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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
悪役令嬢は凄腕スナイパー
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08法の抜け穴



「ふむ……。事情はわかりました」



 どっしりとフレックスはソファーに座り直し、ぶにぶにとした二重アゴを撫でている。

このまま心を入れ替え、金貸として真っ当な商売をしてくれればよいのだが……。



「しかし、私が不当な手段で稼いでいるという話は、根も葉もない噂ですよ。

 法と人道に背くような商売は、一切しておりません」


「では、なぜそのような話が出回っているのだ?

 火のないところに煙は立たぬと言うぞ?」


「簡単な事です。ただの逆恨みですよ。イクター様も心当たりがございませんか?

 金融業というのは、ただ貸すだけでは仕事になりません。

 当然集金も仕事のうち。誰しも、取り立てられるのは嫌なものでしょう。

 だからこそ、恨まれる仕事なのです。

 こちらはただ順当に、貸したものを返してもらうだけなのですがね……」


「なるほど。自身には一切の非がないと言うのだな?」


「ええ、もちろん。

 各々条件は異なりますが、金融業界は法によって規制されておりますゆえ、無茶な利息を取り立てるのは不可能です。

 裏で違法な貸付をしている者なら、ありうるかもしれませんが、そのような者を捕まえるのが、イクター様のお仕事でもありますでしょう?

 認定を受けている私が、イクター様の顔に泥を塗るような商売、するはずがございません」



 あくまでも真っ当な商売だというようだ。

しかし、認証どうこうは詳しく知らないけれど、少なくとも父が後ろ盾になっている以上、本当に違法ならばできないのだ。

父は金融業者の取りまとめ役であり、違法な者たちを排除するのが責務なのだから。



「では、借用書を見せてもらおうか。

 後ろめたいことがなければ、見せられるだろう?」


「ええ、構いませんよ。こちらへどうぞ」



 そうして連れられたのが、フェリックスの執務室。

重々しい金庫の扉を開いた先にある紙の束が、借用書だ。



「私個人が担当している分は、こちらになります」


「そうか。調べさせてもらおう」



 父は紙を受け取り、それぞれを調べ始める。

数枚目を通し、そして束をフェリックスへと返した。



「確かに違法性はないようだ」


「そうでしょう、そうでしょう」


「しかし、すべての取引に特記事項が多くあったな」


「もちろん。それは必要なことですので」



 なにやら専門的な話をしているようだが、これは聞いておく必要がある。

理解できなければ、相手が悪どいことをしているのかわからないのだから。



「お父様、特記事項とはどういうものですか?」


「エリヌス……。君は詳しく知る必要はないと思うが……」


「噂の真偽を確かめにきたのですし、私から説明させていただきましょう」


「む……。確かにそうだな……」



 父は少し不満気だが、説明をフェリックスに託した。

本来は、私に聞かれたくないことなのだろうか?



「特記事項とは、契約の際の特別な約束を記しておくことです。

 今回の場合ですと、返済期限を守れなかった場合のペナルティを記してあるのです」


「ペナルティ? それはどのようなものなのです?」


「返済が遅れれば、幾分か返済額が追加されるというものです」


「それは、合法なんですの?」


「もちろん。これは我々を守るためのものです。

 我々も、返済がなければ次の貸付が行えないのですから、その分の損失を補填されなければ、業務に支障が出ます」


「なるほど……」



 つまり、これがヴァイスの言っていた「一見合法な高利貸付」の方法なのだろう。

相手の支払いが間に合わなかったことにしてしまえば、ペナルティと称して、多額の返済を迫れるというわけだ。



「ですがそれでは、元々返済の厳しい人たちが、より多くの借金を負うことになるのではありませんか?

 そうなれば、取り立てる方も損になってしまうと、私は考えるのですが」


「と、言いますと?」


「借金とは、お金を借り、礼として少々の金額を上乗せして返すもの。

 その礼を集めることで、貸す方は生活しているわけですよね。

 それならなんの問題もありませんが、借りたお金を返せないという事態になれば、こちらの収入が止まることになり、生活に影響が出るということです。

 でしたら一度の取り立てを減らし、相手が十分に返せる金額を長く請求する方が、双方にとって良いのではないかと考えたのです」


「ええ、ごもっともなご意見です」


「ではなぜ、返済が滞った場合に、さらに返済額を増やすような特記事項を作られたのですか?」


「ふむ……。少々誤解があるようですな」


「誤解?」


「えぇ。特記事項による返済額の増加は、一度の請求額が増えるものではないのです。

 毎回の返済額が増えるものではなく、元本が増えるというもので、毎回の返済額は一定なのですよ」


「なるほど。では、無茶な取り立ての噂は、完全に嘘だとおっしゃるのですね?」


「と、言いたいところなのですが……」



 私の少々キツくなった視線に、わざとらしい降参の意を表明するような仕草を見せたフレックスは、小さくため息をついて続けた。



「一定期間ごとに、返済者の再査定を行うのです」


「再査定?」


「ええ。毎回の返済額が適当であるかどうか、調べ直す作業ですね。

 その作業にて、返済額を増やせるという調査結果が出れば、一回あたりの返済額を増やす仕組みとなっております」


「その仕組みのせいで、悪い噂が出たというのですか?」


「思い当たるところが、その程度しかありませんので……」


「それは、相手の生活を困窮させるほどのものなのですか?」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。

 相手の収支を測り、財政状態の改善策の提案まで行うのですから、感謝していただきたいほどです」


「具体的には、どのような提案を?」


「支出の切り詰め案や、収入を増やすための提案などですね。

 なにせ、相手はそのあたりに疎い場合が多いですからね……。

 こちらが手を差し伸べることで、長く良い関係を築こうという方針なのです」



 なるほど、その「収入を増やす」というものが、ミーさんへの「花売り」という提案だったのだろう。

乾いた雑巾を締め上げ、無理やり水を取ろうとするような愚行だ。

けれど、言葉の上では双方にメリットのある行動というわけね。父が口を挟めないわけだ。



「しかし、エリヌス様は熱心なお方だ。

 噂の真偽を確かめるだけでなく、お父上の仕事も勉強されていらっしゃる。

 イクター様も、優秀な跡取りがいらっしゃるとは、安心できますな」


「うむ……。優秀なのは当然嬉しいのだが、少し寂しい気持ちもあるがな」



 少し曇っていた父の表情が、再び晴れる。

フェリックスという男は、人に取り入るのもまた上手いようだ。

けれど、私はその程度で許すつもりはない。

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