表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ミー先輩の潜入捜査
126/154

14伝令鳩



『それじゃ、なにかあったらすぐ飛んでくるぜ。文字通りな!』


「うん、そうだね。文字通りだね」



 バサバサと羽ばたき、空高くへと登る。エージェントP。

そりゃ鳩なんだから、飛んでくるに決まってるよね。歩いた方が遅いんだから。

でもなんというか、人間の比喩表現を理解してるってあたりが違和感ありすぎるのよ。

やっぱり彼らは、他の動物と違って頭がいいらしい。確かに、他の子よりも会話が成り立ってるもの。


 ま、それはそれとして、お昼からもお仕事がんばろう!

一気にサンドイッチをお水で飲み干し、私はお店へと戻った。



「夏休みの間はミーちゃんがいてくれるから、カノさんも大助かりよねぇ。忙しいけど、無理しちゃダメよ?」


「ありがとうございます。たしかに忙しいですけど、楽しいですよ?」


「ふふっ、そうなのね。それじゃ、また明日」


「ありがとうございました〜」



 常連のおばさんを笑顔で見送れば、すぐに並んでいた人がやってくる。まったく、本当に繁盛している店だ。

それでもみんな、お会計に並んでいても嫌な顔ひとつしない。


 それはひとえに、万一この店で騒ぎを起こそうものなら、店主のカノさんが飛んでくると分かっているからだ。

考えてみれば、前の火事の時のこともあるけど、カノさんっていい人であると同時に、こう、若干恐れられている人っぽくもあるのよ。

エージェントたちが怖がっているのも、そういうところなのかな?


 なんて考えながらパンの袋詰めをしていれば、ガンガンガンガン! と、窓ガラスをけたたましく叩く音に驚き、私は持っていたトングを落としてしまう。



「きゃっ!?」


「どうした!? 何事だ!?」



 ざわめく店内と、私の声に気づいたカノさんが、パンを作る手を止め飛んでくる。

振り向き窓を見れば、エージェントPが必死にそのくちばしでガラスを叩き、バサバサと暴れる姿があった。



「なになに? ハトが暴れてるわよ!?」


「あ、あのハトはミーちゃんが世話してるヤツだよな?」


「あの、すみません、ちょっと私出てきます!」



 姿を見た瞬間ピンときた。何かあったのだ。

私はエプロンと三角巾を外し、外へと駆け出す。



「おう、行ってやれ! 店はなんとかなるから!」


「ありがとうございます! お願いします!」



 扉を勢いよく開ければ、ドアについたベルがガランガランと大きな音を立てる。

そして一歩外へと踏み出そうとした時、運悪く入ろうとしていた人とぶつかってしまった。



「きゃっ! ご、ごめんなさい!」


「ううん……。私は平気……。そっちは大丈夫?」



 そこにいたのは、配達から帰ってきたセイラさんだった。

ぶつかっても完全なる無表情なことにも驚いたけど、それ以上に本当にあたったのかわからないほど、全く微動だにしなかったことにもびっくりだ。

なんて考えてる場合じゃない! あのエージェントPからの様子からして、一大事なのは確かだ。急がないと!



「あっ、セイラさん! よかった、私ちょっと用事で! お店お願いしますっ!」


「うん……」



 丸めたエプロンを押しつけるようにセイラさんへと渡し、私は空を旋回するエージェントPと目配せした。



『お前の言ってたヤツが現れたぞ! こっちだ!』



 最低限の説明をすればPはすっと飛ぶ方向を変え、こっちだと案内を始めた。その後を追い、私は商店街を駆ける。


 ハトってカラスよりのんびり飛んでるイメージだけど、追いかけると意外と速い。

ゼェゼェと息を切らしながら、人の波を潜り抜け追いかけ続ける。

時折ハトは店々の軒にとまり、私を遅いと言わんばかりに待つのだった。



「まっ、待って……」


『ちっ、お前も空を飛べるんなら真っ直ぐ向かうってのに!』


「そんな無茶言わないで… …」


『おっ、良いこと思いついた! こっちへ来い!』


「へっ!? どっち!?」



 そう言って向かうのは路地裏。そこにあったのは、おそらく商品の入荷に使っているであろう木箱の山だった。



『おら、こっち登れ!』


「これを!?」


『そうだ。屋根伝いに走れば速いだろ!?』


「ちょっと、無茶言わないでよ!」


『逃げられてもいいのか?』


「そっ、それは……」



 ここで逃げられるということは、被害者がもっと増えるということ。

エージェントPの口ぶりから、今回は防げなかった。けれど、だからって今後も被害者が出るとわかっていて、このまま犯人を逃すのは……。



「よっと……」


『よし、ヤル気みたいだな!』



 必死に木箱をよじ登れば、そこには商店街のオレンジの屋根屋根が広がる。

それぞれの建物が密集していることもあって、隣へ隣へと伝っていくのは難しくなさそうだ。

もちろんそれは、傾斜がなければの話だけどね!?


 少しどころじゃなく腰の引ける私をよそに、エージェントPはどこからかやってきたもう一羽のハトと寄り添っていた。



「ショートカットできたって、これじゃ走れないよ……」


『心配すんな、こっちでターゲットの動きは把握している。

 仲間がうまく誘導してるんでな、落ちねえようにだけ気を付けな』


「仲間?」


『ったりめーだろ? 俺たちゃ猫と違って、元々群れるイキモノだぜ?』



 その言葉の通り、彼が視線で示す先にはハトの群れの姿があった。

そしてそれに通り道を塞がれている人影。この真夏の日差しの下、その人物は黒いフードをすっぽりと頭にかぶり、背中に同じく黒く歪な形の杖を背負っていた。



「あれが……、鉄の死神……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ははは。 文字通りあなたのところに飛ぶことができる情報提供者がいることは確かに役に立ちますね? また、これが次にどこに行くのか楽しみです。 アイアンリーパーが登場するのは久しぶりです。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ