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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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コレクション

「すまん」


 ヨンが何かを言い始める前に、ジーグムンドが胡坐をかいた姿勢で大きな体を折りたたむ。


「こいつはよくしゃべるが、肝心なことを言わない」

「あー、いい、いい、そんなんじゃねぇし。ま、何とかするって、ぜーんぶ忘れてくれ」

「住まわせてくれなんて、信用できない相手に頼むことじゃない。お前がそうやって適当なことを言うから、あっちだって信用できん」

「珍しくよく喋るなぁ!」


 両手を使ってジーグムンドの口をふさごうとするヨンだったが、片手で押しのけられる。


「一つ聞かせてくれ。俺はお前たちを比較的温厚な奴らだと思ってきた。今回【毒剣】を徹底的に潰した理由はなんだ」


 真面目な顔のジーグムンドに、ハルカは一度目を伏せてから答える。


「私の友人とその娘を人質に取ったこと。人質をとっても大丈夫なほど、私たちが甘い宿クランだと思われては、今後の活動に影響が出るからです」

「……金銭や勢力争いではないんだな? 例えばアヴァロス商会が絡んでいるとか」

「なぜアヴァロス商会が?」

「評判が悪いからだ。アヴァロス商会は、この街では【毒剣】とも関係があった。それに、今回の件で街が落ち着かなくなれば、身を持ち崩して金を借りる者も出てくる」


 それは考えていない効果だった。

 雇われて同じ宿に泊まっているというだけで、そんな邪推もされてしまうのかとハルカは驚く。フォルテがどこまで計算していたのかわからないが、全てが偶然ということは決してないだろう。


「一切関係ありません。私たちが受けた契約は、この街までの護衛。宿はあちらの厚意と受け取っています」

「……一応私の方から補足しとくとさ、うちはアヴァロス商会に頼らなくたって資金は潤沢にあるの。だからそんな評判の悪くなるようなことはしない。ごめんハルカ、もうちょっと調べておけばよかった」


 ハルカとコリンが深刻な表情になると、ジーグムンドの口をふさぐことを諦めたヨンが前へ出てくる。


「いやいや、そんな真面目に考えるなって。アヴァロス商会のことも推測でしかねぇんだから真に受けるな。こいつ、俺の話したこと何でもかんでも本気にするから」

「嘘を吐いたのか?」

「……いや、嘘っていうか、噂は本当にあるし可能性はなくはないんだけど。別にハルカたちの仕事にけちつけるつもりもないしな」

「それじゃ、質問の意図は何です」


 モンタナがヨンではなく、ジーグムンドの目を見つめて尋ねる。


「それを答える前にもう一つ聞きたい」

「なんです」

「お前ら【竜の庭】の宿は、どんな目的を持った宿クランなんだ?」

「目的です……?」

「目的かぁ……」

「そうですねぇ……」


 モンタナ、コリン、ハルカと、普段わりと論理的に話す組が揃って順番に首をかしげたところで、アルベルトが腕を組んで自信ありげに答える。


「本になるくらいの立派な冒険者になるためだな」

「なんというか……、ずっと一緒に活動するのなら、拠点が欲しいと思いまして。ほら、うちにはナギもいますし、街に暮らすのは難しかったですし……。色々守りたいものもありますし……。そのためには都合が良かった部分もあります」

「そうなんだよね。お金も結構たまったし……」

「なんか適当だなぁ、お前ら」


 ヨンが変な顔をして笑いながら頬をかいた。


 様々理由はあるのだが、複合的であり、一口に説明することは難しい。

 ハルカたちが頭を悩ませていると、ジーグムンドも珍しく不器用に笑った。


「十分だ。力が欲しい金が欲しい、そんな話じゃなきゃあそれでいい」


 そう言ってジーグムンドはジャラジャラと抱えてきた荷物の中身を床に広げていく。そこには大小さまざまな武器や、用途の分からないものまでたくさん転がっている。


「あとはお前が説明しろ、ヨン」

「最後までお前が話しゃあいいだろ。どうせ俺は肝心なことを言わない奴だ」


 拗ねたように横を向くと、他の仲間たちから「また拗ねて」とか、「……話すのはヨンの仕事……」などと文句を言われる。


「あー、お前らまたそうやって全部俺のせいにするんだ! いいのかよ、全部話すからな! 話してもいいんだな!?」

「いい」

「いいよ」

「姿ってさ、心の美しさを反映するんだろうね。今回彼女たちは、宿の仲間ではない友人のために怒ったんだ。信用する理由はそれだけで十分じゃないかい?」

「うるさい」

「真面目にやってるんだからお前は黙ってろ」

「……馬鹿」

「うん、酷いね?」


 同意の声が広がる中、一人ペラペラと喋り、ハルカにウィンクしながらアピールしたクエンティンが仲間たちから一斉に非難される。

 ハルカは『相変わらずだなぁ』くらいにしか思っていなかったが、彼らからすると、真面目な話をしている時にすることではなかったのだろう。


 立ち上がって腰に手を当てていたヨンは、ため息を吐いた。

 そして胡坐をかいて今までにない真面目な顔つきでハルカを見上げる。


「今から話すことは他言無用にしてくれよ。いや、まぁ、お前らのが強いから、これはお願いでしかねぇんだけどさ」

「いえ、まぁ、よほど法に触れる悪さとかの話でないのなら吹聴しませんが」

「よし、んじゃ聞いてくれ」


 ヨンは腕を広げてずらりと並んだ武器に注目を集めてから続ける。


「これな、全部何らかの危険な効果がある遺物だ。売るわけにはいかないし、報告すりゃ知られて狙われるかもしれない。荒れそうなこの街に置いときたくないんだよ。本当は自分たちで管理しときたいけど、拠点があんだけ荒らされちゃ、ちょっと考えないとと思ってな。特に今回は注目浴びちゃった上に、めちゃくちゃ武器が増えたんだ。まだ精査してないけど、このままあんなすかすか拠点には置いとけない。俺たちもそれなりに戦えるけど、ばりばりの武闘派とやり合えるほどじゃないと思う。その点ハルカたちはこんな遺物なくたって、【毒剣】の奴らあっさり潰せるほど強いんだろ。変な野心もないみたいだし、金だってある。これ調べきって金稼げるまででいいから、間借りさせてもらえないか? その間の家賃は後で払うしさ」


 これまでのじたばたの子供仕草とは一変して、すらすらと大人らしい喋りを見せるヨン。これまでのヨンも偽った姿ではないのだろうが、真面目にやろうとすればやれるみたいだ。


「事情は分かりましたが……、ちゃんとした理由があるのなら、なぜさっきまであんな態度を……」

「いや、なんかお前ら俺を子ども扱いするし、わがまま言ったらそのまま許可してくれっかなって思って。その方が好き勝手出来るし」

「すまん」


 ヨンがまた余計なことを言った瞬間、代わりにジーグムンドが謝罪して、ついでにヨンの後頭部をもって無理やり頭を下げさせる。


「あ、この、何すんだ!」


 ヨンはやっぱりじたばたと抵抗しているようだったが、ジーグムンドの力にはまるで歯が立たないようだった。

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― 新着の感想 ―
うん? 新しい遺跡で危ない武器がゴロゴロ出てきてそれを隠すためにハルカたちを頼るのはわかるけど、遺跡から離れていいのでしょうか。もっとゴロゴロ出てきたらどうするの?
スゲエいいこと言ってんのにクエンティンのこの扱いときたらw
ハルカたちの優しさ甘さにつけこもうとするところはヨンの気に入らない、信用できないと感じるところですね。 大事なこと(危険な遺物があって安全なところで管理したい)言わなくても、間借りさせて貰えるやろ的…
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