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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第四章 宿命の吸血鬼編
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第87話 協力してほしい

 次の日、私は学校が終わってからVEOの基地に向かった。


 報告があることを伝えると、まことさんは私を基地の一室に通してくれた。


「ここに座ってくれ」


「はい」


 誠さんに言われて、私は用意された椅子に腰掛けた。


 私が座ったのを見て誠さんも、私の席の机を挟んだ向かいの席に座って、


「それで、俺に報告がある、と?」


 と、話を切り出してくれた。


「あ、はい。実は……」


 私は昨日のイアンさんとの会話を誠さんに話した。


 ※※※※※※※※※※


 イアンさん達がスピリアちゃんを引き取ってくれると聞くと、誠さんは安心したように口角を上げて、眼鏡を指でくいっと押し上げた。


「そうか、良かった。実はまだ引き取り先が見つかっていないんだ。あいつらが引き取ってくれるなら助かる」


「でもイアンさん、『良い』って言ってすぐに『もしかしたら受け入れられないかもしれない』って言ったんです」


「……それは、どういうことだ?」


 誠さんは眉をひそめて聞き返してきた。


 私は俯きながら首を振って、


「分かりません。でも『そういう場合もあるって頭に入れておいて』って言われました」


 それからイアンさんが尋ねてきたことを思い出して、


「そういえばスピリアちゃんの種族って何て名前なんですか? 昨日イアンさんに聞かれたんですけど分からないから答えられなくて」


「スピリアの種族? ……確かあの吸血鬼どもがホーリー・ヴァンパイアとか言っていた気がするな」


 誠さんは顎に手をやって考え込みながら言った。


 おそらくハイト達を捕まえて取り調べを行った際に聞いたことなのだろう。


「ホーリー・ヴァンパイア、ですか……」


 もう壊滅させられた種族と聞いているけど、どんな種族だったんだろう。


 名前から推測すると神様に関係してるような感じだけど……。


 『ホーリー・ヴァンパイアってなに?』と私の顔に書いてあったようで、誠さんが丁寧に教えてくれた。


「ホーリー・ヴァンパイアって言うのは、主に唯一神を信仰している平和的な種族だ。俺も直接会ったことはない。一応知識として知っている程度なんだ。何でも、王都から離れた集落のような場所に住んでいたようでな」


「そうなんですか……」


 じゃあ、そのホーリー・ヴァンパイアを壊滅させた人達は、わざわざ王都から離れた所まで赴いて種族を壊滅させたってこと?


 酷すぎる……。そこまでしてホーリー・ヴァンパイア達を壊滅させたかったの?


 意味が分からないよ。


 両方の種族がその集落に住んでたなら『わざわざ』じゃないけど。


「実はVEOの中でも数年前からずっと話題になっていた事があってな。『吸血鬼界のとある種族が立て続けに他の種族を壊滅している』と」


「じ、じゃあ、ホーリー・ヴァンパイア達も……」


 私の言葉に頷いて、誠さんは言葉を紡いだ。


「まだ確証は無いが、もしかするとその種族に殺られたのかもしれん」


「その種族の名前って分かるんですか?」


 私が尋ねると、誠さんは首を振って、


「いや、その時はまだ吸血鬼界との敵視状態が続いていたからな。同じ吸血鬼同士でいがみ合っているくらいの認識だったんだ」


「そうなんですね……」


 その種族の名前さえ分かれば、イアンさん達にも伝えられるのに。


 あ、むしろイアンさん達に聞いたらその種族の事が分かるかもしれ___。


「……あっ」


 他の種族を殺して自らの種族が生き永らえる種族。


 言い換えれば『殺し』を目的として生活している種族ということになる。


 私は聞き覚えがあった。


『ユキにはまだ話してなかったんだけど、実は私、キラー・ヴァンパイアっていう種族なの。名前の通り『殺し』を目的としてる種族で……』


 一昨日、キルちゃんから告げられた衝撃の事実を思い出す。


 確かキルちゃんは、自分が『殺し』を目的とした種族のキラー・ヴァンパイアで、昔はその一族と一緒に生活していたと言っていた。


(まさか……)


 それなら考えられることはただ一つ、だけど……。


 いや、いくらなんでもそんなことあるわけない。


 あってほしくないよ。だって、だって……。


「雪? ……大丈夫か?」


 突然言葉を発してそのまま固まった私を怪訝そうに見ながら、誠さんが尋ねてきた。


「あっ、はい! 大丈夫です。すみません」


「急に固まってどうしたんだ」


「えっと、ちょっと考え事をしてて」


 頭を掻いて笑う私を誠さんは明らかに眉をひそめていたけど、それ以上は聞かずに『そうか……』と言って椅子から立ち上がった。


「今日もスピリアの病室覗いていくか?」


「良いんですか?」


 驚いて思わず椅子から立ち上がると、誠さんはコクリと頷いた。


「あいつも雪に会いたがっていたからな。会ってやってくれ」


「分かりました!」


 私は誠さんに連れられてスピリアちゃんの病室に向かった。


「ユキ!」


 昨日と同じように上体を起こしてベッドに入っているスピリアちゃんは、私を見ると顔をキラキラと輝かせてくれた。


「スピリアちゃん! 今日も来ちゃった」


 スピリアちゃんのベッドに駆け寄って笑顔を見せる。


「ユキ、わたしもうちょっとで退院出来るリ!」


 スピリアちゃんが満面の笑みで言った。


「うん! あと一日頑張ったら吸血鬼界に帰れるね!」


 私の言葉に、スピリアちゃんはさらにニコニコとした。


 振り向くと、誠さんもホッとした顔をしていた。


「ユキ」


 でも、次に私を呼ぶスピリアちゃんの表情からは笑顔が消えていたのだ。


 口角を上げて、しかしその表情に哀しさを宿しながら、


「わたし、国に戻ったら倒したい相手がいるリ。でもわたしだけの力じゃ難しいと思うリ。だからユキにもちょっとだけ協力してほしいリ」


 それを聞いた瞬間、心臓がドクンと跳ね上がった気がした。


 私の推測が正しければ、つまりスピリアちゃんが倒したい相手は……。


「ユキ」


 スピリアちゃんの声に、私はハッと我に返った。


「あ、ん? なに?」


 スピリアちゃんは私を見上げて尋ねた。


「大丈夫リ? なんか、ボーッとしてるリ」


「え? そんな事ないよ、大丈夫。そ、それで、話って何だっけ。確か、倒したい人が……いる、とか」


 後半は小声になって、殆ど口の中でモゴモゴと言う感じになってしまったけど、なんとか取り繕った。


「うん。わたしの一族をみんな殺した人たちがいるリ。だからその人たちを見つけ出して倒したいリ」


「そ、そうなんだ……」


「リ! それでユキにも手伝ってほしいリ。わたしがもし死にそうになったらユキも一緒に戦ってほしいリ。この槍、ユキにもあげるリ」


 頷いたスピリアちゃんは、小さな手を宙に掲げて金色の光を放出させた。


 それは長細い物に形を変え、やがて鋭い槍になった。


 茶色の長い柄に黒い刃。


 電気を反射してその黒い刃が白く光っている。


「わたしが自分で作ったリ。結構使いやすいリ」


 その槍を大事そうに両手で握りしめて、スピリアちゃんは笑った。


「そうなんだ。すごいね、スピリアちゃん」


 この槍で……私は……。


 スピリアちゃんに渡された槍を見ながら、私は憂鬱な気分になった。

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