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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第59話 分かってくれてありがとう

「昨日私が一緒にいた天使は天界の天使なの」


 まずは第一段階。一番言いづらいことだけど後回しにしたくないから最初に言おう。


「天界の……?」


 風馬くんが訝しげに眉をひそめる。


「う、うん」


「でも村瀬、ちゃんと生きてるよな。なのに何で天使と一緒にいたんだ?」


 質問を投げかける風馬くんに、私はこんな話題を持ちかけた。


「つい最近まで話題になってた吸血鬼のことは知ってる?」


 イアンさん達が人間界での訓練を止めてくれたことで最近ニュース番組で報道されることはなくなったけど、六月の頭あたりにピークを迎えていた『吸血鬼の襲来』のニュース。


 ニュース番組はこぞって吸血鬼達の報道をしていたから、どのチャンネルのニュース番組でも必ずと言って良いほど話題になっていた。


 風馬くんも少なからず覚えているはず。


「ああ。人間が襲われることはなかったけど結構ニュースになってたやつだよな」


 風馬くんが人差し指を立てる。


 良かった、覚えてた。これなら話が早い。


「うん。その吸血鬼達は吸血鬼界っていう世界に住んでるみたいなの。そこよりももっと上にあるのが天界って言って天使達が住んでる世界」


 今はぼかして言った方が良さそう。


「天国、とはまた違うのか?」


「うん。天国とはまた別みたい」


 私の言葉に風馬くんは納得したように喉を鳴らした。


 実際のところは天界と天国の違いを私も理解出来ていないから、さっきの発言は本音だ。


「何か思ったよりもややこしいな」


 風馬くんが頭を掻いて言った。


 確かに。私も初めて人間界と吸血鬼界と天界の関係を知った時は頭の整理が追いつかなかったよ。


 ルーンさんの姿を見られて風馬くんがそれを完璧に覚えてしまってる以上、包み隠さずに話してしまった方が良いはず。


 そう思って続きを話した。


「実は私、その吸血鬼達の訓練に巻き込まれちゃってそこから色々あって天界の天使にもお世話になってるの」


「吸血鬼達に巻き込まれたって……。村瀬、大丈夫なのか?」


 風馬くんは冷や汗をかきながら、結構真剣に心配してくれる。


「うん、大丈夫。皆優しいよ」


「そ、そうか。なら良かったけど」


「あと、天界の天使達も最初はちょっと怖かったけど、今はだいぶ柔らかくなったの」


「……うん」


 おそらく頭の中がパニックになったであろう風馬くんがコクリと頷いた。


 まるで私だけが見た夢の話をしているようなそんな状況だ。


 現に、吸血鬼界と天界に行ったJKは多分私が初めてだから他の人が知る由もないんだけど。


「色々と事情があるのは察して目を瞑ってほしいな。それと、昨日のことについてはお世話になってるその流れだから気にしないで」


 流石に無理がある言いくるめ方だと自分でも思う。


 でもこの話をするのに明らかに足りないものがある。


 時間と、私の語彙力だ。


 それに私がもし全て話してしまったら、風馬くんを巻き込んでしまうかもしれない。


 風馬くんは優しい。


 だからこそ何をするか分からない。


 人間界に異世界の勢力が迫ってきた時には、自分の身を投げ出してまで皆を守ろうとしてくれるに違いない。


 確証はないけど風馬くんはそういう子だ。


 以前吸血鬼界でレオくんが言っていたことを思い出す。


 ――これから天界との戦いが激しくなるかもしれない。だからユキは当分吸血鬼界に来ない方がいい。


 私の身を案じて言ってくれたことだ。


 同じ人間の風馬くんにだってこの言葉は有効なはず。


 これから先、戦いが始まるのかさえ分からない状態だけど、だからこそ異世界に関わる人間はこれ以上増やさない方が良い。


 何より風馬くんを危険な目に合わせたくない。


 その為には必要最低限のことだけ話すのが一番だ。


「とりあえず、村瀬は吸血鬼とも天使とも交流があるけど、他の人には内緒で俺もこれ以上関わらない方が良いってことか?」


 ぐだぐだな私の意図を飲み込んでくれた風馬くんがまとめてくれた。


 簡単に言えばそういうことだ。私は風馬くんを危険な目に合わせたくない。


 だから話せることは話すけど、それ以上は踏み込ませない。


 風馬くんの言葉に頷き、


「多分今は頭の中がごちゃごちゃしててよく分からない状態になってると思うの。風馬くんにはルーンさんを見られちゃったからこうして正直に話したけど、ここからは風馬くんは関わらないで大丈夫だから」


「分かった」


 風馬くんは少し戸惑いながらも了承してくれた。


 理解力がある人で本当に良かった。


 もしこれで相手がお調子者の男子とかだったら、私がルーンさんと一緒にいるのを見た時点で騒ぎ立てて大事になっていただろう。


 それにこうやってちゃんと事情とか経緯を説明しても簡単には信じてくれなかっただろう。


 勿論こんな短時間の話し合いで風馬くんが私の話を全て理解してくれたとは思ってない。


 でも風馬くんはそれ以上に理解しようと努めてくれている。


 それだけで有り難かったし嬉しかった。


 こうして、約一時間に及ぶ私の事情説明会は幕を閉じた。


 帰り際に風馬くんが玄関で振り返って、


「今言うことじゃないかもしれないけどさ、気を付けろよ、村瀬」


「え?」


「だって村瀬はこれからもその、異世界に行ったりするってことだろ?」


 私が風馬くんの問いかけに頷くと、風馬くんは頬を指でかきながら、


「何があるか分からないし、俺はちょっとだけでも事情を知っちゃった人間だからさ、余計に心配で」


「うん! ありがとう! 私なら大丈夫だよ」


 私の言葉に風馬くんは安心したような笑みを浮かべてドアノブを握った。


「じゃあまた明日。今日は長居してごめんな。事情話してくれてありがとう」


「ううん! こ、こちらこそ! ありがとう! 分かってくれて」


 風馬くんは口角を上げたまま、私の言葉に頷いて家を出て行った。

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