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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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騒がしい小人の帰還

 珍しくしとしとと降り始めた雨を受けて、ハルカはぼんやりと外を見ながら部屋の中で待機していた。色々なことがあったし、昨晩見た夢のことも気になる。

 片膝を抱えながら窓の外を眺める。


 ギドたちの件についてはさんざん彼らと向き合っている間に反省をしたので、今考えるべきことは、夢に関することだ。

 ハルカはこの世界に来てから夢を見なくなった。

 代わりに唯一それらしいものを見る時は、必ずゼストに出会う。

 何を伝えたいのか分からないが、あまり後ろ向きなことを伝えるために出てきているわけではないらしい。

 流石に雑談のためだけに現れているとは考えにくいが、あそこまで愉快な動きをしているのを見ると、ほんの僅かくらいにはその可能性も考えられる。


 いつも相手のペースに飲み込まれていたが、よく考えればすぐに、何のためにこの世界にこの肉体で現れたのか、聞いてみればよかったのだ。

 次は忘れずに聞こうとハルカは心に刻んでおく。

 

 それから出現条件がよくわからない。

 何か酷く精神的に疲れている時に現れているような気がするのだが、条件としては微妙なところだ。

 そもそもグルドブルディンによれば、オラクルもゼストも、実体のある神だと聞いている。わざわざ夢に出るなんて回りくどいことをしなくても、実際に会いに来てくれた方が手っ取り早い。

 やらないということは、できない理由があるのだ。

 二柱の神が、今どこで何をしているのか気になるところだ。

 それこそ遺跡の探索でもすれば分かるのかもしれない。

 もし彼女たちが、メッセージをどこかに残しているのならば、だが。


 例えばオラクルがオラクル教の総本山に、お告げのようなものをしていたりしないのだろうかとも考える。あればコーディが教えてくれそうなものだが……。

 ハルカの見たところによると、オラクルはゼストより随分としっかりしていそうだった。何らかのヒントを残しているのならば、そちらの方が可能性が高い気がしてくる。


 そちらはコーディに改めて尋ねてみるとして、もう一つの遺跡探索の方が問題だ。

 今回、ジーグムンドたちと遺跡に入って分かったことは、遺跡には素人では読み取れないメッセージが様々あるということだ。

 勉強するのは構わないが、専門家に協力を仰げるのならばそれに越したことはない。

 幸いヨンは遺跡を見せると言えばどこへでもついてきてくれそうだが、そうなると問題は【竜の庭】の事情になってくる。

 いくつか遺跡には心当たりがあるのだが、そのどれもが拠点から〈混沌領〉方面に固まっている。仲間に取り込めればそれが一番なのだが、事情が事情なので、彼らにはもう少し探りを入れておきたい。

 意見が合わなくて交渉が決裂した時にはお互いに困る。


「誰かきたですね」

「んー、誰ー?」


 ハルカの足元付近で手作業をしていたモンタナが、不意に顔を上げた。

 続けてゴロゴロとハルカの横で転がっていたコリンが、寝ぼけた声を出す。

 雨の中わざわざ宿を訪ねてきた者がいるらしい。

 耳を澄ませてみれば確かに足音と、きゃんきゃんと騒ぐ声が聞こえてくる。


「この声……、ヨンさんたちです」

「なんだ、帰ってきたのか」


 床に座り込み、壁に寄りかかったまま眠っていたアルベルトも片目を開けて立ち上がる。体を伸ばしながらさっそく歩き出して部屋のドアに手をかけた。

 雨降りでやることもなく退屈していたらしい。

 ちなみにレジーナはずっと不満そうな顔をしたまま外を睨んでいる。


 拠点にいる時も案外外をふらふらしていることが多いレジーナは、アルベルトと同じくじっとしているのがあまり性に合わないのだろう。

 それでも雨降りの中で外出する程ではないらしく、空を睨みつけて喧嘩を売っているのだ。


 アルベルトに続いてハルカが立ち上がると、他の者もぞろぞろと後についてくる。

 結局皆暇なのだ。


「あ、アルベルト! ハルカも! なー、聞いてくれよ!」


 びしょ濡れの体で、いつも通り何かに怒っているのはヨンだ。

 ジーグムンドが袋一杯の何かを抱えて、その体から雨粒をたらしている。

 他の仲間たちもみんなずぶぬれだ。


「とりあえず身体が冷えないように拭いたほうがいいですよ……?」

「服も全部びしゃびしゃなんだって! もう、ホントにさぁ! 拠点がこの間のせいで傾いたのか知らないけど、全部雨漏りだよ! 遺跡から帰ったらびしゃびしゃでもう使い物にならねぇの。保管してた資料は何とか守って持ってきたけどさぁ、もうほんとに、もう!」


 ヨン他数名が大事そうに懐に抱えているのは、どうやらその資料らしい。

 宿の人が足ふきや高級そうなタオルを持ってくると、ヨンは遠慮なくそれを使って体を拭きとり、服をぽいぽいと脱いで下着だけになり、暖炉の前へと走っていく。

 体を温めるのかと思えば、床に紙の資料を丁寧に並べ始めた。


「悪い、ちょっとだけ乾かさせてくれ! あと、落ち着くまで資料だけ置かせてもらえないか? ホントはギルドに行きたかったんだけどさ、なんか妙に注目されて居心地が悪いんだよ。なんだっけ、【毒剣】の奴らとも揉めてるせいなんだろうな。慌ててここまで避難してきたんだ」


 ペラペラと喋りながらも、ヨンは丁寧に資料を広げている。

 ヨン程に図々しくない他の仲間たちは、宿の人に礼を言いながら体を拭いて、まだ入り口の所に立ち尽くしている。

 ハルカは一応宿の人に許可を取ってから、ジーグムンドたちに改めて声をかける。


「上がってください。体を乾かさないと風邪を引くかもしれませんから」

「すまない、恩に着る」


 大柄なジーグムンドが中に入れば、他の仲間たちも礼を言いながら宿の中へ上がっていくのであった。

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― 新着の感想 ―
毒剣? もう存在しないんだよなぁ
やっと追いついた… 応援してます!!
アニメ化したらドアを開けてびしょびしょのヨン達が濡れない様に無言で雨よけ障壁を出してあげて欲しいw それがハルカっぽい
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