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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
学校医と情報屋
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02 スキルを持つ者の苦悩



「それで、生徒の何を警戒しておられるのでしょう?」


「あぁ、その話だったね……」



 ゆるやかな音楽が流れる中、情報屋は話の続きを催促した。

その言葉に手を止めることなく、フリードは続きを語りだす。

自身のスキルを把握できない者の苦悩を。



「君には想像もできないだろうが、自身のスキルを自覚できないというのは、相当なストレスになるのさ。

 いや、自覚できているかどうかが問題ではないのだろう。無自覚にスキルを行使している場合、それほど深刻な状態にはならないからね。

 君も一度試してみると分かるだろう、一切自身のスキルを使わない生活というものを」


「なるほど……。スキルを持つ者は、そのスキルを使わない状態でいると心身に影響を及ぼすと。

 私自身には経験はないですが、学友たちを見ていれば、そのような状態に陥っている者も少なからずおりますね。

 けれどそれは、ただの焦りとは違うものなのでしょうか。特に学園では、卒業までに自身のスキルを自覚し、制御できるようになることを求められますからね」


「君は一から説明せずとも意図を汲んでくれるようで助かるよ。確かに君の言うのも一理ある。

 何を隠そう私も、この音楽を奏でることによるスキルを自覚するまでは、ひどく荒れていた時期もあったものでね。

 スキルを持つ者は、魔法の適性が低い。それは自身には何も取り柄がない、そう思わせるには十分だろう。

 そして周囲からの期待という圧力。精神を病むか、攻撃的になるか……。そうなってしまうのも致し方ない状況だろう。けれど理屈だけの話ではない、そう私は考えているのさ。

 先にも少し触れた通り、無自覚にスキルを使っている場合は、年相応のいたって普通の反抗期程度の様子しか見せないからね」


「なるほど、つまり私はスキルを自覚もしているし、使用もしているため、そのような精神状態にならないと……」


「おそらくはね。そして問題はその先さ」


「その先ですか」


「そう。もしストレスを溜め続け、爆発させてしまったら……。

 もしその時同時に、危険なスキルが発現してしまったら……。

 どれほど対策されている学園であっても、本当に安全と言えるだろうか」


「つまり、強力なスキルを持つ者が暴走しないよう、フリード様は学校医としてそのスキルでもって、不安定な者たちを鎮めようとされているのですね?」


「そういうことだよ。もちろん私のスキルでは、音楽を聴いている間しか効果のない、その場しのぎではあるのだけれどね」



 そう言いながら、フリードは自嘲気味に笑う。それは、荒れた日々の末に見つけたスキルが、思っていたほどに役に立たないものだという自覚からくるものだった。

彼はまだ自覚できていなかったのだ。彼のスキルが、他人の精神状態を書き換えるという、強力で危険なものだということを。


 そして対する情報屋もまた、相手が危険極まりないスキルを持っていると理解しながらも、それに言及することはない。

自身の能力を低く見積もっていてくれたほうが動きやすい、そのように考えているからだ。



「しかし今の話、私自身経験はありませんが、腑に落ちる内容ではありましたね。

 知り合いに、おそらくスキルを自覚していない者がおりましてね。彼女もまた、たまに荒れることがあったんですよ」


「おやおや……。彼女ということは、その子とは恋仲だったりするのかい?」


「いえいえ、めっそうもございません。私はフリード様のように、異性から好まれるような要素を持ち合わせておりませんので」


「そう謙遜せずとも。要素などきっかけにすぎないのだよ。

 少し強引なほどに行動すれば、相手もこちらの好意に気付いてくれるものさ」


「ははは……。自分で言うのもなんですが、私はこう見えて奥手なものでして……」



 当たり障りなく話をそらしながらも、内心うんざりするヴァイス。

多くの女性に言い寄るフリードは、数撃てばあたるといった生き方をしている。しかしそれは、裏を返せば誰でもいいということだ。


 だがヴァイスは真逆だった。誰でもいいわけではなく、ただ一人を射止めたかったのだ。

それゆえ積極的な行動よりも、確実に仕留めに行ける状況を作る。それを何よりも重視していた。

そして今回もまた、そのために裏で動いているのだ。



「それはおいておいて、無自覚でもスキルを行使できていた時期は、人当たりもいいのですが、そうでない時は、人が変わったようにキツく当たられたものです。

 いったいどちらが本当の姿なのかと思うほどでしたが、今回の話で納得がいった次第ですよ」


「どちらも本物と言うほかないだろうね。もし君が彼女に笑っていて欲しいのなら、スキルを使える機会を作ってあげればいい。

 それは彼女のためだけでなく、君のためにもなるだろう。上機嫌な時なら、君のことも好意的に見えるだろうからね」


「好意的に、ですか……。どうでしょうね……」



 ヴァイスは、エリヌスのまるで空気、存在しないもの。そんな反応に思いを巡らせる。

彼女の目には映っていても、好きや嫌いの感情など存在しない相手、それが自身なのだとヴァイス本人が痛いほど理解していた。

だからこそ彼は、他の誰も選べない状況を作らなければならない。そう思い至ったのだ。



「それにしてもアイツ、今はどこでスキルを使っているんだろう……」



 ふと、ヴァイスは小さくつぶやく。エリヌスは学園の入学と時期を同じくして、弓の稽古をやめさせられたはずだと。そしてその時期は、確かに非常に荒れていた。

けれど今は、セイラに対してはきつく当たっているものの、自身やミー、そしてメイドのエイダにそのような態度を取っている様子はない。

そのことに、少しばかり違和感を覚えたのだ。



「ん? 何か言ったかな?」


「いえ、なんでもありません」



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