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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第287話 戴冠式。そして……

 あっという間に二日が経った。その日、私達はVEOの基地に集合して、(まこと)さんに亜人界へ連れていってもらうことになっていた。


 ちなみに最初から基地に居た誠さんを除いて、一番乗りは私。二番手が亜子(あこ)ちゃん。……で、まだ来ていない風馬(ふうま)くんが三番手だ。


 亜子ちゃんからは『どんだけ早く来たのよ』と半分呆れた顔をされたけど、それだけ楽しみで実はあまり眠れていないのだ。


 まぁ、そんなことを言ったら心配させてしまうし、もしかしたら『睡眠はちゃんと取れ』って怒られるかもしれないから言わないけど。


「おはようございます!」


 しんどそうに息を切らしながら、風馬くんが走ってきた。


「おはよう、風馬くん」


「珍しいわね、柊木(ひいらぎ)くんがあたし達の中で一番最後だなんて」


「ご、ごめん……」


 私と亜子ちゃんの言葉に、風馬くんは膝に手をついて息を整えながら謝る。


「べ、別に謝らなくて良いんだよ? 風馬くん」


「まだ予定していた集合時間の三分前だから安心しろ。(ゆき)と亜子が早く来すぎなんだ、全く」


 慌てる私の横で、誠さんが腕時計を見て軽くため息。ごもっともな意見に、私と亜子ちゃんは肩をすくめた。


「ご、ごめんなさい……」

「はーい」


「まぁともかく、これで全員揃ったわけだし、亜人界へ向かうぞ。出来れば風馬をひと休憩させてやりたいが、戴冠式に間に合わなくなる」


 誠さんは早口でそう言うと、基地にある魔法陣の機械をいじり始めた。


「ふ、風馬くん、大丈夫?」


「あ、ああ、うん。大丈夫。ありがとう」


 まだ息の荒い風馬くんは、それでも私に笑顔を向けてくれる。


「何かあったの? それとも寝坊?」


「えーっと……。そうそう、寝坊したんだよ」


「……そうなんだ」


 何か考え込んでたみたいだけど、本当に大丈夫かな。どうしても言いたくない事情もあるだろうし、無理に詮索するのは良くないか。


「よし、行くぞ」


 誠さんの言葉を合図に、魔法陣が展開されて、私の視界が真っ白に包まれた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 次に視界が開けた時には、あの時計台のふもとに居た。ここからまっすぐ進めば鬼衛隊のログハウスがある市場、後ろを振り返ってまっすぐ進めば王宮というところだ。


 戴冠式があるからか、市場の方からたくさんの吸血鬼達が王宮へと向かっていた。新しい国王の誕生を、吸血鬼領の皆も心待ちにしているのだろう。


 私達も、そんな吸血鬼達に混じって王宮へと向かった。


「あ、ユキ〜!」


 王宮の前では、ヴァンさん、パイアさん、イアンさんの三人が一般の吸血鬼達に挨拶をしたり楽しそうに話したりしていた。そんな中、イアンさんは私達に気付いて大きく手を振ってくれる。


「イアンさん!」


 手を振り返しながら走っていき、飛び込んできたイアンさんの真新しい衣装に私は目を奪われた。


「うわぁ、すごい! カッコいいです!」


 白を基調としたタキシードスーツに金色のボタンなどの装飾が施されている。勿論、上から羽織る黒マントも忘れていない。


 いつもは白いブラウスに黒マント、というシンプルな服装だから、こんなに畏まった衣装のイアンさんを見るのは初めてだ。ちなみにヴァンさんもイアンさんと同じタキシードで、パイアさんは人間界で言うウエディングドレスのような、真っ白なドレスを身に纏っていた。


「ははっ、ありがとう。何だか恥ずかしいな」


 頬を赤らめながら黒髪を掻くイアンさんの肩に、ヴァンさんが優しく手を置く。


「胸を張れ、イアン。今日からはお前も吸血鬼()の皇太子なのだぞ」


「は、はい、お兄様。勿論、心得ております」


 胸に手を当てて礼儀正しくお辞儀をしてから、イアンさんは改めて私達に向き直った。


「わざわざ来てくれてありがとう、ユキもフウマもアコもマコトくんも」


「お前が厚かましく招待状を無理やり俺に持たせただけだろ。全く」


 腕を組んで呆れた様子の誠さんに、イアンさんが拳を上げて猛抗議。


「何でそんな根も葉もない事言うんだよ、マコトくん! 興味津々だったじゃないか」


「なっ……いや、そんなことは____。ともかく、お前の渡し方が強引だったのは事実だ」


 そっぽを向く誠さんをなだめ、イアンさんは慌てて謝罪した。


「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。新しい王朝になっても、どうせVEOは奇襲してくるんでしょ? 怒りはその時にぶつけて良いからさ____」


「いや、もう奇襲はせん」


「「えっ⁉︎」」


 誠さんの言葉に、私もイアンさんも思わず驚きの声をあげる。ルーンさん____もとい天界だけじゃなくて、人間界も亜人界への奇襲を止めるんだ……!


「貴様らの相手をしているのも馬鹿馬鹿しくなってな。それよりも人間界の平和を守るために活動した方が、よっぽど社会貢献できるというものだ」


「じゃあじゃあ、吸血鬼抹消組織って名前も変えてくれるのかい?」


「ああ、人間界平和部隊・HPBだ」


「え、えいち……? 何を言っているんだい? マコトくん」


 首を捻り、アルファベッドを言いにくそうにするイアンさんに、誠さんは叫んだ。


「新しい略称ではないか! 確か、VEOの時もなかなか覚えなかったよな、イアン」


「人間界の特殊な言葉はよく分からないよ。普通に喋ってくれないと」


 誠さんは、そう言って唇を尖らせるイアンさんを見やって腕を組み、


「まぁともかく、そういう訳だから安心しろ」


「えへへ、僕のお願い聞いてくれるなんて、優しいな、マコトくんは」


「誰が貴様のためだと言った。人間界のためだと言ったではないか」


「はいはい〜。マコトくんは素直じゃないもんね〜」


「き、貴様っ……!」


 肩を叩かれた誠さんは、苛立ちを抑えつつも歯ぎしりして拳を震わせていた。


 すると、ラッパのような軽快な音が王宮の敷地内一帯に鳴り響いた。


「そろそろだな。イアン、式の準備だ」


「行くわよ」


「はい! お兄様! お姉様!」


 ヴァンさんとパイアさんに促され、イアンさんは足早に王宮の中へ入っていった。


 ヴァンさんが新国王、パイアさんが新女王、イアンさんが新皇太子となって、それぞれ王冠を頭につけたり、宣言スピーチをしたりと神聖な儀式は拍手の渦の中で幕を閉じた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 戴冠式やその後のパーティーも終了し、王宮の皆が後片付けに追われている頃。


 私達は、誰も居なくなった王宮の中庭に居た。先程まで式後のパーティーが盛大に催されていた場所だ。


 私と向き合っているのは風馬くんで、私達二人を取り囲むように立っているのは吸血鬼の皆と亜子ちゃん、誠さんだ。


 風馬くんは何だか顔をこわばらせているけど、事情を全く知らされていない私は何が何やら……。


 すると、風馬くんは後ろに回していた手を前に持ってきて、白い紙に包んだ薔薇の花束を私へと差し出してきた。


「雪。改めて、俺と付き合ってくれませんか?」


「え、えっと……! ふ、風馬くん、何もこんな所で……今はヴァンさんとパイアさんとイアンさんのお祝いを……」


「安心しろ、ユキ」


「フウマの告白タイムも、この戴冠式に含まれてるのよ」


「えぇっ⁉︎ そ、そんな……!」


「ファイト」


 ふぁ、ファイトってイアンさん……!


「雪、可愛くていつも優しくて繊細で一生懸命で、そんな君が大好きだ。俺と付き合ってください!」


 皆が私の返事を待っている。


 は、恥ずかしい……! こんなに注目を集めてしまうのは初めてだ。で、でも__、


「こ、こちらこそ!」


 恥ずかしくても急なプロポーズで驚いても、私の答えは最初から一貫している。


「私も、カッコよくていつも優しくて繊細で一生懸命で、そんな風馬くんが……だ、大好きです! こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 私が頭を下げると、風馬くんが嬉しそうな息を漏らした。


「ご、ごめん。ちゃんと改まった形で告白できてなかったからさ。ちゃんとやりたいなって思って皆に無理言ったんだ」


 巻き起こる拍手の中で、近づいてきた風馬くんがそっと理由を説明してくれる。でも、風馬くんが私に近付いてきたのは理由を話すためだけではなかった。


 不意に何か感触を感じて髪を触ると、そこに今まで風馬くんが持っていた薔薇の花が一輪刺さっていたのだ。


「やっぱり雪に似合う。可愛いよ」


「はああぁぁぁぁ」


 ニコッと風馬くんに微笑まれて、私の顔はいきなり沸点に達したように真っ赤になって熱くなってしまった。


 嬉しい。率直な気持ちはこれだ。


 それでも皆の前で告白されたこととか、風馬くん本人に『可愛い』と言ってもらえたこととか、風馬くんの笑顔とか、色々なものを加味すると嬉しいだけじゃ足りない。


 すごくすごく幸せだ。


 皆に拍手で祝福してもらいながら、戴冠式は今度こそ幕を閉じたのだった。

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