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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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予定通りにはいかぬもの

「これでやっとハルカさんたちを里に案内できますわね!」

「すまぬがしばらくは無理だ」


 エリザヴェータと共に王国軍が動き出したところで、エイビスがニコニコしながら声を上げると、ベイベルがそれを即座に否定する。


「なんでですの?」


 しゅんとしたエイビスに一瞬動揺したベイベルであったが、首をゆっくりと横に振って、事情の説明を始めた。


「まず、陣を引き払うのに数日かかる。我がハルカ殿らを信頼していないわけではないが、外のものを里に招き入れる以上、里には戦えるものを置いておくべきだ」


 王国との微妙な関係が長く続いたため、エルフたちは人を森に招くことに慎重になっている。今回の戦のこともあって、人に対する不信感は更に高まっていることだろう。

 そんな中でハルカたちを招き入れても、里の者は不安に思うだろうし、ハルカたちだってよい思いはしないはずだ。ベイベルとてハルカを里に招き入れたい気持ちは山々であったが、指導者たるもの、個人的な感情で動くわけにはいかない。


「それに、【ディセント王国】との関係が変化した。しばしそのことを里の者に伝え、これから関係が変わっていくことを理解してもらわねばならない。それをする前にハルカ殿たちを招いては、話を聞いてくれる者も聞いてくれなくなる可能性がある」

「なるほど……、それは無理にお願いするわけにはいきませんね」

「さらに言えば……、【テネラ】には、ナギ殿が自由に下りられるような場所がない。どこまで行っても森であるからな」

「そうですよねぇ」


 ハルカがチラリとナギの方を見ると、ナギがそっと顔を寄せてきていた。

 話は聞こえていなかったようだが、今名前が呼ばれたことには気づいたのだろう。

 何かいいことかと期待していそうなその顔を見ると、【テネラ】に行くために留守番してね、とはお願いしづらい。


「さらに言えば、大樹林様への報告の時に、よその国の者がいるのも問題がある」

「大樹林様、というのは……、エルフの古老の方ですか? ベイベル殿が最古老だとばかり思っていましたが……」


 てっきりエルフの里は、それぞれの里の古老が指揮を執っているものだとばかり思っていたが、この話だとどうやら、ベイベルが敬意を表するような何かが存在するらしい。


「大樹林様はエルフではない。ただ長い期間、我らエルフを見守り続けてきてくれた樹木をそう呼んでいる。数万年にわたり生きてきた大樹林様は、一本の大きな幹と、根でつながった数万本の木で全体が構成されている。我らエルフは、代々何か大きな変化があると、その度大樹林様に報告をしてきたのだ」

「……その大樹林様って、木なんだろ?」


 話が飲み込めなかったアルベルトが首をかしげながら質問する。

 なかなか失礼な物言いであったが、ベイベルは気にした様子もなく真面目な顔で答えた。


「そうだ。しかし意思を持っていらっしゃる」

「喋んのか?」

「そうだ。口があるわけではないが、我らと会話することができる。遥か昔にオラクル様が、エルフの住まう森を見守るための管理人として、大樹林様に力をお与えになったのだとか」

「そういう事でしたか。また少し時間を置いてからお邪魔させていただいたほうが良いようですね。その時には、良かったら大樹林様にもご挨拶をさせてください」

「それもお伺いを立てておこう」


 なるほど、エルフの森を管理する真竜のような存在だと考えればわかりやすい。

 樹木が意思を持つと聞くと、ドライアードのようなものなのかとも思うが、成り立ちを考えると、樹木が魔物化した存在のようにも思える。どちらにせよオラクルの意思が加わっている以上、普通の存在ではないのだろうけれど。


 とにかくこうなってしまうと、エルフの森を案内してもらうことは難しそうだ。

 すっかり落ち込んでいるエイビスを、コリンが慰めている。


「すみません……、いつでもいらしてくださいと言っておきながら……」

「しょうがないじゃん。悪いのは反乱軍だしさー。気にしない気にしない!」


 そもそもナギがいるとお留守番させてしまうことになるので、ハルカとしても今回は遠慮しておきたいところだ。ここまできて、ナギを森の外に待たせてしばらくの間【テネラ】観光となると、流石にかわいそうすぎる。


「さて、王国軍も去っていくようだ。我らも陣へ戻って引き払うとしよう」

「私たちもそうしよう。国内に危険は去ったと伝える必要もある」

「あ、送っていきますね」


 ベイベルもロルドも、昨晩は付き合ってくれたが暇をしているわけではないのだ。

 里や国へ帰ればやるべきことは山ほどある。

 あまりのんびりとここにとどめておくわけにはいかない。


 荷物をまとめてその場にいる全員でナギの背に乗り込んだら、すぐに空へと飛び立つ。

 ベイベルとエイビスを【テネラ】に。

 ロルドとガーレーンを【フェフト】に送り届け、ハルカたちは帰路につく。

 当初の予定とは大幅にずれてしまったけれど、エリザヴェータの戦いに付き合った以上仕方のないことだ。


 それに収穫がまるでなかったわけではない。

 エリザヴェータの役に立つことはできたし、【テネラ】と【フェフト】に新たな知人ができた。

 【テネラ】には、古代からの情報を持っていそうな大樹林様という存在がいることも明らかになったので、またそのうち訪ねてみれば、新たな知見も得られることだろう。


 前向きに考えながらも、ノクトがいないことが少し寂しいハルカは、ユーリを膝の上に乗せたままぼんやりと今回のリザルトについて思いを巡らせるのであった。

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― 新着の感想 ―
愛娘に対して、「ママ、観光に行ってくるからお留守番しててね」なんて言えないよね
すごいですね!1500話を越えて、この品質で話が書けるのは本当にすごいと思います。普通は特級冒険者になると、あとはおまけのような話になってしまうのに、それ以後も質が落ちずにずっと書き続けられる力が本当…
テネラに行くのはまた1000話以上後かな…?
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