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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第261話 僕を殺してくれ

 冷たくて、でもどこか懐かしい感覚が、私の体に流れ込んでくる。


「さて、これでわたしが持っていた()能力(ちから)は全部注ぎ込んだぞ」


「ルミ……あーえっと、今はユキかな? うぅ、今はどっちでも良いや! どうする? わたしが取り除いてた分も入れる?」


 私の呼び方の迷いを振り切り、グレースが私に向かって歩いてきた。


 『氷結鬼・ルミ』を『村瀬(むらせ)(ゆき)』に戻す際にレオくんが少し残してくれていた、氷結鬼の能力(ちから)


 それを氷結鬼の村で、グレースが最後まで取り除いてくれていた。


「これも取り込んだら、多分完全に『ルミ』に戻るはずだから、もしかしたら『村瀬雪』としての記憶が消えちゃうかもしれないんだけど……」


「そ、それは駄目! だって、今からイアンさんを助けに行くのに!」


 私が慌てて言うと、グレースは残念そうな顔をした。


「やっぱりそうだよね……。でも、氷結鬼の能力(ちから)は今の時点で四分の三くらいだから、必殺技の威力も弱くなっちゃうよ?」


「……ちょっと心苦しいけど我慢する。このままで良いよ。ありがとう、グレース」


「うん、分かった」


 グレースは、少し不安そうにしながらも頷いてくれた。


「今の君は『ルミ』が四分の三、『ユキ』が四分の一くらいの状態だ。今までの記憶は消えていないか?」


 ブリス陛下に問われ、私は顎を引く。


「全部覚えてます。大丈夫です」


「よし、それなら大丈夫だ。後悔は無いようだから、これ以上はわたしも止めない。共にイアンを助けに行ってくれないか?」


「勿論です! ブリス陛下!」


 私が、ブリス陛下やテインさん、ミリアさんと一緒にそのまま家を飛び出そうとした時だった。


「あ、あの」


 私達をおそるおそる引き止めたのは、風馬(ふうま)くんだった。


「風馬くん?」


 風馬くんは、一瞬何かを言おうと口を開きかけたけど、少し俯いてから首を横に振る。


「あ、いや……。何でもない。早く行こう」


「う、うん」


 風馬くんが一体何を言いたかったのかは分からなかったけど、風馬くん自身が『何でもない』と言ったからには私がそれ以上言及するわけにもいかない。


 風馬くんも何事もなかったかのようにログハウスを出たので、私はそれ以上は聞かずにイアンさん達の元へ走った。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「グリンに協力しなかったら、この世界もろとも消すと言われたんだぞ! そんなもの、世界を選ぶに決まっているではないか!」


 私達が時計台のふもとに到着した時には、ウィスカーさんが目を見開いて怒号をあげていた。


 彼の目の前、私達から見て手前に居るイアンさんは、テインさんの言う通り闇のオーラに包まれている。


 完全に立ち姿が見えなくなっているわけじゃないけど、オーラに包まれていて見えにくい。


「何だ、そういうことか、ウィスカー。やっぱりそなたは余を裏切った訳じゃなかったんだね」


 ウィスカーさんの言葉に、彼に掴みかかっていたグリンさんが笑みを浮かべた。


 どういうこと? ウィスカーさんがグリンさんを裏切って……。でも、グリンさんがそうじゃなかったって言ってるなら、二人はグルってこと?


「当たり前じゃないですか、()()()()。わたしは今までもこれからも、あなたに忠誠を誓いますよ」


 グリンさんに手を引かれて立ち上がりつつ、ウィスカーさんはグリンさんに向かって華麗にお辞儀をする。


「ウィスカー隊長……何を……言って……」


 キルちゃん、亜子(あこ)ちゃん、ルーンさんは地面に倒れ伏していて、レオくん、フォレス、ウォル、サレムさん、スピリアちゃんの五人はイアンさんへ手をかざして自分の能力(ちから)を渡している。


 それをそばで見ているのは、銀色の鎧姿の(まこと)さんだ。


 でも皆はグリンさんとウィスカーさんに夢中で、私達が来たことには気付いていない様子。


 ウィスカーさんは、イアンさん達をぐるりと見回して嫌味げに口角を上げる。


「すまないな、今まで君達を騙してきて」


「騙す……?」


「隊長、一回能力(ちから)の供給を中断します!」


 レオくんが何か危険を察知したのか、腕に力を込めたように見える。でも、すぐに彼の焦った声が聞こえてきた。


「なっ……! 能力(ちから)が……戻らない……!」


「何だよこれ! 今までこんなこと一回もなかったじゃねーか!」


能力(ちから)の供給が……止まらないです!」


 レオくんと同様に、双子天使のフォレスとウォルも困惑している様子だ。


 すると、グリンさんがニヤリと笑って口を開いた。


「【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】の力だよ」


悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】? 何それ……!


 そのせいで、レオくん達はイアンさんに自分の能力(ちから)の供給を止められないの⁉︎


「ま、まさか……! ユキの出血が……なかなか止まらない……原因も、闇の能力(ちから)が……想像以上に……膨らんでるのも……!」


 イアンさんの言葉を引き継ぐように、ウィスカーさんが声高々に宣言する。


「全てはリーダーの計画通りだ。このお方が、全てを計画された首謀者なのだからな!!」


 ウィスカーさんの勝ち誇ったような笑い声が響き渡る。


 なおも、イアンさんは闇の能力(ちから)に包まれていて苦しそうな状況だ。


「イアンさん!」


「ゆ、ユキ……?」


「イアンさん、大丈夫ですか⁉︎」


 イアンさんは苦しみ悶えながらも、ゆっくりと私の方を振り向く。


「ゆ、ユキ……! 良かった……目を覚ましたんだね……」


 それから、私を見て目を見張った。


「その……姿……」


 おそらく、今の私は白色と茶色が入り混じった髪の毛で、肌は人間よりも少し白くて____人間と氷結鬼がそのまま融合されたような姿をしているのだろう。


「イアンさんを闇から救うには、これしかないと思ったんです。でも大丈夫ですよ。ちゃんと今までのことも覚えてます」


 私を見て、キルちゃんも亜子ちゃんも誠さんも、ルーンさんやフェルミナさんも、その場に居た皆が笑顔になってくれた。


 ……ただ一人を除いては。


「何だ、ユキ、生きてたんだ。つまんない」


 丸太のようなハンマーを肩に担ぎ、眉をひそめるグリンさんに向かって、私は叫ぶ。


「私が今ここに立っていられるのも、皆さんのおかげです!」


「ふん、そんなものどうでも良いよ!」


 グリンさんが半ば投げやりに腕を振るうと、レオくん達五人が急に苦しみ始めた。


「ぐっ! うぅっ……!」


「レオくん? 皆、どうしたの⁉︎」


能力(ちから)が、どんどん吸収されていく……!」


 私の問いかけに、レオくんが悶絶しつつ答えてくれる。


 きっとさっきの魔法みたいなものの威力をグリンさんが高めたせいで、能力(ちから)の供給スピードが上がってるんだ。


「ぐああああっ!」


 私が推測していると、急にイアンさんが胸を押さえて苦しみ始めた。


「イアンさん‼︎」


 イアンさんが苦しむのにつれて、彼に纏わりついている闇のオーラもどんどん濃くなっていく。


 イアンさんは荒く息を吐きながら、ゴォゴォとうなる闇のオーラの中で精一杯に叫んだ。


「ハァ……ハァ……! 皆! 僕が暴走して……もし皆が止められなかったら……遠慮なく僕を殺してくれ! 僕が死んだら……きっと、闇の能力(ちから)の暴走も……止まるはず……だから‼︎」


 イアンさんが言い終わった直後、真っ暗な闇がイアンさんの身体を完全に包み込んでしまった。

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