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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第二章 天界の天使編
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番外編② 何で吸血鬼界に居るんだ?

 双子の天使・フォレスとウォルは、天界が死角として今まで温めていた天使で、この世界の中でも強い力を持っている。


 しかしそんな二人は今、応接室の前でヒソヒソと話し合っていた。


「このタイミングで入るのはマズくない? ボク達も怒られちゃうかも」


 頭の中で天兵長ルーンの巻き添えを喰らう自分たちの姿を思い描いて、ウォルはその身を震え上がらせた。


「流石にそんなことはねーだろ。ボスだって根は優しい方だぞ?」


 フォレスは弟を宥めるようにその背中を叩く。


「い、痛いよ、フォレス」


 ウォルは目に涙を浮かべながら痛みを訴えた。


「とりあえず行くぞ! オレ達だって訓練しねーといけねーんだ。ちゃっちゃと片付けるぜ」


 ウォルに訴えられたにもかかわらず、フォレスはまたウォルの背中を叩いて彼を励ますように白い歯を見せた後、応接室に乗り込んでいった。


「よぉ! ボス! 話ってのは何だ?」


「ああ、そなた達か。座ってくれ」


 そう言ってルーンは怒りを抑えつつ、長椅子を指し示した。


 ルーンの指示通り、フォレスは豪快に、ウォルは怯えながら長椅子に腰を掛ける。


 ルーンが座っている椅子の側にはフェルミナも仕えていた。


 フェルミナはルーンを見つめながら、彼女が上手く感情をコントロール出来るか不安でしかなかった。


 そんな幼馴染みの心遣いを読んだかのように、深く息を吐いて自らの感情を抑えようと試みながら、ルーンは双子の天使を見て尋ねた。


「……訓練中だったか?」


「いいや、ちょうど一区切りついた所だったぜ。心配すんなよ、ボス」


「大丈夫です。お気になさらず」


 フォレスが満面の笑みを浮かべて親指を上へ向け、ウォルも兄に続いて返答する。


 彼らの返事を聞いて、ルーンは安心したように一呼吸置くと、


「そうか。なら良かった。突然だが、そなた達に質問がある」


「質問、ですか?」


 ビクビクしながら尋ね返したのはウォルだった。膝に拳を置いて畏った佇まいだ。その拳が恐怖と緊張で少し震えている。それを何とか抑えようとウォルは必死になっていた。


 そんなウォルに頷いて、ルーンは続けた。


「まず我がそなた達に応援を頼んだのは、吸血鬼界をあの日で終わらせる為だったな?」


「は、はい。そのように伺っておりましたが……」


 不安そうに頷いて、ウォルはルーンの顔色を窺った。


 ____何か、ものすごく嫌な予感がする。


 この胸の騒めきが形として表れないことを、ウォルは内心で願ったのだが。


「なら、何故人間まで倒そうとしたのだ?」


「えっ! えっと……」


 返答に困ったウォルは、助けを求めるように双子の兄を見た。


 実際、人間___村瀬(むらせ)ゆきを最初に攻撃したのは兄のフォレスの方であって、ウォルには全く身に覚えのないことだ。兄にしか真相は分からない。


 弟に見つめられたフォレスは、若干戸惑いながらも答えを口にした。


「そりゃ、だってあいつが吸血鬼野郎を庇いやがったからだよ、ボス。オレ達だって、そもそも人間を倒す気なんてなかったぜ? でもあの女が邪魔してきたから、仕方なくぶっ倒してやったんだよ」


 その後で、フォレスは不意に声のボリュームを落として、


「もしかして、それがマズかったか?」


 ルーンの顔を覗き込むようにして尋ねた。


「当たり前だ」


 ルーンは腕を組んで息を吐き、静かに言った。


「そのせいで、吸血鬼界の王まで来る騒ぎになってしまったではないか。もし腹いせに、吸血鬼達が天界に攻めてきたらどうするつもりだ。鬼衛隊とは何回も剣を交えたが、王軍との戦闘経験は無い。そんな状態で向かってこられて、果たして我らは迎え撃てるのか?」


 吸血鬼界の王軍は、天界の天兵軍と同じくらいの規模且つ強さを誇る最強の軍であり、ルーン達が一度も戦闘したことがない相手であるため対策が無いのだ。


 相手の弱点や戦闘パターンなどを先読み出来ないまま戦闘となれば、その力は互角かそれともどちらかが優勢の状態の二択。当然ながら、今の時点ではその結果は誰にも分かり得ない。


「まぁ、そりゃー、何とかなるだろ。その為に訓練してるんだし」


 頭の後ろに手を回して呑気に言うフォレス。


 危機感が無いのか、それともそれなりの自信があるのか定かではない彼に、ルーンは忠告する。


「今日からは、吸血鬼達が攻め込んでくる可能性も考えて訓練に臨んでくれ。それと、我が命じた以外の行動は一切禁止だ。吸血鬼界に居る人間に手を出す必要はない。良いな?」


「はいよ」

「か、かしこまりました!」


 双子の天使は声を揃えて返事をした。


「話は以上だ。もう訓練に戻って良いぞ」


 ルーンはそう言って椅子から立ち上がった。


「あ、じゃあボス」


 彼女を呼び止めてフォレスが言う。


「一つだけ質問してもいーか? 何であの人間は吸血鬼界に居るんだ? だいたい、人間界と同盟結んでんのはオレ達天界だろ? なのにあの人間が吸血鬼界に居るっておかしいじゃねーか」


「あぁ、それなのだが、我も詳しいことまでは分からない。だがVEOのマコトによれば、ユキには吸血鬼界の存在が必要不可欠らしいのだ。彼女にとって、あそこが唯一の逃げ場所だと言っていた」


「人間界で戦争でも起こってんのか? 逃げてくるってどういうことだよ」


 フォレスは、雪の事情に納得出来ずに眉を潜めた。


 確かに雪が吸血鬼界に行っている今の状況は、大まかに言えば同盟違反に当たる。本来同盟を結んでいるのは人間界と天界であり、吸血鬼界は立場上隅の方に追いやられている状態が続いているのだ。


 それにも関わらず、本来とは違った世界の者同士が交友関係にある事実はフォレス、及び天界の天使達にとってにわかに信じがたいことだった。


「いや、人間界は平和だ。ただユキの人間関係に問題があるようなのだ。言わば"現実逃避"だな」


「"現実逃避"ねー。りょーかい。とりあえずそいつに手出さなかったらいーんだろ?」


 フォレスの言葉にルーンは頷いた。


「じゃ、オレ達訓練に戻るぜ」


「お世話になりました、天兵長」


 納得したように手を振り去っていく兄とは裏腹に、礼儀正しくお辞儀をしてウォルは兄の後を追って去っていった。


「やはりユキ様のことが天界中で問題視されているようね、ルーン」


 二人が去った後でフェルミナが言った。


「ああ。当然の事だろうがな。我だって最初は何故吸血鬼界にユキが居るのか疑問に思っていたし」


「近いうちに、またユキ様をお連れした方が良いかしら? 約束の事も話したいでしょう?」


 フェルミナに問われてルーンは頷いた。


「また直接人間界に行ってみる。ユキとは、もう一度話をした方が良さそうだ」

これにて第二章 天界の天使編完結です!

次話から第三章 夏合宿編をお楽しみください!

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