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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第259話 雪とルミ

雪視点です!

 あれ……私、死んだんじゃなかったの……?


 ここはどこ? 暗くて何にも見えない……。


 でも、沈んでる感覚がある……。私、このまま沈んでいっちゃうのかな……。


 これが死ぬってことか。そういえば前にもこんな風に思ったことがあったっけ。


 あの時はブリス陛下とテインさんが助けに来てくれたから、何とか一命をとりとめたって感じだったけど……。


「沈んじゃ駄目だよ、ユキ」


 透き通るような声に名前を呼ばれ、私の手を誰かが掴んだ。


 少し温かい手が、誰かが私を引き上げてくれている。


 そうして目の前に現れたのは__。


「る、ルミ!?」


 私は驚きを隠せなかった。


 真っ暗で何も見えない闇の中に、淡い光に包まれた氷結鬼の少女が存在しているのだ。


 氷結鬼ルミ__記憶を消される前の、姿を変えられる前の『私』だ。


 でも氷結鬼の能力(ちから)は前にレオくんとグレースが取り除いてくれたから、ルミが私の前に現れた理由が分からない。


「うん、ルミだよ。誰かに呼ばれた気がしてね」


「ねぇ、ここってどこなの? ルミが居るってことは、天国みたいな場所?」


 私が尋ねると、ルミは顎に人差し指を当てて首をかしげる。


「うーん、わたしにも分からないわ。でもわたしとユキが同時に存在できてるから、もう二度と形成されないだろうけど」


「そ、そっか……」


 そうだよね。同一人物が存在する世界線なんて、クローンでも作らない限りはあり得ない。


 尤も、クローン製造は禁止されているから、実質的には同一人物が存在する世界線は実現去れない、ということになるけど。


「もしくは、外部から何かしらの力が働いたから、かな。グレースかお母様が何かしてくれてるのかな」


「グレースとルミレーヌ様……。二人も来てくれてるんだ」


「本当のところは分からないけれどね。だからそれを確かめるためにも、早く起きなきゃいけないわよ、ユキ」


「お、起きる?」


 ルミは、私の両手を握って腰辺りまで持ち上げてきた。


 一瞬、ルミの言葉に引っ掛かりを覚えたけど、


「氷結鬼の手って、こんなに温かかったかな」


 私はふと、ルミの両手を見下ろして呟いた。


 確か、グレースが『氷結鬼の体温は人間よりもずっと低い』って言ってた気がする。


 それなのに今のルミの手は私よりも温かい。変だ。


 ルミは私をじっと見つめ、真剣な表情で言う。


「ユキ、このまま沈んだら駄目よ。あなた、本当に死んじゃうわ」


「えっ、私、まだ死んでないの!?」


 驚く私に頷き、ルミは教えてくれる。


「皆があなたの命を繋いでくれてるの。だから厳密的な『死』とは違う状態よ」


「そ、そうなんだ……」


 皆、私のために頑張ってくれてるんだ……! 


 意識は失ってるけど、完全に死んだ訳じゃない、と。


 植物人間、みたいな感じなのかな、今の私って。


「だから、皆を助けてあげて、ユキ」


「どういうこと? ……もしかしてグリンさんが!?」


 私はイアンさんを庇ってグリンさんに刺された。


 それから割と早く意識を失ったから、その後のことは知らない。


 もしかして私が刺された後にグリンさんが大暴れしてる、とか?


 イアンさん達が危ないじゃん! 助けに行かなきゃ!


「で、でも、ここ真っ暗だし、右も左も分からないよ。どうやって皆の場所に戻ったら良いの? ていうか、戻れるの?」


 ルミが私を助けてくれなかったら、私は今もこの闇の中を永遠に沈んでいっていただろう。


 そんな得たいの知れない場所なのに、ここからどうやって皆のところに戻れば良いのか。そもそも戻るという行為が可能なのか。


 私にはさっぱり分からなかった。


 それでもルミは、笑顔で言う。


「大丈夫。ここから昇っていけば良いのよ」


 上を見上げたルミに倣って、私も首をもたげてみる。


 でも見上げた先にも闇が広がっていて、首の感覚がなければ『自分が上を見上げている』ということすら曖昧になってしまいそうだ。


 そ、そんなことはともかく、早く皆のところに戻らないといけないよね!


 私は全身に力を込めて、ぐっと上へ行こうとする。


「私、力が思うように入らないんだけど……! どうやってっ……!」


 でも、私の体はなかなか上に行かなかった。


 そもそも上に行こうとしても、思うように力が入らないのだ。


 結局、同じ位置で無意味な伸びをしていることになる。


「わたしが引き上げるから、その勢いで一気に昇って。必ず皆のところに戻れるはずよ」


 ルミは笑顔を浮かべたまま、私を励ましてくれた。


「わ、分かった。ありがとう!」


 私がルミの手を握る力を強くすると、それと同時にルミが顔を強ばらせた。


「ど、どうしたの? ルミ」


 もしかして、ルミでも私をこれ以上は引き上げられないとか?


 でも、ルミが顔を強ばらせた理由は、私が思い付いた理由とは全く違ったものだった。


「皆が大変。ユキ、急いで」


「た、大変って……!」


 嫌な予感がする。


 どうしよう……!


 吸血鬼三人組みたいに、イアンさんや鬼衛隊の皆、ルーンさん達天使の魂まで破壊されそうになっていたら。


 そんなの……イアンさん達とお別れなんて、絶対に嫌だ!


「分かった。私、頑張って昇るよ、ルミ!」


「うん、頑張って」


 ルミと息を合わせて力を込め、私はゆっくりと上昇していく。


「これなら行けるわ、ユキ。最後、もう一回力を込めて」


「分かった!」


 ルミの言葉を合図に、私は全身に力を込める。


 ルミも最後の力を振り絞るように、私を引っ張り上げてくれた。


 途端に、私の体は自分でも分かるほどに上昇していった。


 まだ闇が広がる空間を、私は確かに昇っていく。


「ルミ、ありがとう! 私、行けるよ!」


「うん! 起きて、皆を助けてあげて!」


 もうだいぶん下になったルミを見下ろし、私は彼女にお礼を述べる。


 ルミも笑顔で私に手を振ってくれた。


「……グレースに、よろしくね」


 切なげに目を細め、桃色の瞳にうっすらと涙を浮かべて__。

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