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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第264話 束縛を解き放て

ミリア視点です!

 全ての首謀者である堕天使__グリン・エンジェラに操られた吸血鬼、亜人、氷結鬼など亜人界の種族(通称・グリン大群)を前にして、本来は戦闘に不向きなナース・ヴァンパイアも尽力していた。


 しかし、グリン大群と戦っているのはナース・ヴァンパイアだけではない。


 人間界の人間__村瀬(むらせ)(ゆき)鈴木(すずき)(まこと)、天界の天使__フェルミナ・エンジェラもまた、グリン大群と戦っていた。


 そのため、ナース・ヴァンパイアのミリアとテインは、彼らへ回復魔法を施しつつの戦闘となった。


「わたくしがこの大群の相手を主にします。ミリアは回復魔法の方を主にしてください」


 鞭を振りつつ、テインがミリアに言ってくれる。


「分かりました! テイン先輩!」


 テインの指示に快諾して、ミリアは他の三人に絶えず回復魔法【回復(リカバー・)(フローラル)】を施し続けていた。


 勿論、自分の周りの注意も怠らない。


 ミリアには剣などの武器がなく、なおかつ戦闘魔法も身に付けていないため、完全なる丸腰となってしまうからだ。


「ミリア! そちらに行きました!」


「え__うっ!」


 ミリアはテインが忠告してくれたにもかかわらず、予想外の方向からの攻撃に振り返るのが精一杯だった。


 吸血鬼が爪で引っ掻こうとしてきたので、反射的に後方に体重をかける。


 だが、あと少しというところで間に合わなかった。


 ミリアが被っている花冠が吸血鬼の鋭く長い爪と衝突し、放物線を描くようにして地面に落ちてしまったのだ。


「ミリア!」


 テインが切羽詰まった声をあげる。


 ミリアが被った被害が頭の花冠を外されたことだけだったら、ミリア自身には何のダメージもなかった。


 しかし、ミリアは吸血鬼の血走った瞳を見て恐怖を感じ、後方に飛び退いた際にバランスを崩して地面に尻餅をついてしまった。


 ミリアが痛みに声をあげたのは、そのためである。


「ミリア、早く立ち上がりなさ__くっ!」


 テインがミリアに声をかけてくれるが、何せ彼女も何十人という大群を相手にしている。


 その声は途切れ途切れになり、地面に落ちて少しへしゃげた白い花冠に目を奪われているミリアには届かなかった。


 __能力の低い役立たず。


 そんな言葉がミリアの脳裏をよぎる。


 まだミリアが王宮で給仕として働いていた頃、テイン以外の先輩ナース・ヴァンパイアからずっと言われていた呼び名だ。


 その頃、ミリアはナース・ヴァンパイアであるにもかかわらず、戦闘技術が優れていた。


 その代わり、劣っていたのは肝心の回復魔法の技術だ。


 そんな言葉をかけられるのも、今思えば当然のことである。


 だが、ミリアにとってその言葉は今も昔も、ミリアを過去へ束縛する呪いのような言葉だった。


 ____やはり、自分は能力の低い役立たずなのだ。


 事実、ミリアは雪が氷結鬼グレースとの融合から開放された時から、自分の回復魔法に対しての自信を失っている。


 勿論、それは魔力の強さにも影響を与えており、未だにテインのように、そして以前の自分のように完璧な回復魔法を施すことが出来ないでいるのだ。


 回復魔法を身につけたにもかかわらず、それを自身の欠如とともに失って十分に効果を発揮できないナース・ヴァンパイア。


 とても言葉では言い表すことのできない、闇のように深い絶望感をひしひしと胸に感じてしまう。


 地面に落ちたことによって、少しへしゃげた水仙の花。


 その花言葉を、ミリアは既に知っていた。


 ____自惚れ。


 それが、水仙の花言葉のうちの一つであった。


 この花冠は、ミリアが王宮から鬼衛隊に働き先を移す際に、王宮で同じく給仕として働いていた先輩のナース・ヴァンパイア達からもらったものである。


 つまり、この『自惚れ』という花言葉は、ナース・ヴァンパイア達がミリアに向けたメッセージでもあるということだ。


 ____自惚れるな。能力の低い役立たずが。


 きっと、先輩のナース・ヴァンパイア達はこんな風に思っていたに違いない。


「あなたは能力の低い役立たずなんかではありません! あなたにしか出来ないことがあります! あなたの力が必要なのです!」


 ミリアは、その凛とした声にハッと我に返った。そして思い出す。


 過去も今も変わらず、テインだけはミリアを可愛がり、本当の妹のように親しく接してくれていたことを。


 ミリアとの別れを花冠に込めた意地悪な言葉で済ませずに、気持ちのこもった丁寧な手紙をつけてくれて、何度も抱きしめて励ましてくれたことを。


 同時に、今まで自信をなくしていた自分自身が恥ずかしく思えてきた。


 たとえ過去のしがらみが纏わりついていたとしても、ミリアのことを絶えず応援してくれた心優しい上司もいる。今では、頼りになる仲間も増えた。


 能力の低いミリアを優しく迎え入れ、勇気づけてくれ、励まし支えてくれた、かけがえのない鬼衛隊。


 自信をなくしていたことにいち早く気付いて、背中をそっと押されるような言葉をかけてくれた村瀬雪。


 そして、過去にミリアに対して厳しい言葉を投げかけて()()()ナース・ヴァンパイアの先輩達。


「承知致しました、テイン先輩。(わたくし)はまだまだ未熟者です。しかし、そんな(わたくし)でも皆様のお役に立てるなら……私は自分の責務を全うします!」


 ミリアを応援してくれる皆のためなら、己を奮い立たせてでも頑張ることが出来る。また立ち上がり、歩みを進めることが出来る。


 ミリアは、地面に落ちてへしゃげてしまった白い花冠を拾い上げて、それにそっと唇で触れた。


「先輩方、あなた方のおかげで、(わたくし)はどんな時でも初心を忘れずに居ることができました。今まではあなた方を恨むことしかできませんでしたが、今は素直に、心の底から感謝の気持ちを持つことが出来ます」


 過去の束縛も、見方を変えれば良いものになる。


 ミリアが己を邁進させようと頑張ってこられたのは、仲間達からの応援があったからだけではない。


 彼女の頭には常に、『能力の低い役立たず』という先輩達からの言葉がこびりついていた。


 先輩達がミリアにそんな言葉をかけてくれたからこそ、ミリアは常に強くなろう、もっと皆の役に立とう、と思い続けることが出来たのだ。


 だからこそ、今、ミリアに出来ることは____。


「今の(わたくし)が『能力の低い役立たず』ではないことを、今、この場で証明してみせます!」


 なおも自分に向かって爪を立ててくるグリン大群を、厳しい目つきでまっすぐに見据えてから、ミリアは白い花冠にめいいっぱいの能力ちからを注ぐ。


 そしてそれを力の限り空に投げ、天まで響き渡るほどの凛とした声で詠唱する。


「【金華(フラワー・)乱舞(ダンス)】!」


 地面に白と金の花々が美しく咲き誇り、花形の能力(ちから)が弾丸のようにグリン大群へと降り注いだ。

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