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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第288話 夢みたいな生活の中で

 それから人間界に戻った私は、風馬(ふうま)くんと本格的にお付き合いすることになったことをおじいちゃんに伝えに行った。勿論、風馬くんも一緒だ。


「おぉ、そうか! (ゆき)に異性の友人が出来たことは聞いていたが、まさか本当にゴールインするとはな……! うううっ、わしは嬉しいぞ、雪!」


 鼻水をジュルッとすすりながら、瞳を潤ませて涙を流し始めるおじいちゃん。


 家に帰ってきた私と風馬くんを玄関まで出迎えてくれたのは嬉しいんだけど、玄関で号泣されると私達が家に上がれない……。


「お、おじいちゃん、泣かないでよ……! ていうか、私と風馬くんが付き合うかもって思ってたの?」


「まぁ、大体な。それに、風馬くんがわしを心配して家に来てくれた時点で分かったぞ。この子は神様みたいに優しい子じゃ。きっと雪のことも助けてくれるってのう」


 しわしわの手で涙を拭いつつ、おじいちゃんはリビングへと戻っていく。私は風馬くんに『上がって』と声をかけてから、おじいちゃんの後をついていった。


 懐かしのリビングに入ったところで、


「そ、そうなんだ。あ、それでお付き合いのことだけど、まだ私達何にも考えてなくて、お付き合い始めたからって急に家を開けることが多くなる、とか休日は毎週デート、とかそんなのはまだ無いから、安心してね。おじいちゃんが疲れて帰ってきた時は、私が夜ご飯作るし」


 おじいちゃんが今後について色々と心配してきそうだったから、慌てて今の時点での考えをまくし立てる私。するとおじいちゃんは心底安心そうな顔をして、


「そうかそうか。ありがとう。やはり雪は優しい孫じゃ。そういえば、風馬くんのご両親にはお伝えしたのか?」


「あっ、いえ……。俺、実は一人暮らしで親は居ないんです」


 風馬くんの言葉を聞いて、おじいちゃんは一瞬驚いたように目を丸くしたけど、すぐに肩をすくめて風馬くんに謝罪する。


「そ、そうか……。嫌なことを聞いたな、すまない」


「いえいえ! 気にしないでください!」


 慌てて両手を振る風馬くん。すると、今までうなだれていたおじいちゃんが、いきなり顔を上げてポンと手を打った。


「そうじゃ、せっかくじゃし、風馬くん、わしらと暮らさんか?」


「「えっ⁉︎」」


 おじいちゃんのまさかの提案に、風馬くんは勿論のこと、私まで驚いて声をあげてしまう。


「高校まではここに住んで、大学進学の時に家を出て二人で暮らしても良いしのう。選択肢は色々じゃ。勿論、一緒に暮らすことも強制じゃないからの」


 どうやらおじいちゃんは本気らしく、無理強いはせずとも私達の将来を真剣に考えてくれているみたいだ。選択肢を色々と出しては考え込むその姿を見れば、おじちゃんがどれだけ私達のことを想ってくれているかは一目瞭然。


「い、良いんですか?」


「勿論。わしは大歓迎じゃ」


 遠慮がちに尋ねた風馬くんは力強いおじいちゃんの肯定を受けて目をしばたかせ、『本当に大丈夫なのか』と再確認するように私を見つめてきた。


「わ、私も! 風馬くんと一緒に暮らせるなんて夢みたいだし、何かその……家族、みたいで嬉しい!」


 両手の拳を握りしめ、私も風馬くんに自分の気持ちを伝えた。すると風馬くんは安心したように顔をほころばせて、


「雪……お爺様……。色々とご負担をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします!」


 私とおじいちゃんを交互に見つめ、深々とお辞儀をしてくれたのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 それからは、まさに怒涛の日々だった。


 風馬くんは住んでいた小さなアパートから引っ越し、私の家にやってきた。


 引越し業者の方々に依頼して風馬くんの荷物一式を私の家まで運んでもらい、それを私とおじいちゃん、風馬くんの三人で順番に運び込んでいく。


 勿論、おじいちゃんは老体だからあまり無理をさせるわけにもいかないので、基本的には私と風馬くんの二人で頑張ったけど。


 風馬くんの部屋は私の隣になった。あわよくば一緒の部屋になりたかったけど、お互いのプライバシーもあるし、仕方なく我慢することにした。


 今日は土曜日だから、部屋の整理をしたり近くのデパートに行って、風馬くん用の食器や歯ブラシなどの生活用品を買い揃えたりした。


 ちなみに、グリンさんが倒れた時点で人間界には(まこと)さんが連絡してくれたらしく、おじいちゃんの想像以上に早く家に戻っていつも通りの生活を送ることが出来たのだとか。


「そういえば、もうあの大群は襲ってこないのか? 一応、鈴木(すずき)さんには『もう普通の生活を送ってもらって大丈夫だ』と言われたが……。どうしても不安でのう」


「それなら本当に大丈夫だよ、おじいちゃん。大群を操ってたボスは私達が……」


 倒したって言えるのかな。グリンさんが消滅した直接の原因は、グリンさん本人が自分で自分の魂の核を刺し割ったことだし……。


 私とイアンさんの合体技も決定打にはなったけど、あれを受けてもまだグリンさんは立ち上がれてたから、私達が倒したとは言えないかもしれない。


「雪? どうした?」


「ううん、大丈夫。あの大群を操ってたボスは消滅したから、もう安心して、おじいちゃん」


「そうか、それなら安心じゃな。雪が倒したのか?」


「うーん、私っていうか、吸血鬼の皆と天使の皆、かな」


 そう言いつつ、チラリと風馬くんを見やる。今回の決戦で勝つことが出来たのも、ひとえに風馬くんが黄金の魔法陣を展開させてくれたおかげだから。グリンさんを倒した人員の中には、当然ながら風馬くんも含まれる。


「雪も吸血鬼の皆も天使の皆も……。あの場に居た全員が頑張った結果です。な、雪」


 風馬くんはニコリと笑って、私をフォローしつつおじいちゃんにそう伝えてくれた。その言葉に素直に嬉しくなって、私は力強く頷く。


「うん! 皆のおかげだよ、おじいちゃん」


「そうか……。そんなに良いヒト達に巡り会えたんじゃのう、雪。良かったな。出来ればわしも直接お礼を言いに行きたいところじゃが……。吸血鬼や天使の世界とやらがどこにあるのか分からんしのう」


「大丈夫だよ、おじいちゃん。皆には私と風馬くんからいっぱいお礼言ったから。ありがとう」


 亜人界や天界への行き方について真剣に考え込むおじいちゃんに、私はお礼を言った。


 でも、確かにおじいちゃんの言い分は分かる。私や風馬くん、亜子(あこ)ちゃん、誠さんならともかく、普通の人間は亜人界や天界の存在は知っていても、その場所までは知らない。


 これも今まで三つの世界が入り混じって良い関係を築けなかった原因だから、天界と人間界が亜人界と敵対するのを止める意思を示し、亜人界の王朝が新しく誕生した今だからこそ、双方向……もとい三方向の行き来が自由に出来るような仕組みが広がれば……。


 おじいちゃんの言葉を聞いて、私はそんな未来が実現することを密かに願ったのだった。

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