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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第282話 同じ。でも、違う

 風馬(ふうま)くんが作り出してくれた異空間。地上に居る時に見えた裂け目は黄金だったけど、実際に入ってみると異空間の中は真っ白だった。


 真っ白な異空間の中を、これまた真っ白のペガサスにまたがって進んでいく私、イアンさん、風馬くん。


 ペガサスの羽がはためく音を聞きながら辺りを見回していると、正面奥に倒れている影を発見した。


 今はもうボサボサになっている銀髪、ハイト達の爪で引き裂かれて穴だらけの服、傷だらけで血まみれの肌……。グリンさんだった。


 ペガサスの(ひづめ)が床に着地し、カタッと音を立てる。私達がペガサスの背から降りると、二対の天馬は自分達の背後に現れた黄金の魔法陣の中へ消えていった。


 それと同時に、グリンさんがボサボサの銀髪____否、上体を勢いよく起こす。柔軟な動きだった。


 まるで攻撃を受けたゾンビがその場で体をくねらせて蘇生するかのような、そんなおぞましい恐怖感を私は覚えてしまう。


「真っ暗闇に放り込まれたと思ったら、今度は真っ白な空間か。眩しいし明暗差が激しいし、目がチカチカする」


 辺りを見回して、グリンさんは毒を吐いた。


 一帯が白に包まれた眩しい世界。だけど、グリンさんの銀色の瞳にその光は写っていない。


 確かに、ブリス陛下が作ってくださったブラックホールの暗闇と、風馬くんが作ってくれたこの真っ白い空間の眩しさは正反対の明るさだ。


「グリン、今度こそ君はここで終わりだ」


 イアンさんは上体を起こしたグリンさんへと歩み寄ると、冷たい口調でそう言った。


 何としてでもグリンさんを倒す。これ以上、この戦いを長引かせるわけにはいかない。


 そんな決意が込められた声色で。


 だけど、グリンさんはそんなイアンさんをキッと睨みつけた。あからさまな敵意。それが銀色の瞳からありありと伝わってくる。


「何でこんなヘンテコな場所に余を追いやった。早く元に戻せ!」


「言ったでしょ。君はここで終わりなんだよ」


 イアンさんの言葉を聞いた途端、グリンさんの唇が横に引かれた。


破顔一笑(はがんいっしょう)。笑っちゃうよ……。終わるのは貴様らの方だ!」


 厳しい視線をイアンさんにぶつけると、グリンさんは傷だらけの身体を動かしてイアンさんへ迫っていく。


 丸太のようなハンマーを片手に迫ってくる銀髪の天使を見据えて、イアンさんは私と風馬くんに向かって叫んだ。


「ユキ、フウマ、下がってて!」


 ここはイアンさんの言うことを聞いた方が良い。駄々をこねて『私も戦いたい』なんて言うのは簡単だ。本当ならそう言いたい。


 でもイアンさんは絶対に許してくれないだろう。それどころか、私に気を取られてグリンさんの攻撃を受けてしまうかもしれない。


 グリンさんのハンマー捌きは逸材だ。だからこそ、一度その攻撃を受けてしまったら、なかなか形勢を逆転させることができない。


 そうなれば、イアンさんの望み通りにグリンさんと決着をつけることが叶わなくなってしまう。


 だから、私はイアンさんの言う通りに数歩後ろへ下がった。勿論、風馬くんもだ。


「【暗黒(ダークネス・)(スパーダ)】!」


「【破滅(アーテ・)(ハンマー)】!」


 互いに詠唱し、相手に攻撃を加えていく吸血鬼と天使。


 剣とハンマーが激しくぶつかり合い、眩しい橙色の火花を散らす。どちらも決して引けを取らない。


 どちらかが押されて不利になっているということもなく、ただお互いがお互いを倒すため、決死の一撃を繰り出していた。


「そなたなら分かってくれるって思ってたのに!」


「何をっ……言っているんだい……?」


 グリンさんのハンマーを剣で受け止めつつ、イアンさんが問い返すと、


「ルーンが天兵長になった時、『天兵長よりも強い奴が居ると変だから、お前は能力(ちから)を最大限まで引き出さないでくれ』って周りの大人に言われたんだ! そなたも同じだっただろ? 父上を殺した時!」


 グリンさんの叫び声を聞いたイアンさんが、ハッと息を呑む。


「ウィスカーに聞いたぞ! 『天界との関係がもっと悪くなるから、これからは能力(ちから)を制限してくれ』って頼んだって!」


 畳みかけるように、言葉を投げかけるグリンさんは、それでもハンマーを振りかぶる手を止めない。


 ジリジリと、イアンさんが押されていってしまう。


「余とそなたは同じ境遇なんだよ! だからそなたにも余の屈辱が分かるはずだ!  なのに、何で余を倒そうとするんだい⁉︎」


 グリンさんの問いかけに、イアンさんはクッと歯を食いしばった。


「僕と君は違う!」


「いいや、違わない! 同じだ! 過去の状況、言われた言葉、命じられた能力(ちから)の制限……。何もかもが同じじゃないか!」


「確かに、そうかもしれない……」


 急に語気を弱め、剣を持っている手を下ろすイアンさん。それを好機と踏んだのか、グリンさんは再びハンマーを振りかぶる。


 イアンさんの黒髪へ迫る丸太のようなハンマー。しかし、イアンさんがハンマーに叩かれることはなかった。その前に剣で受け止めたからだ。


「でも、僕はそこで折れなかった! 折れたくなかった……! 皆が僕を支えてくれたから!」


「なっ……⁉︎」


 てっきり、イアンさんをダウンさせられると思っていたのに防がれた。そんな予想外の状況への戸惑いが、グリンさんの表情には宿っている。


 イアンさんは受け止めたハンマーを押し返しつつ、


能力(ちから)の制限を言い渡されて自暴自棄になって、周りのヒト達を憎んで殺そうと思ってる、そんな君とは違うんだ!」


「黙れ! 余をこんな奴にしたのは誰だ! 余を馬鹿にしてきた大人達だろ! 余よりも弱いくせに父上に気に入られたからって、天兵長になったルーンだろ!」


「天兵長は悪くない!」


 再び押し返されたハンマーで少しだけ後退してしまうも、グッと足に力を込めてイアンさんは何とかその場にとどまった。


「天兵長は君に感謝していたはずだよ。君のおかげで強くなれたんでしょ? だったら絶対に感謝の気持ちがあるはずだ」


 イアンさんの言葉を断固否定するように、グリンさんは勢いよく首を振る。


「ない! ない! ない! そんなものがあるんだったら、ルーンはとっくに余に天兵長の座を譲ってるじゃないか!」


「それとこれとは話が別だ!」


 首を振り、俯いていたグリンさんは、イアンさんの叫び声に顔を上げた。


「何で感謝と譲渡が一緒になるんだ! 君のその思考が間違ってるんだ!」


 イアンさんは本気で怒りをぶつけていた。あまりにも理不尽な言い分に、耐えられなくなったのだろう。


 イアンさんに怒鳴られたグリンさんは、悔しげに歯ぎしりして、


「くそっ……! 貴様には仲間が居たかもしれない……。でも余はずっとひとりぼっちだったんだよ……!」


「天兵長は?」


 試すようなイアンさんの口調。イアンさんだって、返ってくる答えは分かっているはず。それでも敢えて尋ねてみたのだろう。


「あんなもの、仲間なんかじゃない。すぐに余を置き去りにした! ウィスカーだって____」


 私も、きっとイアンさんも予測していた通りの答え。


 言ってから、絶句したようにグリンさんは銀色の瞳を揺らめかせた。

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