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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第248話 仕組まれた出会い

「はぁ……いったいなぁ……!」


 だんだんと薄れていく土煙の中、ゆらりと揺れつつも立ち上がった影。


 一度は地面に倒れたのか、それとも立ち上った土煙で汚れたのかは定かではないけど、グリンさんは黒みがかった羽を生やしたまま荒い息遣いをしていた。


 あれだけの攻撃を受けてもなお、立ち上がることが出来た天使____グリン・エンジェラに、私達は驚きのあまり硬直してしまう。


「皆……皆皆皆皆……全員が余をそんな目で見る。悪事を働いた犯罪者を見るような目で……」


 グリンさんは私達全員を憎しみのこもった眼差しで睨みつけながら、拳を振って叫んだ。


「余は惨めな奴じゃない! 余が何をした? 余よりも弱い雑魚が強くなるように頑張って訓練に付き合って、結果が実らなくても文句一つ言わないで、各々の復讐を代わりにやってやろうとして……何も悪いことしてないじゃないか! 何で! 何で皆! 余をそうやっていじめるんだ? まるで余が、この世界には要らない存在みたいじゃないか。外来種みたいじゃないか……」


 そこでうなだれたように言葉を止めてから、グリンさんは私の方に首を巡らせた。


「余はそんなんじゃない! どっちかと言えばユキ、そなたでしょ?」


「えっ……」


 突然名指しされて、私は思わず硬直してしまう。


「前にも言ったけど、そなたが亜人界に来るようになったから、三つの世界の秩序が乱れたんだよ? 天界が亜人界の吸血鬼を倒そうとしてるのに、天界と人間界とのふざけた同盟のせいで、亜人界には前みたいに踏み込めなくなった。何故か分かるか? 亜人界にそなたが居るからだよ!」


 グリンさんは何度も何度もハンマーで私を指して、


「吸血鬼を倒しに来たのに、そのせいで人間を傷付けたとなってみろ。後々の人間界との交流も難しくなるだろ! 同盟は解消だ! 父上の頃から続いてきた文化を、たった一代で終わらせることほど馬鹿げたことはない!」


 ふわふわの銀髪がボサボサになるまで掻きむしり、続ける。


「なのにそなたは平然と、毎日毎日ここに来て。吸血鬼領が自分の家だって勘違いしてるみたいに。誰のおかげで、そなたを吸血鬼に巡り合わせて、息も詰まるような現実から逃避させてやったと思ってるんだ……!」


「えっ……?」


「グリン、どういうことだい」


 グリンさんの最後の言葉に、私だけじゃなくイアンさんも驚く。


 どういうこと……? 『誰のおかげで』って……。まさか、だよね。


 ボサボサの毛先を潰す勢いで握りながら、グリンさんは尋ねてきた。


「そんなことも知らないで、家族ごっこしてたのかい? 反吐が出るよ」


 突然のことに、私もイアンさんも、周りに居る皆も声が出ない。


「良いさ、この際だから何も知らない馬鹿どもに教えてあげるよ。そなた達が出会ったのは運命でも偶然でもない……必然だったんだよ! 何せ、そなた達の出会いを仕組んだのは余なんだからな‼︎」


「仕組んだって……どういうことだい?」


 イアンさんがグリンさんに向かって尋ねた瞬間、グリンさんの後ろで魔法陣が光った。そこから現れたのは____。


(ゆき)! 大丈夫か!?」


(まこと)さん!」


 『吸血鬼抹消組織』通称・VEOの隊長____鈴木(すずき)誠さんだった。


 誠さんは私を見つけるや否や、慌てて走ろうとするけど、グリンさんが小さく手を上げてそれを制した。


「ちょっとストップ。今は大事な話をしてるんだ。あっ、そなたも聞いていきなよ。あそこでユキを助けたんでしょ?」


「あそこ……? 何を言ってるんだ」


 笑顔だったグリンさんは、誠さんが眉をひそめるのを見て怒ったような表情に戻り、ため息をつく。


「だからそれを今から話すんだってば。せっかちだなぁ」


 それから私とイアンさんの方に向き直ると、口角を上げて再び笑顔を作った。


「そなた達の出会いを余が仕組んだ……そのままの意味さ。でも余だけじゃない。ねぇ、誰だと思う? そなた達もよく知ってる奴だよ?」


 私達がよく知っている人……?


 そんなことを言われても、急には思いつかない。


 でもグリンさんの言葉が真実なら、私が今まで関わってきたヒト達の中に裏切り者が居るってことになる。


 グリンさんはイアンさんだけを見つめ、小首をかしげた。


「そなた達は、どうして人間界で訓練をやってたの?」


「そ、それは……ウィスカー隊長が仰ってたから」


「何て言ってたんだい?」


「吸血鬼領は狭くて訓練しづらいだろうから、人間界にお邪魔すると良いだろうって」


 一つ目の質問の答えが出たところで、グリンさんは満足げに口角を上げて二つ目の質問に移行する。


「じゃあ、何でそなた達は出会ったんだい?」


「ユキがその先に居ることも知らないで、僕がキルの攻撃を避けちゃったから」


「じゃあじゃあ、何でそなた達は、ユキにぶつかっちゃいそうな場所で訓練をやってたんだい?」


「ウィスカー隊長に……指示された、から」


「何て指示されたんだい?」


「人通りも多いし、常に誰かを守ろうとする意識を持って戦闘出来るから、あの辺りでやりなさいって……」


 グリンさんがまたも満足そうな表情を浮かべた時だった。


「お、おい! 何を勝手に言ってるんだ!」


 背後からドタドタと走ってくる足音がして振り向くと、そこにはある人物が立っていた。


「ウィスカー隊長……」


 イアンさんが、そっと彼の名を呼ぶ。あまりにも小さくて、本人には聞こえていないみたいだけど。


「グリン、これは一体どういうことだ!」


 ウィスカーさんの言葉に臆することもなく、グリンさんは両手を広げる。


「見たままだよ。この馬鹿どもに真実を教えてやってるんだ。さぁ、これで余の言っている意味が分かったでしょ? イアン」


「ウィスカー隊長……あなたが、僕とユキの出会いを仕組んだんですか?」


 イアンさんに見つめられ、ウィスカーさんは慌てたように両手を振った。


「ま、まさか……! 何を言うんだ! わたしは悪くない! わたしは、こいつに操られていたんだ! こいつに脅されて、仕方なくだな……」


 グリンさんを指差すウィスカーさん。でも指を差されたグリンさんは平然と言った。


「言い訳は良いよ、ウィスカー。今のイアンの説明、全部合ってる?」


 ウィスカーさんは悔しそうに歯軋りしたけど、渋々と言ったように頷いた。


「そん、な……」


 イアンさんは力なく声を漏らすと、崩れ落ちるように地面に膝をつく。


「い、イアンさん!」


 覗き込んだイアンさんの顔は、絶望の色で染まっていた。


 かつての鬼衛隊長が自分達を裏切っていて、一人の天使と一緒に一人の人間との出会いを仕組んだ、と聞かされて。

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