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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第265話 皆の役に立ちたい

「ミリアさん、すごい……!」


 グリンさんによって操られた亜人界の皆__通称・グリン大群戦っていた私は、ミリアさんが花冠を能力(ちから)に変えて戦闘魔法を取得したのを見て、思わず息を呑んだ。


(ゆき)、俺達はイアンに集中だ!」


「は、はい!」


 でも(まこと)さんに注意を受けてしまう。


 確かに誠さんの言う通りだ。戦っている途中でよそ見をしてしまったら、隙を突かれて攻撃されるかもしれない。


 実際、ミリアさんに目が釘付けになっていた私は、グリン大群に攻撃されそうになった。それでも平然としていられたのは、誠さんが助けてくれたからだ。


 もしもこの場に誠さんが居なかったら、私は今頃吸血鬼や亜人、氷結鬼に攻撃されて怪我をしていただろう。怪我で済めば良いけど、もっと酷い攻撃を受けていたかもしれない。


 ちゃんと気を引き締めないと!


 私は誠さんの注意を念頭に入れて、再び倒そうと爪を立ててくるグリン大群に【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】をぶつける。


 でも、今私の掌から放たれているこの氷塊も、本当に【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】と呼ばれるものなのか分からない。本当はそう呼んじゃ駄目なのかもしれないけど。


 グレースが戦っていた時を思い起こし、見よう見まねで適当に念じているだけの攻撃法。これでは駄目だ。ちゃんとグレースかルミレーヌ様に教えてもらおう。


 私がそんなことを考えていると、


「ぐわぁ!」


 ものすごい勢いで、ルーンさんが飛ばされてきた。


 おそらく、グリンさんの攻撃を受けてしまったのだろう。ルーンさんが居たらしき場所を見ると、グリンさんがキルちゃんや亜子(あこ)ちゃん、グレース、ルミレーヌ様と戦っていた。


 私達とグリン大群が戦っている場所、それからキルちゃん達とグリンさんが戦っている場所とは、少しだけ離れている。具体的には、人間が横に五、六人並んだくらいの距離だ。


 そこを風のような速さで飛ばされてきたのだから、相当のダメージを負ってしまったのだろう。


「ルーン!」


 フェルミナさんは叫び、すぐにルーンさんのもとへ駆け寄って彼女を抱き起こす。


 ルーンさんが持っていた純白の剣は、輪を描くように空中を浮遊してから、カタンと軽快な音を立てて地面に落ちた。


 それも、ルーンさんやフェルミナさんからは遠い位置に、だ。


「ふん、どう? ルーン。こんなに秩序も崩れてボロボロになった世界なんて、そなたには纏められなかったでしょ? 精々、余を止めようと足掻くのが精一杯だ」


 グリンさんは手近に居たキルちゃんと亜子ちゃん、グレースを殴り飛ばした後、フェルミナさんに抱き起こされたルーンさんを見下ろした。


 片頬だけ口角が上がっていて、とても嫌味ったらしい表情だ。明らかに、ルーンさんを馬鹿にしている。


「それなのに自分は天兵長だからって余を王宮から追い出してさ。余がどれだけの屈辱を味わっていたかも知らないで……。余がそなたを許さない理由が分かったかい? ルーンには天兵長なんて務まらないって思い知ったかい?」


 静かに怒りの炎を燃やしているグリンさんの言葉に比例するように、闇のオーラに包まれている怪物化したイアンさんが咆哮をあげた。


「グワアアアアッ!」


 天を仰いで両手を広げて唾を飛ばし、イアンさんは吠え終わるや否や、私達に向かって突進してきた。


 と言っても体ごとぶつかってきたわけではない。長く伸びた鋭い爪で、私や誠さんを薙ぎ倒してきたのだ。


 あまりにも薙ぎ倒してくるスピードが速かったので、私だけでなく誠さんまでも、大した受け身を取れずに地面を転がる。


村瀬(むらせ)!」


 その時だった。既に安全地帯である鬼衛隊のログハウスに避難していたはずの、風馬(ふうま)くんの声が聞こえてきたのは。


「風馬、くん……!」


 私は声のした方に首を向け、頭を上げた。


 地面を転がったせいで腕やお腹、背中などの上半身はズキンズキンと痛むけど、風馬くんの姿を見ると、そんな痛みも一気に吹き飛んでしまったような気がする。


 風馬くんは足を肩幅まで開いてしっかりと立ち、遠くに落下したルーンさんの純白の剣を両手で握りしめていた。


 でも、グリンさんはさらに呆れて果てて眉をひそめた。


「何してるんだい? そなた。ただの人間が天使の剣を持ったところで、余の足元にも及ばな____」


「確かに、俺は何も出来ないかもしれない」


 グリンさんの言葉を遮り、風馬くんが言う。


「村瀬みたいに元々の姿が氷結鬼なわけじゃないし、後藤(ごとう)みたいに亜人なわけでもない。でも……これが、俺に託された使命なんだ!」


「風馬くん……?」


 どういうこと? 託された使命って……一体誰から?


 私は、突然風馬くんの口から飛び出た単語に困惑してしまう。


「はぁっ!」


 あろうことか、風馬くんは純白の剣を重そうに持ち上げ、グリンさんに立ち向かっていった。


 でも、キルちゃんやグレース、ルミレーヌ様でさえ倒すことの出来ていないグリンさんには勝てるはずもなく、風馬くんが振り上げた純白の剣は、簡単にグリンさんの羽に振り払われてしまう。


 グリンさんは間髪を入れずに風馬くんをその羽で縛り、勢いよく投げ捨てた。


「風馬くん!」

「風馬!」


 私と誠さんは同時に叫び、飛ばされてきた風馬くんを受け止める。


「ルーン!」


 地面に落ちたままのルーンさんの剣は、ルミレーヌ様がグリンさんの隙を突いて彼女に投げ渡していた。


「風馬くん、あんな無茶したら駄目だよ!」


 私が咎めても、風馬くんは依然として悔しそうにグリンさんを睨み付けていた。

 でも、やがて少し自信なさげに俯いた。


「夢を見たんだ」


「……夢?」


 私の反芻に頷き、風馬くんは夢の詳細を教えてくれる。


「真っ白な空間の中で声が聞こえて、その声に俺が神からの愛を受けた子だから、太陽神を復活させて天馬の力で世界を救えって言われたんだ」


「ど、どういうこと!?」


 情報量が多すぎて理解しにくい……。


 えっと、風馬くんが『神からの愛を受けた子』? 風馬くん、人間じゃなかったの!?


「俺、もしかしたら人間じゃないかもしれないんだ」


 私の心の内を読んだかのように、風馬くんは言った。


「だって小さい頃の記憶が曖昧で、自分の両親のことも覚えてなくて、気付いたら高校に入学して一人暮らししてる……って、そんな状態、よく考えたらおかしいだろ?」


 少し困惑したような、不安げな風馬くんの声。


 風馬くん、ずっと『小さい頃の記憶が曖昧だ』って笑ってたけど、心の中ではたくさん悩んで苦しんでたんだね……。


「だからあの声に『お前は神からの愛を受けた子だ』って言われてはっきり分かった。俺は人間じゃなくて、神様関係の生物だったんだって」


「太陽神というのは、我の【陽神(ヘリオス・)(ラーマ)】のことか?」


 未知だった自身の存在に結論を出した風馬くんを見て、ルーンさんが純白の剣を持ち上げる。


「多分、そうだと思います」


「太陽神の復活……。つまり、ルーンの技の進化ということか」


 誠さんの言葉にルーンさんは驚き、風馬くんをまじまじと見つめた。


「フウマが、我を更なる高みへ(いざな)ってくれる……?」


「天馬の力って言うのは?」


「我の剣と風馬の潜在能力が交わった時に、何かが起こる、と」


 私の疑問に対する答えを、誠さんが出してくれる。


 すると、心底つまらなさそうな声が聞こえた。


「ねぇねぇ、くだらない茶番はもう良いよ。イアン、潰しな」


 グリンさんの指示に応えるように、怪物化したイアンさんは咆哮して私達に迫ってきた。


 風馬くんを庇いつつ再び身構える私達。


 でも、キルちゃん、ミリアさん、テインさんの三人がイアンさんを羽交い締めにして阻止してくれる。


「イアン! しっかりして!」


「グリンに負けてはいけません!」


「目を覚ましてください!」


 三人は暴れ始めたイアンさんを押さえつつ、私達に向けてアイコンタクトをしてくれた。


 グリン大群は私と誠さんも何人か気絶させているし、大半はミリアさんが新しい技でダウンさせてくれた。それに、残りのグリン大群はグリンさんの背後に集合している状態。


 だからキルちゃん達三人がイアンさんを押さえておいてくれれば、私達の標的は(おの)ずとグリンさんに絞られることになる。


「俺も皆を助けたい……。皆の役に立ちたい……。だから!」


 風馬くんが勢いよく顔を上げてグリンさんを見据えた瞬間、ルーンさんが手にしていた純白の剣が金色に輝き始めた。


 驚くルーンさんの手をすり抜けて、純白の剣は風馬くんの手に握られる。


 風馬くんは金色に眩しく光る剣を両手で握りしめ、大きく息を吸った。


「俺は、太陽神を復活させて、天馬の力でこの世界を救ってみせる!」


 それと同時に、風馬くんの背中から白くて立派な羽が生えた。その羽は、ルーンさんやフェルミナさん、グリンさんの物とは違う形をしていた。


 まるでペガサスを連想させるような、長くて大きな羽だった。

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