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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第275話 氷魔法のレクチャー

 翌朝。目を覚ました私は、暫くボーッとしていた。


 昨夜は何だか良いことがあったような気がするのに、寝起きのせいですぐには思い出せない。


 何とか脳味噌を回転させていると、こんな言葉が浮かんできた。


 ____安心してくださいね、私の英雄。


 英雄……。えいゆう……。エイユウ……。へぇ____って! 


 私が言ったんじゃん、それ! 


 なに、そのクサすぎる台詞は! 


 漫画でもあまり言わないんじゃない⁉︎


 イアンさんの髪、サラサラだったなぁ……じゃなくて!


 私ってば、何であんな恥ずかしいことを堂々と⁉︎


 いや、いくらイアンさんが精神的に参ってたみたいだったからって、何も子供をあやすみたいにしなくても良かったじゃん!


 しかも一丁前に『私が助けます』とか宣言しちゃったりして!


 も、勿論、イアンさんのことは助けるつもりだけど……。


 あー、何か上から目線になってなかったかな。イアンさん、内心ではちょっと嫌がったりしてないかな。


「ゆ、(ゆき)、大丈夫か?」


「あ、うん……大丈夫……」


 顔を覆ってベッドの上でジタバタしていると、隣のベッドで上半身を起こした風馬(ふうま)くんが心配そうに、若干引きながら見つめてきた。


 一応返事はしたものの、それでも風馬くんの表情は不安そのもの。


 イアンさんに『英雄』、『私が助けます』などなどクサい台詞を言ってしまっただけに止まらず、それを思い出して早朝からベッドの上で暴れ回っていたのを、晴れて両思いとなった風馬くんに目撃されてしまい、恥ずかしさで顔が火照って爆発してしまいそうだった。


 とにかく、今はこうしている場合ではない。


 一刻も早くしっかりとした氷魔法を身に付けて戦闘時に使えるようにならなければ、グリンさんを倒すことは出来ない。そのためにも、今日はグレースとルミレーヌ様に猛特訓を申し込む予定だった。


 今日の予定を思い起こしていると、当の二人を含めた皆が起床してきた。当然ながら、鬼衛隊のログハウスの一階だけでは置くことの出来るベッド数に限りがある。


 そのため、サレムさんとスピリアちゃんの吸血鬼兄妹、フォレスとウォルの双子天使、グレースとルミレーヌ様の主従氷結鬼、亜子(あこ)ちゃんには二階で寝てもらっていたのだ。


 ちなみに、鬼衛隊の皆と私と風馬くんの六人は一階組だ。私と風馬くんが一階で寝ることに関しては、亜子ちゃんが妙にニヤニヤしながら譲ってくれた。少しだけ、亜子ちゃんがニヤつく理由に察しがついたけど、何も気付いていないフリを決め込む。


 今は何よりも優先すべきことがあるからだ。


「グレース、ルミレーヌ様。……おはようございます」


 二人を呼んでから、肝心の挨拶を忘れていたことに気付き、慌てて軽く会釈。その後で、私は二人に改めてお願いをした。


「私に氷魔法を使った攻撃方法を教えてください!」


「えっ、何で? ユキ、【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】撃ててたじゃない」


「うん、そうなんだけど……。あれはグレースがやってたのを思い出して見よう見まねっていうか、感覚的にやったらたまたま技が発動してくれた、みたいな偶然だから。自分でも技のメカニズムが分かってないし、この際だからちゃんと一から攻撃方法を理解したいの」


「なるほど……。今度、いつグリン・エンジェラが攻めてくるか、はたまたどんな行動に出てくるかは予測出来ないけれど、戦線から退いているこのタイミングで、ということね」


 イマイチ言葉の伝授力が弱かったであろう私の言葉の意図を汲み取り、あくまでも簡潔にルミレーヌ様が補足してくれる。それに私は頷いて、改めて二人を見つめた。


「グレースもルミレーヌ様も、グリンさんとの戦闘で疲れ切ってるのは重々承知してます。だからこそ本当に申し訳ないんだけど……」


「大丈夫だよ、ユキ!」


 二人の疲労感が表情から抜けきっていないのが見て取れるからこそ、余計にこんなことは頼みづらい。それでも時間を割いて特訓するなら、今日この時しか無い気がする。そんな曖昧な推測をしてのお願いだから、断られても当然のこと。


 そう思っていたにも拘らず、元気な声が即座に快諾してくれた。申し訳なさすぎて俯いていた私は、その声に顔を上げた。


 見れば、長い白髪を揺らしたグレースが、臨むところと言わんばかりに歯を見せて力こぶを作っているではないか。


「……本当に?」


「勿論!」


「こんな状況だもの。ユキの特訓の成果が、そのままグリン・エンジェラとの戦闘結果に直結するわ。少しでも腕を上げておきましょう」


 グレースが力強く頷く横で、ルミレーヌ様も私の特訓に乗り気な態度を見せてくれた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 私、グレース、ルミレーヌ様の三人は、鬼衛隊のログハウスの外に出ていた。勿論、何の仕切りも作らないまま氷魔法を打つわけではない。そんなことをしたら、近くの市場が氷で大変なことになってしまう。


 私達三人を取り囲むように、大きな氷の壁がそびえている。ルミレーヌ様が作ってくれたものであり、これが氷魔法を市場や他の家に飛ばさないための仕切りだった。


 今の亜人界は人間界で言うところの『冬』に当たる寒い時期だから、長時間氷の壁を建てていても溶ける心配はない。思う存分、特訓に励むことが出来るというわけだ。


「まずは魔法の打ち方の基礎から教えるわね。それが出来たらグレースと軽く打ち合って、感覚を掴むのよ」


「分かりました!」


「ユキ、頑張ってー!」


 私の前方____少し離れたところに立って両手を大きく振るグレース。私も手を振り返して応える。


「まず手を前に突き出して。指先に魔力を籠めるイメージで力を入れてみて」


「は、はい!」


 言われた通り、利き手である右手を伸ばして、五本の指先に意識を集中させる。五本指を穴が開くほど見つめていると、


「そうそう、その調子」


 ルミレーヌ様は、軽く手を叩いてから次の指示を出してくれる。


「魔力が溜まってきたな、って思ったら詠唱してみて」


 指先へ流れ込んでくる冷たい感覚____血管を通して真水が流れてくるようなこの感覚が、魔力が溜まりつつあることを表しているのだろう。冷たい感覚が指先に集中したのを感じ取った瞬間、私は声を張り上げた。


「【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】!」


 私の右の掌から、鋭く尖った氷の塊がまっすぐ放射された。それは目にも止まらぬ速さで向かい側のグレースに迫っていく。


「良い感じだよー!」


 俊敏に反応し、自分も【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】を出して私の氷柱を打ち消した後、グレースはぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「で、出来た……!」


 自分の掌を見つめ、私は声を漏らす。


 技を出した反動からか、手先が小刻みに震えている。でも痛みがあるわけではないから、魔法を打つ際の力の入れ具合もちょうど良かったのだろう。


 ルミレーヌ様の分かりやすいレクチャーのおかげで、私は今度こそ本物の氷魔法を打つことが出来たのだった。

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