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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第254話 伝説

誠視点です!

 やがて全員が起床し、再び(ゆき)が横たわるベッドの周りに集合した。


「ルミレーヌさん、雪の体温はどうですか」


 レオが炎魔法で温め続けている右手とは反対の左手を握るルミレーヌに、(まこと)は尋ねてみる。


 ルミレーヌは真剣な表情で雪の手を握っていたが、ふっと頬を緩めた。


「まだ微かに温もりが感じられます。おそらく、グレースとレオが炎魔法で温めてくれているおかげだと思います。油断は出来ませんが、ひとまず安心ですね」


 今は隣に立つグレースと、目の前のレオに微笑みかけ、ルミレーヌはそう結論付けた。


「そうですか……良かった」


 誠が心の底から安堵していると、ベッドから少し離れた所に立っているミリアが表情を曇らせた。


「ですが、納得がいきません。魔力が不十分な(わたくし)の【回復(リカバー・)(フローラル)】ならまだしも、テイン先輩の魔法でもユキ様の出血を止められなかったなんて」


 ダイニングの椅子に腰をかけ、キルもミリアに同意する。


「確かにそうよね。テインさんの魔法はミリアよりも強力だから、何があっても治療出来てたはずなのに」


「やっぱり、あいつが何かユキの身体を弄ったんでしょうか」


 レオが隣に座るイアンを見ると、イアンは顎に手をやって考え込むように、


「いくらグリンでも、そんな馬鹿げたことは出来ないはずだよ。同じ天使同士ならともかく、人間の身体に干渉するなんて魔法____」


「【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】」


 不意に、ルーンが口を開いた。


 聞き慣れないその言葉に、皆がルーンに注目する。


 ルーンは一度にその視線を浴びて、驚いたように一瞬周りを見渡したが、


「昔、父上……いや、先代から聞いたことがある。相手の心や身体を意のままにすることが出来る、という悪魔の魔法のようだが。まさか、グリンはそれを使って……」


「天兵長。あの時、言ってたよね。気持ちを勝手に変えるなって」


 ルーンの言葉を紡ぐように、イアンが確認を取る。


 それに頷くルーンを見て、側に居たフェルミナが驚いたように彼女に尋ねた。


「気持ち……? ルーン、何かあったの?」


 フェルミナに問われたルーンは、やがて心当たりを見つけたかのように目を見張る。


「ああ、あの時だ。先代から聞いていた魔法と酷似している。耳元でグリンに囁かれた時、何故か我の意思とは全く逆のことを考えてしまったのだ」


「全く、逆のこと」


 反芻するイアンを見つめ、ルーンは言った。


「イアン、貴様を殺してやりたい、と」


 その言葉に目を見張ったのは、他でもないイアン本人だ。


 ルーンは申し訳なさそうに目を伏せ、


「勿論、先代を殺されたのはショックだった。だが我は貴様を殺してやりたいとは今までに一度も思ったことがない。憎んでいるし、許せないのは確かだが……」


「……ごめん」


「馬鹿。今は謝罪してほしいわけではない」


 ルーンは、イアンに対してぴしゃりと言い放ってから続けた。


「グリンに囁かれた瞬間に、スッと意識が遠のく感覚がしたんだ。きっとあれが【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】の力なのだろう」


 そう結論付けつつ、さらにルーンは言葉を紡ぐ。


「それに、あいつは言った。我が『勝手に気持ちを変えようとするな』と怒ったら『バレたか』と。あの時は不思議な感覚に引き寄せられたことで頭がいっぱいだったが、今思えばグリンは自分が【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】を使って我の心を操ろうとしたことが『バレた』と言っていたのかもしれない……」


「なら、その魔法を解かせば、ユキの出血を止められる!」


 解決策が見えて、声をあげるイアン。


「だが解除法が分からん。先代が言っていたのは、あくまでもそのような神経操作系の魔法が存在する、ということだけで、その解除法までは……」


 再び絶望的な状況に立たされ、イアンは唇を噛んだ。


「じゃあどうすれば良いんだ! グリンを問い詰めても吐かないだろうし!」


「仮に私達全員で攻め込んだとしても、あのハンマーでめちゃめちゃにされるだけよね」


「ああ、あんな奴がいつまでもこの世界に居座ってたら、そのうちこの世界は崩壊する。そうしたら皆が混乱しちゃうじゃないか!」


 キルの言葉に頷き、イアンは悔しげに自分の膝を叩く。


「……『世界が混乱と崩壊の危機に直面した時、世界を中立に保つ天馬が現れる』」


「どうしたんだい? レオ」


 不意に言葉を発したレオを見て、不思議そうな表情をするイアン。


「あ、いや、隊長の『混乱』と『崩壊』って言葉を聞いて、とっさに思い浮かんだんです。すみません、こんな時に」


 レオは関係ない話題だとすぐに謝罪したが、イアンはそれを流さなかった。


「世界を中立に保つ天馬……。伝説か何かかい?」


 イアンがレオに尋ねたところで、亜子(あこ)が声をあげる。


「ねぇ! それってあんたの部屋にあったあの本のことよね。確か雪が見つけてた……」


「ああ、でもこんな状況で口走ることじゃなかった。すみません、たいちょ____」


 頷きつつも首を振り、再び謝罪を口にしたレオ。


「いや、いけるかもしれない!」


「えっ⁉︎」


 イアンの言葉に驚いて、その場に居た全員が目を丸くした。


「貴様、いきなり何を言い出すのだ。天馬など……」


 ルーンの咎めを遮り、イアンは思考を展開させる。


「確かに今はまだ見つけられてない! でもその力を借りれば、グリンの【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】を解除できるかも!」


「貴様、どこからその根拠が……」


 珍しく冴え渡っているイアンに呆気に取られつつ、誠が尋ねると、


「ただの勘だけど」


「お前な! ふざけてるのか!」


 誠は青筋を立て、思わずイアンに掴みかかってしまう。


「だ、だって、天馬と悪魔って何かこう……対照的じゃないか。だから何となく……」


 胸ぐらを掴まれて観念したように両手を上げるイアン。


「全く……。まぁ、変な戯言を言えるまで精神状態が安定したなら良いが」


 イアンの胸ぐらから手を離し、誠は腕を組んでため息をつく。


「え? 何のことだい? マコトくん」


「こっちの話だ」


 不思議そうな顔で首をかしげるイアンに、そっぽを向いた誠の視線の先で、ルミレーヌが嬉しそうに顔を綻ばせていた。


 その時、またも家が『縦』に大きく揺れた。

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