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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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エリザヴェータの息抜き

 エリザヴェータが合流した場所にいたのは、戦前の会議室にいたのとほとんど同じ顔ぶれだった。すなわち、ハルカたちの仲間と、【テネラ】のベイベルとエイビス、それに【フェフト】のロルドとガーレーンである。

 酒は飲んでいないようだが、それなりに打ち解けており楽しそうだ。

 その光景は、これからの三国の未来を見るようで、エリザヴェータにとっては嬉しいものであった。


 当たり前のように普通に輪の中に受け入れられたエリザヴェータが腰を下ろすと、すぐに立ち上がったコリンを制し、エニシが食事と飲み物を用意して近寄ってくる。

 エニシは以前、エリザヴェータと夜半まで腹を割って話し合ったことがある。

 それ以来二人は、友人のような、相談相手のような間柄になっていた。

 そんなエリザヴェータが見事に戦に勝利したのだから、祝いの一つくらい言おうとやって来たのである。

 ちなみにハルカは、アルベルトに捕まって今回活躍できなかったことを愚痴られている。モンタナのように役割を与えられず、エニシとユーリの護衛をして待機しているだけで戦いが終わってしまったので、力が有り余っているようだ。


「リーサよ、戦勝おめでとう。見事な勝利であった」

「うむ。ほとんど私の手柄ではないがな」


 エニシが小さな声で祝いの言葉を述べれば、エリザヴェータも苦笑しながら事実を返す。今回の戦いでエリザヴェータがしたことと言えば、タイミングを見て大きな声を出したことくらいである。

 戦は始まる前にほとんど勝敗が決まるとはいえ、あまりにやることが少なかった。


「部隊を整えたのはリーサであろう。勝ちは勝ち。流石大国の女王様の先見の明には恐れ入る」

「未来読みの巫女がよく言う」

「知っていたのか」


 エリザヴェータの返答にエニシが目を丸くする。

 その反応が想像通りで、エリザヴェータも素直に笑った。


「調べたのだ」

「ならば良くない噂も聞いたであろう」

「うむ。人を率いるというのはそういうものだ。名誉も大きいが、ひとたび失敗すれば批判も大きい。そちらはどうなのだ? 何か進展は?」


 気にした様子のないエリザヴェータを見て、エニシは素直に感心してしまった。

 自分よりも随分と若いはずのエリザヴェータがしっかりしているのを見ると、なんとなく自身も頑張らねばという気持ちになる。


「相変わらずハルカにおんぶにだっこだ。最近では開き直って、自分のできることだけでもしっかりやろうと考えておるところだ」

「ふっ、それが良い。しかし……ふむ。最近は噂の未来読みはしているのか?」

「……ハルカのことを見ようとして、一度倒れたことがあってな。それ以来控えている」

「そうか。折角だから見てもらおうかと思ったのだがな」


 エリザヴェータの申し出に、エニシは少しばかり疑問を覚えて黙り込む。

 エニシに未来を見てほしいと言ってやってくる者の多くは、心のどこかに不安を抱えた者だった。だから、自信満々であるように見えるエリザヴェータがそんなことを言い出すのが不思議だったのだ。

 エニシはじっとエリザヴェータの目を見つめて黙り込む。


「なんだ?」

「……いや、何か不安でもあるのかと思ってな」


 考えを素直に口にすると、エリザヴェータはふっと笑う。


「そんなつもりはなかったが、今は大詰めの時期だからな。未来が見えるなどと聞けば、聞いてみたくもなるものだ」

「ふぅむ……。【朧】にはな、昔の侍が残した言葉がある」

「なんだ?」

「人事を尽くして天命を待つ。できる限りのことをやれば、あとは運を天に任すしかないということだ。我はリーサのことをそれほど知っているわけではないが、それでも立派な女王であることは一目瞭然だ。機を読み、兵を育て、場を整えている。それでもなお心配だからと、力を貸そうとする、ハルカやノクト殿のような強者との縁がある。我のあてにならぬ未来視よりも、積み重ねてきた歴史の方が、よほど鮮明に未来を示しているのではないだろうか」

「なるほど、良いことを言う」

「うむ、我とて元はコトホギの巫女総代。人を導くことこそ我が使命」


 腰に手を当てて胸を張ってみせるエニシ。

 威厳があるというよりは可愛らしい仕草であった。

 故郷ではさぞかし大事にされていたであろうことが見え隠れしている。


 そんなエニシに、エリザヴェータは悪戯っぽく笑い、こっそりと小さな声で告げる。


「つまり、私は爺を婿に迎えられるということか」

「……そっちであったか」


 変な顔をしたエニシを見て、エリザヴェータはまた声を抑えながらくつくつと笑った。ハルカが連れてきてくれた巫女は、なかなかに人情に厚くからかいがいがある。


 エリザヴェータが楽しい時間を過ごしていると、不意に近寄ってきたロルドが「隣、いいだろうか?」と声をかけてくる。


「もちろんだ」


 エリザヴェータが少し席を詰めて場を空けてやると、ロルドが腰を下ろして顔を覗き込んでくる。親類であるらしいと聞いてはいたが、近くでよく見てみれば、ノクトと少し似た顔立ちをしている。

 ロルドには、ノクトとの関係の外堀を埋めるために、分かりやすく熱量を込めた手紙を送っている。

 会談での様子を見る限り、ロルドは聡い王であるから、きっとエリザヴェータの気持ちについても理解しているはずだ。

 【フェフト】として、【フェフト】の王としてはどんな見解を持っているのかが気になっているところだったので、ロルドの方からやってきてくれたのは、エリザヴェータにとっては都合のいいことであった。


 どうやらロルドはエリザヴェータの下へやって来る前に、ノクトにベイベルの相手を押し付けてきたようである。ベイベルに負い目のあるノクトは、ロルドのことを気にしながらも、すぐに話は切り上げられそうにない。

 ロルドは素早くその様子を確認してから、すぐにエリザヴェータに少し顔を寄せて小声で言った。


「腹を割って話そう」

「うむ、なんだろうか」

「私としては、エリザヴェータ殿の気持ちを応援したいと考えている」

「ほう、なるほど?」


 にっかりと笑うロルド。

 どうやらこの密談は、エリザヴェータにとって悪い話にはならなそうであった。

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― 新着の感想 ―
雰囲気(ふんいき)は良くある (ふいんき)雰囲気でも最近可 言葉が生物だからしょうがない 最近のマイブーム(  )は真実と事実ですね
ノクトのターン……ノクターn( それはさておき、コボルトもふり隊の結成はそろそろかな?? 常に身近においておけば場のふいんき(なぜか変換ry)を和らげると同時に破壊者の印象がガラリと変わるであろう効…
その王様、中学生男子のマインドなんで気をつけて。
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