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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
忍び寄る魔の手
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01ヴァイスの策略

 オズナ王子の帰国、そして盛大に開かれたパーティー。

その喧騒も寝静まった夜更け、王子の元に忍び寄る影。



「どうもこんばんは、王子様」


「誰だっ!?」



 とっさに枕元の短剣を握り、突然の声の主に突きつける。

だが相手は怯むでもなく、月明かりに照らされた相手はただニヤついた顔を浮かべるだけだった。



「おっと、これは失礼。私、情報屋をやっております、ヴァイスという者にございます」


「くっ……。警備の者は何をっ!」


「しっ。お時間もお時間ですので、お静かに。それに、あなたに危害を加えるつもりなどありませんよ。

 なにせ私は情報屋。美味しい情報を買っていただける相手ならば、守ることはあっても傷つけなどしませんよ」


「情報屋だと……」



 二度も情報屋だと主張することで、若干混乱していた王子もやっと飲み込んだようだ。

こんな時間に、誰もいないタイミングを狙ってやって来た男の目的を。



「つまり、私に情報を買わせようと?」


「ええ。お一人になる時間がおやすみ中しかなかったため、失礼と思いつつこの時間にやってまいりました」


「他の誰かに聞かれてはまずい情報を買えということか」


「お察しがよろしく、助かります」


「だが、お前が信用できるかは別問題だ。

 そうやって取り入って、命を狙っている可能性も……」


「であるならば、お声をおかけすることなく、そのまま寝ていただいていた方がよろしいかと。

 もちろん、朝になろうとも目覚めぬ眠りですがね……」


「笑えぬ冗談だ」



 不審者と言葉を交わしながら、王子は思考を巡らせる。

このまま二人きりは危険という思いと、しかし相手の言うように命を狙っているならば、すでにことを終えているはずだという思い。

であれば本当に情報屋だと言うのを信じるべきか、それとも他の目的か……。

めぐる思考は、いまだに情報不足だという結論にしか行きつかなかった。



「信用がないのは百も承知にございます。

 ですので、今回は顔合わせだけにしておきましょう」


「…………。目的が分からんな」


「いえいえ。同じ学園に通うもの同士、仲良くしたいと考えただけです」


「まさか、お前も学園生なのか!?」


「はい。同じ1年ですから、学園内で会うこともございましょう。

 その時はどうか、ただの学友として接していただければ幸いです」


「…………」


「ああ、そういえば明日、公爵令嬢と共に学園へと行かれると……。

 学園案内ですか……。そのようなもの、執事を常につけているあなた様ならば不要でしょう」


「なぜそれを知っている!?」


「情報屋ですから、当然ですよ。もちろん、あなた様とかの公爵令嬢が許嫁であることも。

 そしてあなた様が、両家の関係のためではなく、本気でかの御令嬢を好いていることも……」


「貴様っ!」


「おっと失礼。けれどそれは、非難されることではありますまい。双方想いあい結ばれる。

 それが両家のためにもなる。 歓迎されれど、非難されることではありません。

 どうぞ愛を育まれると宜しいかと。

 学園案内というような建前が必要なのが、お立場上苦しいところですね」


「…………」


「では、私からもお二人のために、ちょっとした情報プレゼントを。

 学園では夏休みの間プールが開放されております。

 親睦を深めるには、ちょうど良いかと思われますので、立ち寄ってみてはいかがでしょう」


「エッ……、エリヌスをプールに誘えと!?」


「よいではありませんか。夏といえばプール。海はお立場上、警備等の問題がありますからね」


「たっ……、確かにそうだがっ……」



 許嫁ではあるものの、好きな相手と共にプールで遊ぶことを想像し、あわあわと慌てる王子。

王子としての教育を受けていても、年相応の反応を見せてしまう。

もしくは周囲の環境のせいもあって、少々シャイな性格になっているのもあるだろう。



「ふふっ……。こうやって楽しめるのも、学生の間だけです。

 この先国王となれば、今以上に制約が増えるのですから、ぜひ楽しんではいかがですか」


「いやしかし、エリヌスがどう言うか……」


「それは相手の考え次第でしょう。

 誘わず後悔するなら、行動だけでもしておく方がよろしいかと」


「…………。確かにそうかもしれないな」



 ふと王子の脳裏に、幼き頃の記憶が蘇る。

離れたくない、寂しいと言えず、強がって別れたあの日。

目に涙をためながらも、エリヌスは必死に涙を堪えて笑って送り出してくれた。

もしあの時、本当の気持ちを言えていたならば……。

後悔の念は、今もなお王子の心にさかむけを作っていたのだ。



「では、今夜はこれにて失礼いたします。

 もし何かお悩みがありましたら、なんなりとお申し付け下さい。

 私は情報屋。助けになるお話もできますでしょう」


「…………」


「では、さようなら」



 言葉を残し、目前にいたはずの男は忽然と姿を消した。

その様子に王子は幽霊でも見たのかと、背筋に冷たいものを感じたが、部屋を隅々まで確認しても、先程の男の足跡すら見つけることは叶わなかった。

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