り下ろした場所に向けて頭を上げた。

アギトの拳はテスタスの鉄槌を光輝く塵へと変え、完全に消滅する事に成功。

しかし……テスタス本体を完全に消す事は出来なかった。

装甲の至る箇所には亀裂が走り傷付いているものの、テスタスは不動のまま地面に立っている。

だが、流石にテスタスと言えどアギトの一撃を受けて無事なはずがない。不動なのがその証拠になり、まともに動ける状況ではないのだろう。

等と思っていた矢先、テスタスは一瞬でアギトの眼前に姿を見せると、アギトの右腕を掴み強引に引き千切ってしまう。

「そんな馬鹿な!?」

右腕を捥がれつつも距離を取ろうと下がるアギトだが、テスタスは引き千切ったアギトの腕をその場に捨てると拳を振り上げ全力で突進してくる。

覚醒を終え力を使い切ったアギトにその拳を避ける程の余力は無く、振り下ろされた拳はアギトの胸部を殴り巨体のアギトを軽々と吹き飛ばしてしまう。

「がッ───!?」

まるで弾丸のような速さで吹き飛ばされた後、アギトは森にある大木に叩きつけられてしまう。

痛みは感じない。だが全身を震わす衝撃は確かに感じ取る事が出来た。

指先一つ動かせず、全身を覆うような脱力感に襲われていくと呼吸が思うように出来ず息苦しくなっていく。

「あっ、か……」

意識が朦朧としはじめ、愁はただおぼろげに映るテスタスを見つめる事しかできない。

もう一度テスタスの一撃をその身に受ければアギトは破壊され、愁が絶命するのは確実だろう。

叩きつけられたアギトに止めの一撃を繰り出すかと思われたテスタスだったが、何故かアギトに近づこうとしない。

それはテスタスが戦の猛者であり、背後から感じる絶大な『力』を感じ取っているからだった。

虫の息の相手に用は無い。そう思わせるかのようにテスタスはアギトから視線を逸らすと、ゆっくりと後ろに振り返り背後に感じていた『力』を確かめた。


───雷神。

そこに立っていた化身は、全身に稲妻を走らせ鋭い眼光で睨みつける神威だった。

無限に膨れ上がっていく力。今にも暴走し、爆発してもおかしくない状況下で、神威はその力の全てを左腕に付けられたある物に籠めていた。

アギトが覚醒した最中、羅威はBNのある艦に通信を繋ぎある要求をしていた。

元々この戦場に共に来るはずだった者。その人間が乗る専用の機体の予備として持ち込まれた武器。

右腕を捥がれ、左腕だけを残したその手に付けられているのは、あのエンドミルが取り付けていたドリルだった。

神威の力を受け高速回転し続けるドリル。

その加速は留まる事を知らず、神威から溢れ出る全ての力、そして羅威の意思に答えるかのように勢いを増していく。

操縦席内にも夥しい程の電流が流れ、羅威にもその影響が現れていた。

「ERROR、今度は、俺『達』の゛……全力ッ、受けてみろ゛ッ……!」

もはや機体の限界は既に突破しており次々に装甲や操縦席にある機器が火花を散らし破壊されていく。

この状態ではもう機体も羅威も長くはないだろう。

それは意識が朦朧とする愁でさえも容易く理解出来る程の現実。

(駄目だよ、羅威……このままだと、君が───)

震える腕を伸ばし羅威を止めようと言葉を出そうとするが、口が開かず思うように言葉が出ない。

既に覚悟は出来ている。それは死ぬ覚悟ではなく、ERRORに勝つ為に自分が発揮できる『全力』の代償をだった。

青白いプラズマを纏っていた神威が、何時しか黄金のプラズマを身に纏いはじめる。

そして回転が加速していくドリルの先端をテスタスに向けると。羅威は目を見開き神威を前進させた。

閃光の如く神威は一瞬でテスタスに接近しドリルを突き出し、その先端がテスタスの胸部に触れようとした瞬間、あろうことかテスタスは神威の動きを見切ると両手を突き出し胸部に触れる寸前でドリルを掴み受け止める事に成功する。

だがドリルの回転と神威の勢いは一切衰えない。

テスタスはそのまま神威に押し出され大木が生い茂る森の中に突き進む形となる。

そしてテスタスが大木に叩きつけられようが次々に木々を圧し折りながら神威はテスタスを盾に突き進み続ける。

ドリルを受け止めていたテスタスの手は摩擦で赤く染まり熱を帯びていくと、徐々に手を磨り減らしその熱で蒸発させていく。

そうなればもう神威のドリルを止める術はなく、先端がテスタスの胸部に突き刺さると更に加速し突き抜けていった。

唸りを上げて胸部にドリルが突き刺さると、羅威の思っていた通りその身には血が通っており、夥しい量の赤い血が噴出し始める。

ドリルの熱と神威のプラズマにより血液は瞬く間に蒸発し、テスタスは全身を痙攣させながら抵抗する事も出来ずその身を焦がしていく。

しかし神威の力は収まらない。神威から溢れ出る力はドリルだけでは発散が間に合わず、神威の左腕にも強力なプラズマを帯び始める。

それを見て羅威はニヤリと笑みを見せると、ドリルの先端を地面に向けテスタスを大地に串刺した。

だが神威の勢いは留まる事を知らず、地面に突き刺したまま進み続ける神威。テスタスは地面に叩きつけられても尚ドリルに固定され抗うことが出来ず、地面を抉り土を巻き上げながら進み続ける。

ドリルの根元は既にテスタスの胸部にまで進入し既に息絶えた後だったが。相手はERROR、どんな可能性を秘めているか分からない為完全に消す必要があった。

だからこそ羅威は神威の左腕に溜まる力を見て笑みを浮かべてしまった。

まるでその力がテスタスを完全に消し去る為に用意された力に思えてしまったからだ。

「これで───終わりだァッ゛!!」

これ程の力を解放すれば自分もタダでは済まないだろうが、その絶大な威力だからこそテスタスに向けて放つのに意味がある。

羅威は電流の影響で体が思うように動かす事が出来ないが、プラズマを放つ為に必要な引き金を引く指先だけは震える事なく力を込めて引くことが出来た。


───アギトに乗っている愁の耳に遠くで何かが爆発した音が聞こえてきた。

地響きが伝わる中、愁は操縦桿を握り締めアギトを立たせると、爆発の起きた場所を目指して走り始める。

無意識に涙が零れ落ち、頭の中では決して認めたくない現実を否定し続ける。

「羅威ッ!!」

名を叫んだ所で返事が返ってくる事はなく、爆発の起きた場所に辿り着いた愁は息を呑んだ。

辺り一体の木々が消滅し、黒く焦げた機体の残骸が辺りに散乱している。

地面からは黒い煙が何本も昇り所々火花を散らしていた。

両腕を捥がれたアギトがその場に跪く、それは愁の心が折れた事を意味していた。

ERRORに勝った事えの喜びは殆ど無く、親友の死は愁の心に大きな傷を生んでしまう。

視界が涙でぼやけ、愁は涙を拭っていると、ふと視界に何かの光が反射してくるのが見えた。

もう一度涙を拭い目を擦る、そしてしっかりと前を見つめると、黒く焦げた機体の残骸の中に微かに金色に輝く物が見える。

考える事よりも先に愁の体は動いていた。一目散に瓦礫の元に駆け寄ると、その黒く焦げた物体が神威の胸部だという事に気付く。

愁は機体の操縦席を開け機体から下りると胸部と思われる残骸の上に昇り操縦席の扉を開けてみせた。

「羅威……?」

目の前の広がってきた光景。そこには澄んだ表情で操縦席に座り、操縦席を開けて差し込んでくる日の光を見て眩しそうにしている羅威の姿があった。

「愁か?どうやら無事みたいだな。あのERRORはどうなった───」

「羅威!?無事なんだね!!」

それは奇跡だった。

あの爆発の中で機体は大破したものの、操縦席に座っている羅威はこれといった外傷はなく元気そうにしている。

先程まで全身が重く気力も湧き上がらなかったのに、今では嬉しさの余り大声が出てしまう。

咄嗟に手を伸ばし羅威を引き上げようとする愁、それを見て羅威は愁を見つめると、手を伸ばさず静かに呟いた。

「無事……じゃあないけどな」


───両腕を失いボロボロに傷付いたアギトが戦艦の格納庫に戻ってくる。

操縦席からは羅威を抱かかえた愁が降りてくると、真っ先に視界に入ってきたのがアリスだった。

「羅威!愁!」

アリスは名前を呼び目に涙を浮かべ二人の元に近づいてくると、その声に気付いた羅威は目を開け軽く笑ってみせた。

羅威は生きている。その事が分かっただけでもアリスの目から涙が零れ落ち、愁の前に立ち止まる。

「二人とも無事で良かった……ほんとにっ、もう……」

嬉しさの余り言葉が出てこないが、その感情はアリスの涙を見れば簡単に理解できる。

愁は近くにあったストレッチャーに羅威を寝かせると、その場に崩れるように跪き壁に持たれかかってしまう。

「つか、れ……たっ……」

激しい戦闘で魔法を使い体力を消耗した愁。今まで眠る事は無かったが、久しぶりに睡魔に襲われ目蓋を閉じてしまうとすやすやと寝息をたてながら眠りについてしまう。

一瞬愁の身に何か起きたのかと不安になり寝ている愁の容体を見ていくアリスだが、ただ単に寝ているだけと気付きホッと胸を撫で下ろす。

そして今度は羅威の容体を見ようと羅威の方に視線を向けると、羅威はアリスを見つめながら口を開いた。

「すまないアリス……せっかくお前がリハビリにつきあってくれたのにな……」

「えっ……?」

羅威の言葉の意味に気付けずアリスは戸惑うが、言葉の意味を理解し咄嗟に羅威の手を握りしめてみる。

握り返してくれない。筋肉が全く反応しておらず、アリスは腕だけでなく羅威の足や腹部に触れてみるが、どの箇所もアリスの触れた指先に反応はしなかった。

「無茶しすぎてな。腕所か首から下が全く動かない有様だ……」

羅威は不安だった。この事を聞いてアリスが悲しむのではないのかと。

たしかに命は助かった。しかし体には全く力が入らず動く事さえ出来ない。こんな自分を見てアリスは何を思うのか───。

不安でアリスから目を逸らしてしまう羅威。すると突然体を引き寄せられると目の前には涙ぐむアリスが顔を近づけていた。

「それならまた私が羅威の手になるだけだよ!足だって同じ!……私がずっと側にいる、だからまた一緒に頑張ろうね。羅威」

涙を零しながら優しく微笑んでくれるアリスを見て、羅威もまた涙を流し始める。

優しい言葉をかけられなんて言葉を返していいのか羅威には分からないが、優しく抱き締めてくれるアリスの温かさが心地よく、ふと目蓋を閉じると愁同様に羅威も疲れ果てていた為静かに眠りについてしまった。



───「おい、お前のご自慢の特機は全滅したぞ」

合計で何百機のDoll態を破壊しただろう、戦艦の回りにはDoll態の残骸が山のように積まれていた。

戦艦の上に立つ魔神は剣を背部に仕舞い余裕の表情で腕を組んでおり、守るものがいなくなったセレナを見つめていた。

『そのようですね』

いつも笑みを浮かべていたセレナだったが、特機の全滅に少しばかり動揺し何かを考えるかのように視線が下がっていた。

『これは予想外で……いえ、これもまた予想通りですね』

何か深い思惑を漂わせるようなセレナの表情と言葉に甲斐斗は飽き飽きしながら魔神の剣を構えてみせる。

「なに強がってんだ?お前今どれだけ追い詰められてるのか分かってねえな。まあいい、殺す」

Doll態の湧きも止まり特機も存在しない今。戦場での脅威はセレナのみとなった。

直ぐにでもその場から跳びセレナの元に駆け寄ろうとした時、甲斐斗の脳裏にある言葉が過ると、魔神の足を止め再びその場に留まった。

「そうそう、戦う前に一つお前に聞いておきたい事があったんだ」

戦う気満々だった甲斐斗が冷静になり、切り株に座るセレナを見つめながら話し続ける。

「意味不明で何を意味するのかさっぱり分からねえが、ちらほら耳にする言葉───」

今まで聞いてきて、誰にも聞いた事の無かった言葉。

特に気にしていかなかったが。ふとその言葉の意味をセレナに聞いてみたかった。

恐らく重要な事なのだろう。テトも、神も、アビアも呟いたあの言葉。

「Deltaプロファイルって……知ってるか?」

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