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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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もういらない

「ほら、会わせてあげましたよ。お話があるのでしょう?」


 デビスの催促するような言葉に、【毒剣】の冒険者は黙り込む。

 しきりにハルカたちの様子と出口を確認している。

 だがデビスはそんな【毒剣】の冒険者たちの後ろをのんびりと行ったり来たりしながらさらに話を続けた。


「あなた方、翌朝からさんざんがなり立てたじゃないですかぁ。急に拠点を潰された、ギルドはどうなっていると。【竜の庭】に対する悪口雑言も散々仰っていましたね。オレークさんの話をしたら証拠がないのになんとか、とか。さぁ、どうぞ、機会を設けましたよ。思う存分、冒険者同士で話をしてくださいねぇ」

「……いや、ない」


 冒険者たちは黙り込む。

 拠点を潰された翌朝。

 宿主であるギドの行方も不明であり、状況が分からないからと彼らはギルドに怒鳴り込んだのだ。

 どうなっていると。

 最近やってきた【竜の庭】の仕業だと聞いたぞと。

 

 デビスはその話を黙って聞き、同意し、何なら話に乗った。

 そうして次々と集まってきた【毒剣】の連れていかれなかった残党を、ギルドにとどめおくことに成功したのだ。

 彼らはギドを含めて数人の戦闘能力をよく知っている。

 そして特級冒険者の恐ろしさを噂でしか知らなかった。

 だから、少しすればギドが帰ってきて、事が良い方へ転ぶとばかり思いこんでいたのだ。


 それがなかなか帰ってこない上に、先に帰ってきたのが無傷の【竜の庭】の冒険者たちだったのだから、そりゃあ顔色も悪くなる。

 今の状況を一番素直に考えれば、攫われた【毒剣】の主な冒険者は、すでに全員殺されたということだ。


「ないのですか?」

「ない。何もないからもういいだろ……」

「いいえ?」


 立ち上がろうとした一人の男の両肩を、デビスが後ろで押さえて無理やり座らせる。


「分かりました。あなた方からはもう話すことはないのですね。しかし私はこの街の冒険者ギルド支部長としてどちらの話も平等に聞く必要があるんですねぇ。……【竜の庭】の方々は、こちらの皆さんにお話はありますかぁ?」

「てめぇ、ふざけ……っ」


 怒って、立ち上がろうとした冒険者だったが、突然がくりとそのまま倒れ込む。


「おやぁ、大丈夫ですかぁ? 体調が悪いのでしたら、興奮をすると危ないですよぉ。そのまま寝ているのがいいでしょうねぇ。よっと」


 デビスは床に倒れた冒険者をそのまま端に押しやると、その男が座っていた椅子に腰を下ろす。


「……肩触った時に、多分何か刺したです」


 モンタナがぼそりとハルカに伝える。

 冒険者ギルドの支部長になるような人物だから、ただのらりくらりとしているだけではないに決まっていたが、随分と怪しい男である。


「何もないというのなら、まぁ、私の方でいいようにします。ああ、先日のチンピラの話なんですが……、統制のとれないならず者が街にいるというのは面倒ですよねぇ。知らぬうちに勝手にどうにかなってくれるのが理想なんですけど」


 この言葉の裏は、街の役に立つ【毒剣】が無くなった以上、宿を背景にして悪事を行なってきたような冒険者を街に生かしておくつもりはない、といったところか。

 ギドがまとめている【毒剣】でなければ街にはいらない。

 シビアにそろばんをはじいてそう結論づけたのだろう。


 だからわざわざ、ハルカたちの裁定を待つためにも一応この場に残党をまとめておいたのである。


「さて、それを踏まえて、改めまして【竜の庭】皆さんの意見をお伺いしたいところです」

「【毒剣】を解散してください」

「いや……、今いないやつらが……」


 ハルカが要求を一言で突き付けると、【毒剣】の冒険者たちは、床で時折痙攣している仲間を見ながら、しどろもどろに言い訳を始める。


「戻ってこないよー? 誰も戻ってこないから今決めて。解散する? しない?」


 コリンが続けて催促すると、対応していた男は下を向いて目を泳がせてから、前のめりになって声を震わせながら宣言する。


「俺は、【毒剣】を抜ける……!」


 それに俺も俺もと全員が続く。

 全員が宣言したところで、モンタナが腕を動かしてその中の一人を指さした。


「な、なんだよ」

「最後の一人です」

「何が……、ど、どういうことだ?」

「君が最後の一人なんだから、抜けるんじゃなくて解散するかどうか選べってことだろうねぇ」

「お、俺が? で、でも、ギドがもし帰ってきたら……」


 この冒険者たちは、仲間でありながら、ギドたちとは一線を画した存在だったのだろう。ギドが恐ろしい、報復が恐ろしいというのがあからさまだった。


「じゃあお前が一人で続けるんだな?」

「…………か、解散する……」


 アルベルトにまっすぐ見つめられたその男は、ごくりと唾を飲んでから、かすれた声で答えた。

 部屋がしんと静まり返る中、ハルカがさらに続ける。


「もし、私たちや私たちの縁者に手を出すようなことがあれば、知ってか知らでかに関わらず、どこで何をしていても必ず見つけて報復します。それだけ忘れないようにしてください」

「わかった、もうわかった……!」


 全員が下を向いて黙り込むことさらに数十秒。

 話はこれでついたかと、今度はデビスが口を開いた。


「双方とももう話はありませんか?」

「ええ、ありません」


 ハルカが答えて、元【毒剣】の冒険者たちは黙って頷く。


「では、この話し合いは終わりにしましょう」

「じゃ、じゃあ俺は!」


 男が立ち上がろうとした瞬間、その肩にデビスの手が置かれた。


「駄目ですよ」

「な、なんでだよ……」


 顔をくしゃりとゆがめて、大人しく座り直した男にデビスはにちゃりと笑った。


「チンピラの皆さんが、【毒剣】に依頼をされて街の住人を脅して殺そうとしたと白状しているんです。元【毒剣】の皆さんには、罪のない人を殺そうとした責任を取っていただかないと」

「そ、それは……!」

「私が思うに……【竜の庭】の方々は、その件の犯人が誰か気になっていると思うのですよねぇ。罪は償うべきでしょうねぇ……。さて、一度牢獄に入って待機するか、私の話を聞かずに街へ戻るか、選んで構いませんよぉ。後者の方は、さ、どうぞ」


 立ち上がったデビスは、扉を自ら開けて逃げ道を作ってやる。

 ここから出るには、必ずデビスの前を通っていく必要がある。

 床に倒れて未だに体を動かせないでいる仲間を見て、席から立てる者は誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
なるほど、暗器使いか
舐められてはいけない。その後ここまでの対応、ヤクザの論理に見えます 切った貼ったの冒険者、行き着く先は、結局人の歴史に倣うということでしょうかね またはハルカ・ヤマギシに流れる血はやはり日本人というこ…
噂でしか知らなかろうとよく元拠点だったオブジェ見て怒鳴り込もうなんて考えましたね……私ならその日の内に街から脱走しますわ( ᐛ )
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