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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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丁度いい勢力

 ハルカたちの間では、拠点を貸すくらいは問題ないだろうということで意見は一致している。あとはどこまで付き合いを密にするか、という話になってくるのだが、その辺りの調整が難しいところだ。

 ハルカが言葉を選んでいる間に、コリンがベッドに胡坐をかいたまま、身体を左、右、と動かし、ハルカの肩に頭を預けて喋り出す。


「んー、レジーナってあんな服着てるし、実際聖女認定はされてるんだよね。でも〈オラクル教〉とは関わりないよ。なんか昔色々あって勝手に認定されて、服くれるからって言うので受け入れてただけって言ってた」

「なんだそれ、適当だな……」


 ヨンは呆れたように言ったが、疑いは捨てきれていない様子だ。


「そもそもさ、最近オラクル教って〈オランズ〉の街に騎士団を派遣してきてるんだよね。なんか昔の約束で、〈混沌領〉に問題がある時は、騎士団派遣する、みたいなのがあったらしくて。実際はまだ何も問題ないんだけど、アンデッドを討伐しちゃったから、いつ来てもおかしくないからって」

「そうか、そりゃあ知らなかった」


 ここまでの話だと、内部事情に詳しい【竜の庭】はいかにも〈オラクル教〉と手を結んでいるようにも見える。実際その様に捉えたであろうヨンは、渋い表情で口元に手を当てて、何かを考え始めてしまった。


「そうか、なら悪いこと話したな。遺跡に興味があるって言うからてっきり……俺は……。まぁ、そういうことなら世話になるのも悪いか」


 コリンはあっさりと引き下がったヨンに、どうやらこれまでの話に誤魔化しのようなものはないのだろうと判断する。もちろん、モンタナが反応していない時点で嘘はついていないのだろうけれど、それにしたってうまく誤魔化すような話法はある。

 念のための確認であった。


「たーだーしー、私たちは騎士団の拠点への在住や立ち入りは断ってるんだよね。部外者を勝手に拠点にいれたくないから。その件で上位の神殿騎士ともちょっと諍いになってたりして。まー、今は一応仲直りしてるけど、ね、ハルカ?」

「ええ、まぁ……。ですから複雑な関係ではあります。中には親しくしている人たちがいるのも事実ですし。ただ……、そうですね……。色々と世界を巡る中で、先ほどヨンさんが言っていた通り、千年前の戦争には別の側面があったのではないかと、私も思っています」


 かなり勇気を出しての歩み寄り。

 コリンがうまく話を引き出してくれたからこそ踏み込めた一歩であった。


 ヨンはまた黙り込んでハルカたちをじっと見た。

 それから深いため息を吐いて、椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。


「…………ジーグ、ちょっとあれな話するぞ」

「よくわからん。だがお前が好きなようにするためのチームだろう」

「よし、……不味いなと思ったら途中で話止めてくれ。あと、これは俺の話であって、なんかあってもジーグとか他の連中は知らないからな。そのつもりで聞いてくれよ。いったん全部ここだけの話だ」

「別に何話そうが、俺たちの身内殺そうとしたとかじゃなきゃ気にしねぇよ」


 アルベルトが退屈そうに欠伸をしながら返事をする。

 適当な返事のように聞こえるが、これは【竜の庭】の共通認識でもある。

 ヨンは無言で再び魔素砲を取り出して、テーブルの上に乗せた。


「俺前に、これをどこで手に入れたか知らない、って言ったよな。……実は知ってる。正確な場所じゃなくて、大体の場所と、どうやって手に入ったかを知ってるってだけだけど」


 ヨンは慎重にハルカたちの表情を観察する。

 ただ、ハルカは真面目な表情でずっと話を聞いているし、コリンも僅かに笑っているだけ。モンタナは無表情だし、アルベルトはよそ見をしている。

 そこから得られる情報は殆んどなかった。


「……これが手に入ったのは〈混沌領〉だ。俺はいつかそこに行きたい」

「なるほど……」


 ヨンがじっと見つめてくるのに対して、何か反応すべきだろうとハルカが返事をする。するとヨンは、真面目な顔をしたまま「驚かないんだな」と言った。


「遺跡で見つけたってことでしょ?」

「まぁ、そう言ったらそうなんだけどな」

「はっきり言った方がいいです。変なこと言っても別に驚かないですし、告げ口したりもしないです」


 モンタナが先を促すと、ヨンが「あー……」と言いながら自分の髪をかき回して、しばし悩んでからさらに口を開く。


「遺跡で真竜の話をしただろ? あの辺りの話から、お前ら絶対何か知ってると思ってたんだよ。しかも昔の話に興味がありそうだった。俺たちの遺跡調査能力は、他に比べてもかなりいい線行ってるはずだ。協力してくれれば、きっとお前らが興味のあるようなことも調べてみせる。ある程度勢力持ってて、欲のなさそうな奴らなんて、他に見かけないんだよ。俺たちを買ってくれ。なんなら傘下って扱いでもいい」


 早口で語り切ったヨン。

 意外と洞察力には優れているようだ。

 ハルカはヨンの言う通り、遺跡探索の専門家を欲しがっていたし、それを隠してもいなかった。

 諸々の事情を考慮すると、どちらも損のある取引ではないのだろう。


 ハルカは先ほどのヨンの魔素砲の話を思い出しながら、最後に一つだけ尋ねてみることにした。


「すみません、聞きたいことがあります」

「なんだ?」

「ヨンさんのその武器、についてです。それがどこで手に入ったかは聞きましたが、どうやって手に入ったかはまだ聞いていませんので」


 ヨンは手で顔を覆いながら、俯いてまたため息をついた。

 それからぎゅっと目を閉じてからしっかりとハルカの目を見ながら答える。


「……これは俺の父親が、〈混沌領〉の穴倉で、コボルトって破壊者ルインズに貰ったものらしい。巨人から逃げて転がり込んだ穴の中に住んでたんだとさ。怪我の療養のためにしばらく世話になって、礼に井戸の掘り方と畑仕事を教えてやったら、帰る前にこれをくれたんだとさ。ガキの頃の俺に話したことだ。適当な嘘かもしれない。でも俺の父親は、わざわざ子供を危険な場所へ向かわすような馬鹿な嘘はつかないと思う。俺に話したのは、何か理由があるはずだ。だから俺は、この話が真実かも確認したいと思ってる」


 話を聞いたハルカは、コボルトらしい振る舞いと当時の様子を想像して、思わず頬が緩みそうになるのを何とか堪える。

 この告白はヨンにとっても大きな賭けだったのだろう。

 ヨンは、次に出てくるハルカの言葉を聞き逃すまいと、唇をキュッと結び、上半身をテーブルに乗りださせるのであった。

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― 新着の感想 ―
おぉ、ガッツリ関係者やんけ 親父さんが生き残る手助けしてなかったら、コボルトは絶滅しちゃって出会えなかったろうな
さぁ、とうとうついに爆弾の導火線に火が付いた。
お前が好きなようにするためのチーム…なのかぁ… 『ある程度勢力持ってて、欲のなさそうな奴ら』なんて、普通はいないだろうよ…と思う(^^; って、井戸の掘り方と畑仕事を教えたのがヨンのお父さん?!どんだ…
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