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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第262話 怪物

「イアンさん‼︎」


 今までイアンさんに纏わりついていたオーラが完全に濃くなり、イアンさんの姿が見えなくなる。


 グリンさんは、そんなイアンさんの姿を見て顔を輝かせると、


「おぉ、完全に闇に飲まれたね。さぁ、ここからが本番だ。そなたの力を思う存分見せつけるが良い!」


「グルアアッ!」


 雄叫びをあげたイアンさんから、ぴったりと密着していた闇のオーラが離れた。


 離れた、と言うよりイアンさんの体内に取り込まれて外からは見えなくなった、と言った方が正しいかもしれない。


 それに、目の前のイアンさんは私の知っている優しくて爽やかな彼ではなくなっている。


 いや、もう『イアンさん』と言って良いのかさえ分からない。


 いつものストレートの黒髪はライオンのたてがみのようにボサボサになっており、瞳は血のように赤黒い光を放っていて、イアンさんが我を失っているのが一目で分かる。


 白い爪は真っ黒になって二倍ほど長くなっていて、靴を破って足の爪も露出していた。


 ____怪物。


 目の前のイアンさんは、まさにそう呼ぶべき哀れな姿へと変貌していたのだ。


「イアンさ____」


「ウガアッ!」


 私が叫ぶのと同時、イアンさんは私に向かって長い長い爪を振るってきた。


 私は思わず目を瞑り、両手で顔を覆ってしまう。一刻も早く避けないといけなかったのに。


 カン! という音がして以降、イアンさんの爪が私の白くなった肌を切り裂くことはなかった。


 おそるおそる目を開けて、私は目の前の光景に息を呑んだ。


(まこと)さん!」


 イアンさんが振りかぶった爪を、誠さんが剣で受け止めてくれていたのだ。


「雪、ここは一旦引け!」


 キリキリと音を立てながら爪を剣で押し返しつつ、誠さんは私の方を首だけで振り返る。


「で、でも……!」


「良いから早くし____」


「グアアッ!」


 イアンさんは腕を大きく振るって誠さんの剣を振り払い、獣のような足に腹で誠さんを蹴り飛ばした。


「くっ!」


「誠さん!」


 飛んできた誠さんを、私は反射的に受け止める。


 お腹を押さえて苦しそうに呻きながらも、誠さんは叫んだ。


「何度言ったら分かる! 俺に構うな!」


「嫌です! 何のために私がこの姿になったと思ってるんですか! 私だって戦います! イアンさんを元に戻したい____」


「「ぐっ!」」

「「うっ!」」

「リィッ!」


 痛みを訴える叫び声がして顔を上げると、使い手の五人____レオくん、フォレス、ウォル、サレムさん、スピリアちゃんが、グリンさんの黒みがかった羽に縛られて民家に叩きつけられていた。


「皆!」


 ひどい、いくら五人が強いから先にねじ伏せるにしても、あんなやり方しなくて良いのに……!


「さあ、仕事だよ! 余の(しもべ)達! 【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】!」


 グリンさんが天に向かって吠えると、地面にいくつもの魔法陣が出現して、そこから無数の吸血鬼、亜人、氷結鬼が出てきた。


 学校を襲った時と同じように、皆の目は正気ではない。


 おそらく、グリンさんがさっき詠唱した魔法のせいで操られているのだろう。


 怪物と化したイアンさんを先頭にして、亜人界の皆は私達に向かって飛びかかってくる。


 えっと、こんな時、グレースはどうやって戦ってたっけ……。


 私が思考を巡らせていると、


「【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】!」


「【(ヘル・)(フリーズ)】!」


 誠さんと私の前に立ったグレースとルミレーヌ様が、それぞれ手を突き出して技を繰り出した。


 氷塊をぶつけられた吸血鬼達は、次々と倒れていく。


「安心してね。余の(しもべ)達は不死身だから」


 グリンさんが腕を振るうと、さっきまで地面に倒れていた吸血鬼達がまるでゾンビのように立ち上がった。


 その様子に、グレースとルミレーヌ様が身構える。


「やっぱり本命を何とかしないと……!」


「ええ、この勝負、キリがありませんね」


 二人が警戒心を募らせ、倒す標的をグリンさんに絞ったところで、テインさんが前に進み出る。


「陛下とフウマはお逃げください。これ以上危険な場所に居られると危険でございます」


「……分かった。気を付けろ、テイン」


 ブリス陛下の言葉に、テインさんは微笑んで応える。


「【魔法(マジカイア・)(サークル)】」


 テインさんはブリス陛下と風馬(ふうま)くんの足元に魔法陣を出現させると、二人を現場から逃がした。


 おそらく、鬼衛隊のログハウスに移動させたのだろう。


「私達もグリンを倒すわ」


「あたしも」


「我もグリンに制裁を加えよう」


 キルちゃん、亜子(あこ)ちゃん、ルーンさんが私達の所に集まってくる。


「では、私はグリン様の(しもべ)達を」


 フェルミナさんは、ルーンさんと分かれて吸血鬼達の相手をするみたいだ。


「先輩、(わたくし)も戦います!」


「ミリア……」


 思わぬ参戦者に、テインさんは目を見張るけど、すぐに頷いて言った。


「分かりました。わたくし共はグリンの(しもべ)とやらを片付けましょう」


「はい!」


 よ、よし、戦闘が苦手なミリアさんも頑張って戦おうとしてるんだし、私も頑張らなきゃ!


「【氷柱(アイシクル・)(ニードル)】!」


 おおっ! 氷柱が出た! 私もちゃんと戦える!


 私自身も驚いたけど、誠さんやミリアさん、亜子ちゃんも目を見張って驚いている。


 誰より驚き喜んでくれたのは、氷結鬼の幼なじみであるグレースだった。


「えっ!? ルミ__じゃなかった、ユキも戦えるの!?」


「う、うん、そうみたい。グレースみたいにちゃんと技出せたよ」


 私が言うと、グレースは目を輝かせてジャンプしながら私に抱き付いてきた。


「出せたよね! やったぁ!! これで一緒に戦える!」


「う、うん! 戦えるね!」


 緊張で心臓が口から出そうだけど、ちゃんとしなきゃ。


 イアンさん達は今まで、こんなプレッシャーに耐えながら頑張って戦っててくれたんだ。


 さっき氷柱をぶつけられて地面に倒れたイアンさんも、雄叫びをあげながら起き上がっている。


 ごめんなさい、イアンさん。痛いと思いますが、イアンさんを元に戻すために私はあなたと戦います。


 だから、我慢してください。なるべく早く、助けられるように精一杯頑張ります!


 私は再び飛びかかってこようとしているイアンさんを見つめ、心の中で語りかけた。


「雪はどうする」


 誠さんが私の隣に並び、尋ねてくれる。


「私はイアンさん達を元に戻します!」


「分かった。俺も尽力する」


「ありがとうございます」


 こうして、私たちは二手に分かれて戦うことになった。


 内訳としては、グリンさんの相手が亜子ちゃん、キルちゃん、ルミレーヌ様、グレース、ルーンさん。


 怪物化したイアンさんを含む亜人界の皆の相手が私、誠さん、テインさん、ミリアさん、フェルミナさん。


 今、グリンさんに束縛されている使い手の皆も助け出して、それぞれ分かれて戦ってもらうつもりだ。


 ブリス陛下と風馬くんは安全地帯に居るし、思う存分戦える。


「皆さん、行きましょう!」


 私の言葉に、皆は力強く頷いてくれた。

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