第256話 怒りの地震
「またか……。また、父上は余じゃなくてルーンに話したのか。そんな大事なこと……最初からルーンを天兵長にしようって決めてたも同然じゃないか‼︎」
ルーンの言葉に、グリンは悔しそうに歯ぎしりをして拳をギュッと握りしめた。
実の娘でもない赤の他人に自分の意思を伝え、実の息子である自分自身には何の音沙汰もなかったのだ。
グリンが悔しい気持ちを抱くのは、当然のことだろう。
怒りを露にするグリンを悲しそうに見つめつつ、ルーンは口を開く。
「人間界でも賛否両論があったらしい。天界との同盟に賛成した者達からは『吸血鬼に対して悪いイメージがあるからこそ、天界と同盟を組んでおけばいざとなった時に頼れる』という意見が出た」
ルーンが話せば話すほど、グリンの表情が悔しさを通り越して憎しみに染まっていく。
「かたや、『吸血鬼に対して悪いイメージがあるからこそ、三つの世界で適度に交流してそのイメージを払拭しよう』という天界との同盟に反対した者達からの意見もあった、と我は聞いたぞ」
「そうなのか……やっぱり人間は僕達吸血鬼を怖いものだって思ってるんだね……」
村瀬雪と初めて出会った時、彼女もイアンに対して『人間が吸血鬼に対してあまり良い印象を抱いていない』ことを認めた。
やはり人間界の上層部も、考えていることは同じだったようだ。同じ人間である以上、仕方のないことだと納得することも出来なくはないが。
「そんなことはどうでも良い! 何で父上は余じゃなくてルーンに……大事なことも打ち明けたんだよ! 余の何がいけなかったんだよ! おかしいだろ! 間違ってる!」
「グリ____」
「余の名前を軽々しく口にするな! そなたの声なんて聞きたくない!」
イアンの言葉をどうでも良いと切り捨て、ルーンが自分の名前を呼ぶことさえ拒んだグリン。
俯いていてその表情を窺うことは出来ないが、彼の握った拳がブルブルと震えていることから考えて、相当の怒りを抱えていることは一目瞭然である。
「もう良いよ。天兵長よりももっと強くて大きな存在に……全知全能の神になりたいって思ってたけど、そんなのもどうでも良くなった。壊す。全部全部壊す‼︎」
銀色の瞳を血走らせ、グリンはその手にハンマーを握った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! グリン!」
彼の破壊行動を止めたのは、彼の背後から慌てたように走ってきた黒髭の吸血鬼だった。グリンと一緒に居たのだろうか、イアンと雪の出会いを仕組んだと言った彼は。
「ウィスカー隊長……!」
まさか鬼衛隊の前隊長が現れるとは思っていなかったため、イアンは驚きを隠せない。それはレオも同じようで、目を見張ってウィスカーを凝視していた。
「……は?」
しかし、グリン・エンジェラだけが彼に対して怒りにも似た感情をぶつけた。グリンは首だけでウィスカーの方を振り返り、邪魔をするなと言わんばかりに冷たい視線を向けている。
そんな視線を向けられても怯むことなく、ウィスカーはさらに訴えかける。
「わたしがお前に協力したら、この世界は壊さないって約束したじゃないか! 何を血迷ってるんだ! 感情だけで動くのはよしなさい!」
「うるさいな……そなたも余に殺されたい?」
グリンが首だけでなく、自分の身体も完全にウィスカーの方に向けた。
「ウィスカー隊長!」
イアンがウィスカーを庇いつつ身を低くしたのと同時、イアンの頭上を鋭くて素早い風圧が過ぎていった。おそらく、ミリアの背中を切ったものと同じ攻撃だろう。
「す、すまん……助かった……」
イアンに覆い被さられた形で地面に倒れ込んだウィスカーは、驚きを表情に宿しつつもお礼を言ってくれた。
「隊長、行きます!」
レオの言葉を先頭に、フォレスとウォル、そしてルーンもグリンへと距離をつめていく。
「【炎嵐】!」
「【蔓双剣】!」
「【水矢】!」
炎、草、水の使い手が、グリンへ向けて一斉に必殺技を叩き込んでいく。
ウィスカーに殺意を向けていたグリンは、他からの攻撃がやってくるとは思わなかったのだろう。
「くっ……! うぐっ! ……貴様らぁ!!」
何発か攻撃を受けてしまい、余計に怒りをむき出しにした。
「【陽神刃】!」
そこへ、止めを刺すかのようにルーンも刃を差し込んでいく。
が、それはグリン自身の剣によって間一髪と言った具合で防がれた。
刃同士が擦れ合う音、キリキリとぶつかり合う音を出しながら、二人の天使は向き合っていた。
そんな状況で、先に口を開いたのはグリンの方だった。
怒りや憎しみをその表情に宿しながら、
「どいつもこいつも……邪魔なんだよ!! 【破滅鎚】!!」
あのハンマーを振り上げて、『縦』の揺れを引き起こしたのだった。
ただし、『縦』の揺れは一回ではなかった。
グリンの収まらない負の感情を体現するかのように、何度も何度も。
今までとは比べ物にならないほどに、激しく強く__。
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何発にも及ぶ『縦』の揺れは、当然ながら鈴木誠達の居る鬼衛隊のログハウスをも襲ってきた。
数十秒が経過した後に揺れは収まり、誠は風馬を庇うようにして伏せていた顔を上げた。ルミレーヌとグレースは、ベッドの上の雪に覆い被さってくれている。
「な、何だ今の揺れは! 尋常じゃないぞ!」
「誠さん、イアンさん達が危ないんじゃ……」
自分を見上げて不安そうな顔をのぞかせる風馬を見て、誠は頷く。
「あ、ああ。俺が様子を見てくる! グレース、ルミレーヌ、悪いが、もしもここが襲われた時は雪と風馬を守ってやってくれ!」
「はい!」
「分かりました、マコト。お気を付けて」
氷結鬼二人の快諾を聞いた誠は、鬼衛隊のログハウスを飛び出していった。




