第86話 雪とイアン 二人の対談
次の日から私はスピリアちゃんの将来について考えていた。
と言っても、これと言った名案は思い浮かばないまま。
ちなみにスピリアちゃんはあと二日で退院できるらしい。
猶予はあと二日。一体どうしたら良いんだろう……。
「ユキ、さっきからずっとボォーっとしてるけど大丈夫かい?」
私の顔を覗き込むようにして、イアンさんが尋ねてきた。
「えっ? あ、はい! 大丈夫です!」
私はハッと我に返って笑顔でイアンさんに答える。
放課後、いつも通りイアンさんに迎えに来てもらって吸血鬼界に転移した私。
今はイアンさんと市場を歩いているところだ。
「何か悩みでもあるのかい? 話してごらん。僕が聞くよ」
それでもイアンさんは不安そうに私を見てくる。
う~ん、イアンさんに話してみようかな。
「……良いんですか?」
「うん」
イアンさんは笑顔で頷いてくれる。
でも迷惑かけたくないんだよね。
イアンさんに話してみたら何か新しい方法が思い浮かぶかもしれないけど。
どうしよう……迷っちゃうな……。
う~ん、う~~ん…………。
「……じゃあ、聞いてもらっても良いですか?」
もしかしたらものすごく迷惑をかけてしまうかもしれない。
だけど、これがきっかけでスピリアちゃんの力になれる可能性もある。
まだ悩ましいけど……一か八か、話してみよう。
※※※※※※※※※※
「なるほど……そんな事があったんだね」
家に着いてから、私はダイニングの椅子に座ってイアンさんにスピリアちゃんの事を話した。
この家のダイニング、本来の用途よりも話し合いの時に使うことの方が多いなぁ。
そんな関係ないことを考えていると、イアンさんは状況を把握したように頷いてくれた。
顎に手をやって考え込むポーズをした後、
「じゃあここに住んでもらうのはどう?」
名案を思い付いたように顔を輝かせた。
「えっ? 良いんですか!?」
「良いもなにも……家族が居なくて身寄りも無いんじゃ、それしか方法が思い付かないよ」
口をすぼめるイアンさん。
た、確かに。ごもっともです。
「でも種族が壊滅させられたのは災難だったね」
「はい……。私、許せないです。スピリアちゃんの種族を壊滅させた人が」
「誰に壊滅させられたのかは分からないのかい?」
イアンさんの問いに私は頷いて、
「誠さんも『スピリアちゃんの種族が既に壊滅している』という情報を知ってるだけで、誰によるものかは分からないって仰ってました」
それ自体は数年前の出来事とされていて、今さら具体的な捜査をするのも難しいそうだ。
「そうなんだ……」
そう呟くイアンさんは少し浮かない顔をしている。
「イアンさん……?」
急にどうしたんだろう。何か心当たりがあるのかな。
「そのスピリアって子の種族の名前って分かる?」
「い、いえ、聞いてないです」
そうか、種族には名前があったんだ。
スピリアちゃんの種族の名前もちゃんと聞いておけば良かったな。
ミリアさんがナース・ヴァンパイアという種族であることは知っている。
この吸血鬼界の種族は◯◯・ヴァンパイアというような名前がつけられているのだ。
あ、そういえば私、ミリアさんの種族しか知らない。
「ごめん。急に悪いんだけど、もしかしたら無理になるかもしれない」
突然イアンさんが表情を曇らせた。
「え? どうしてですか?」
イアンさんは顎に手をやったまま考え込むように俯き、
「まだ確証が無いから何とも言えないんだけど、僕達が受け入れられないかもって事も頭に入れておいて」
「は、はい、分かりました」
「でも一応受け入れようとは思ってるから」
「ありがとうございます」
有無を言わさないような真剣な顔で言ってから、にっこりと頬笑むイアンさんに、私は素直に頷くしかなかった。
「あ、そうだ。キルの事だけど、もう大丈夫だよ」
思い出したようにイアンさんは報告してくれた。
「そうなんですね! 良かったです」
本当に良かった。ハイト達の話をしたら急に家を飛び出しちゃったから心配だったんだ。
まさか三人がキルちゃんの昔の仲間だったとは思わなかったけど。
本当に昨日は悪いことしちゃったな……。
私がハイト達の話をしたせいであんなことになっちゃって。
ミリアさんは変に責任感じてちゃってたけど大丈夫かな。
「ミリアさんも大丈夫ですか? キルちゃんとレオくんを待とうって提案したからって凄く責任感じてたような気がしたんですけど……」
「うん。キルとミリア、二人で話してきたみたいで、帰ってきたとき二人とも笑ってたよ」
ミリアさん、あの時は『回復魔法の練習に』って出ていったけど、本当はキルちゃんと話してたんだ。
丸く収まったみたいで本当に良かった。
明日、誠さんに今日のこと報告しに行こう。
キルちゃんとレオくんは今日も王都での訓練、ミリアさんは今度は本当に回復魔法の練習。
それぞれが私の帰る時間までに間に合わそうになかったので、三人に会えないまま、私はイアンさんに人間界に送ってもらったのだった。




