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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第273話 後悔の念

 ブリス陛下が作ってくださったブラックホールが割れ、私を抱いたイアンさんと彼に掴まった風馬(ふうま)くんは吸血鬼領の地面に降り立った。


 ブラックホールの外はだいぶ日が暮れていて、オレンジ色の夕陽が淡く吸血鬼領を包み込んでいた。


「イアン!」


「隊長!」


 私達を見て、キルちゃんやレオくん、他の皆が駆け寄ってくる。


「マコトくん、ユキをお願い」


「どうした。……泣いているのか」


 イアンさんから私を譲り受けた(まこと)さんが、私の顔を覗き込んでくる。私が慌てて涙を拭って鼻をすすっていると、


「それもあるけど、相当疲労が溜まってる。多分、自力じゃ歩けないくらいだ」


「全く、誰のせいだと思っている」


「ごめん。完全に僕が悪いよ」


 誠さんに睨みつけられたイアンさんは、申し訳なさそうに目を伏せた。

 そんなイアンさんへ歩み寄り、声をかけた吸血鬼が居た。ミリアさんだ。


「あの、イアン様。テイン先輩とブリス陛下は……?」


「僕はよく分かってないんだ。でも……消滅、したと思う」


 ミリアさんは両手で口を覆い、息を呑んだ。彼女の緑色の瞳が潤んだかと思うと、そこから大粒の涙が流れ出る。


「ブリス陛下まで……!」


 レオくんが唇を噛み、悔しそうに呟く。


 確かにブリス陛下は強かった。魔力もたくさん持っていて、グリンさんに操られた亜人界の皆を元に戻すためにも奮闘してくださった。何より亜人界を統べる国王陛下だから、経験も魔力もずば抜けていた。


 そんな方でさえ、イアンさんを元に戻すのに自分を犠牲にしなければならなかったのだ。


 炎、草、水、雷、聖……この五人の使い手によって引き出された闇の能力(ちから)がどれほど強大なものだったか、容易に想像できる。


 と、私達のところへ、小さなブラックホールから解放された天使・グリンさんが歩いてきた。


「イアン、これで余の気持ちが分かったかい? 今そなたが抱えている喪失感も悲しみも、全部余は味わってきた。あの時、そなたが父上を殺した時にねっ!」


 言い終わるより早く、グリンさんは目をカッと見開いて漆黒の剣を片手にイアンさんに迫る。振り返るイアンさん。でも間に合わない____!


「天兵長……!」


 イアンさんの口から、そんな呟きが漏れた。グリンさんが振りかぶった剣はイアンさんに当たらなかった。それより早く、ルーンさんが間に割って入って剣で受け止めたのだ。


「ここは我が引き受ける! お前達は早く家に戻れ!」


 私も手伝う、とフェルミナさんもグリンさんに向けて射撃する。


「……分かった。すまない!」


 私を抱いたまま鬼衛隊のログハウスへ走る誠さん。でもイアンさんが逆方向に走っていくのを見て、慌てて振り返る。


「おい、イアン!」


「王宮に行ってくる! ユキや皆をお願い!」


 振り返りもせず王宮に向かってまっすぐ走っていくイアンさんの背中を見て、誠さんはため息をついた。


「……仕方ない。分かった!」


 こうして、私達はグリンさんを足止めしてくれたルーンさんとフェルミナさん、王宮へ向かったイアンさんを残して鬼衛隊のログハウスへ向かった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 人間・村瀬(むらせ)(ゆき)と氷結鬼・ルミの中間の姿で初めて魔力を消耗した私は、イアンさんの言う通り体に力が入らない状態だった。ベッドに寝かせてくれた誠さんには、くれぐれも安静にしていろと釘を刺された。


 他の皆の手当ては誠さんとミリアさんがやってくれた。特に魔力の消耗が激しく長時間グリンさんの羽に縛られていた使い手の五人____レオくん、フォレス、ウォル、サレムさん、スピリアちゃんを優先にして行われた。


 そして本格的に夜も更けた頃、私の隣のベッドで横になった風馬くんが声をかけてくれた。


「雪、あの時助けてくれてありがとうな」


「ううん、実は違うの」


「……え?」


「ブリス陛下が、風馬くんを助けてくれたんだよ」


 ブラックホールの中で、グリンさんが風馬くんの背中を突き刺そうとした時、私が咄嗟に放った【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】はグリンさんに当たらなかった。分の悪いことに、私の攻撃はグリンさんを逸れてしまったのだ。


 でも風馬くんが刺されなかったのは、ブリス陛下がグリンさんの手元を攻撃してくれたから。私の【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】と同じタイミングでブリス陛下の【漆黒弾丸(ブラック・バレット)】が飛んできて、それがグリンさんに当たったのだ。


「そうだったのか……」


 驚いてから、少し考え込むように顎に手をやる風馬くん。


「風馬くん?」


「いや、何でもない。じゃあおやすみ」


 風馬くんは笑顔で首を振ると、私と反対方向に寝返りを打った。風馬くんの薄黄色だった髪が、だんだん元の黒色に戻っていく。


 眠る時は神様の力も覚醒しなくなるのかな。それに対して、私の能力(ちから)は消える気配はない。自分の髪を確認するけど、やっぱり茶色と白色が混ざった薄茶色の毛のままだった。


「うん、おやすみ」


 私は風馬くんに挨拶を返してから、窓の外を見上げた。夜空には鋭い三日月が浮かんでいて、眩しい光が差し込んでくる。


 イアンさんもまだ王宮から帰ってきてないし、グリンさんの足止めをしてくれているルーンさんとフェルミナさんのことも心配だ。三人とも無事だと良いけど……。


 ____どうかこの先も自分を信じて精一杯生きてほしい……。世界の平和を、心から……。


 消滅する寸前、ブリス陛下が私と風馬くんにかけてくれた言葉が思い浮かんだ。それと同時に、収まりかけていた後悔の念が再び押し寄せてくる。


 私がもっとイアンさんを早く元に戻せていれば、ブリス陛下もテインさんも消滅することはなかったかもしれない。二人を消滅させてしまったのは、私の力不足が原因だ。


 一旦戦線から退いたことだし、グレースとルミレーヌ様にもう一度ちゃんと氷魔法での攻撃法を教わろう。あんな見よう見まねの攻撃は駄目だ。


 また、誰かを消滅させてしまう……!


 布団をギュッと握りしめたその時、ガチャリとドアが開いた。


「イアンさん」


 帰ってきたのは、暗い表情のイアンさんだった。

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