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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第266話 天馬の力

 風馬(ふうま)くんの背中から生えてきた、ペガサスのような長くて大きい羽。それがパタパタとはためくと、風馬くんはルーンさんの金色に光る剣を握る手に力を込めた。


「はあああぁぁぁっ!」


 風馬くんの叫びに反応したかのように、風馬くんの足元に金色の魔法陣が出現する。いつものワープ用の簡易的な魔法陣とは明らかに格が違うものだ。記号や文字などがたくさん表記されている。


 魔法陣が出現したことで風が巻き起こり、風馬くんの髪が激しく煽られている。


 さらに、その魔法陣からは数十個もの不思議な文字が浮かんできた。英語でも甲骨文字でもない、でも何となく古代の文字だと分かるような文字。


「ルーン文字、だな」


 (まこと)さんが、その文字を凝視して呟いた。


「ルーン……文字?」


 何それ、少なくとも私は聞いたことがない。初耳だ。


「古代から日常的に使われていたらしいが、ルーンの技の進化に使われるのなら、『呪術や儀式の時に用いられた神秘的な文字』と解釈した方が良いかもな」


「な、なるほど……!」


 誠さん、やっぱり賢いなぁ。一目見ただけでこの不思議な文字がルーン文字だって分かってた。


 誠さんの説明を噛み砕くと、暗号みたいなものかな。何となく数学のγ(ガンマ)みたいで面白い。


「【魔術文字(ルーン)】!」


 風馬くんが詠唱すると、魔法陣から空中に浮かんだルーン文字二十四個が光の弾丸に姿を変えて、グリンさんへ激突していった。


 グリンさんはすかさずハンマーで打ち消そうとするけど、魔術文字は一つとして打ち消されなかった。


 二十四個の光の弾丸をぶつけられたグリンさんは、流石に効いたようでフラフラとよろめく。


 風馬くんは間髪を入れずに金色に輝く剣を構えて、斜めに振り切った。


 すると、振り切られた剣が強い風を引き起こし、グリンさんは遠くへ飛ばされていく。


 だけど、風馬くんの攻撃はそれだけでは終わらなかった。背中に生えた真っ白の羽を広げてはためかせ、空中を飛ぶグリンさんの方へ飛んでいく。


 さらに剣を何度も勢いよく振って、空中でグリンさんに攻撃を加えている。


 グリンさんの服はたちまち裂かれて、露出した肌にも傷がついて出血していった。


「【魔術文字(ルーン)野牛(ウル)】! はぁっ!」


 とどめを刺すかのように風馬くんは剣を構え直し、グリンさんのお腹に剣の柄をぶつけた。


 刃先とグリンさんが衝突した瞬間、刃先に黄金の魔法陣が出現した。魔法陣の中にはアルファベットの『U』の形の角をした牛が描かれている。


「ぐわぁっ!」


 グリンさんが吐きそうな声をあげたかと思うと、土煙をあげて地面にめり込む。


 まるで闘牛のような圧倒的な怪力でグリンさんをねじ伏せた力に、私は言葉を失った。


 ただの純白の剣で立ち向かっても逆にグリンさんから攻撃を受けていた風馬くんが、【魔術文字(ルーン)】という技と金色に輝く剣を手に入れただけで、グリンさんを圧倒してしまったのだから。


 その事実には風馬くん自身も驚いているようだった。私達の所にふわりと降り立つと、荒い息遣いをしながら呆然としている。


「お、俺……」


「風馬くん、すごいよ!」


 私は風馬くんの両肩にとびついた。すると、風馬くんはまだ現実を受け入れられていないような呆然とした表情で、私の方を振り向く。


「俺の力じゃないよ、この剣とかさっきの魔法陣とか……そのおかげだよ」


 風馬くんは未だに金色に輝き続ける剣を持ち上げ、信じられないと言いたげに笑った。


「それでもすごいよ! 風馬くん、神様の愛を受けたなんて救世主みたいだよ!」


「そんな大層なものじゃないけど……」


 私が興奮を抑えられずに声をあげると、恥ずかしそうにはにかむ風馬くん。


「全く……やってくれるね。吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)。驚きだよ」


「まだ駄目なのか!」


 めり込んだ地面からゆっくりと起き上がり、二の腕を押さえつつ立ち上がるグリンさんを見て、風馬くんが身構える。


「余をこんなにも滾らせるなんてね……!」


 漆黒の剣を地面に突き刺して杖代わりにしてもたれかかり、グリンさんは風馬くんを睨みつけた。


「やっぱり一撃じゃ倒せないか」


 風馬くんは決意したように呟くと、剣の柄を両手で強く握りしめた。


「【魔術文字(ルーン)棘巨人(ソーン)】!」


 叫び声をあげて風馬くんに飛びかかっていくグリンさん。剣とハンマーの両方を振りかぶり、風馬くんを真っ向から潰そうとしているのだ。


 でもそんなグリンさんをせき止めたのは、風馬くんの技だった。


 剣の刃先に黄金の魔法陣が出現したと思うと、空中に何百本もの棘が浮かんで別の魔法陣から巨人が出てきた。周辺の家を遥かに上回るほどの身長だ。


 アルファベットの『Th』を模したような『大きな棘を手にした巨人』の姿が描かれた魔法陣。それによって姿を宿した棘と巨人は、グリンさんめがけて迫っていく。


 グリンさんの方も剣とハンマーを駆使して棘を振り払うけど、その隙をついて巨人の大きな足に踏み潰されそうになってしまう。すんでのところで剣とハンマーで受け止めるも、振り払うのをやめたせいで身体中に棘が突き刺さった。


 巨人の足が容赦なく天使を踏み潰そうとしているので、グリンさんがズリズリと後退しながら膝を曲げられていく。やはり巨人の怪力には、さすがのグリンさんでも勝てないようだ。


 地面が割れたような音と足が踏みしめられた音が響き渡り、巨人の足元には巨大な土煙が上る。


 グリンさんは今度こそ、深く地面にめり込んで仰向けに倒れていた。


 風馬くんが剣を振り切って魔法陣を消滅させると、それを合図に棘と巨人もその姿を消した。


「こ、これでどうだ……!」


 やっぱり【魔術文字(ルーン)】の技は相当体力を消耗するようで、風馬くんは息を切らして地面にめり込んだグリンさんの方を見つめる。でも、いくら待ってもグリンさんは起き上がらなかった。


 もしかして、さっきの技で完全にダウンした⁉︎


 私は胸に淡い期待を抱くが、そんな期待はあっさりと打ち消された。


「ははは。ふふふふ。ふははははは……」


 グリンさんの狂ったような笑い声によって____。

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