第246話 万死に値する
グリンさんは漆黒の剣を片手に、キラー・ヴァンパイアの三人__ハイト、スレイ、マーダに襲いかかっていく。
もう、その前方で成り行きを見守ることしか出来ていない私達のことは、眼中にもないみたいだ。
グリンさんに一方的に襲われているように見える三人だけど、彼らだって殺傷を得意とする種族。
明らかに押されてはいるけど、吸血鬼三人組のように呆気なく殺されるほど弱くはなかった。
鋭い速さで振るわれる剣撃にも、白くて長い爪を伸ばして必死に対抗している。
グリンさんはそんな三人の姿を見て、何かに気付いたように『あっ』と声をあげた。
「そっか、そなた達はなんとかヴァンパイアだから、そう簡単には殺されてくれないのか。でもまぁ良い。殺し甲斐がある方が余は好きだからね!」
残念そうな表情を覗かせてから再び目を見開き、三人のうちの一人__ハイトに襲いかかるグリンさん。
「……ハイト!」
「ハイト!」
残りの二人が危険を察知してすぐさま叫ぶけど、ハイトは逃げずに爪を構えて立ち向かおうとしているのか、その場から一歩も動かない。
漆黒の剣がハイトに向かって振るわれる__。
「【陽神刃】!」
と、思ったその時だった。
凛と響く詠唱とともに、太陽のような温かい光の帯がグリンさんとハイトの間に割って入るように伸びた。
だけど、それは光の帯じゃない。ルーンさんが持っている純白の剣によって引き起こされたものだ。
「何? ルーン。もしかして怒ってる?」
間に割って入ってきたルーンさんを見て、グリンさんは引きつったような笑みを浮かべる。
ルーンさんはそんなグリンさんを睨み付け、ハイトを庇うようにしてその前に立ち、純白の剣を構え直した。
「当たり前ではないか……! これは我とそなたの問題だと何度も言ったはずだ! それなのにそなたは皆を巻き込んで……挙げ句の果てには、あの時に父上がされたことと同じことをした!」
ルーンさんが声を荒げるけど、グリンさんは呆れたような表情で銀髪を掻きむしって、
「あー、やめてくれる? そなたに『父上』って呼ぶ資格はないから」
グリンさんの言葉に、唇を噛むルーンさん。
先程、自分の耳で真実を聞いてしまったのだから、反論のしようがない。
それでもルーンさんは、グリンさんに向かって声をあげる。
「破壊する必要のなかった魂を、そなたは三つも破壊した……。そなたの行動は、万死に値する!」
「余は優しいから。剣には剣で相手してあげるよ」
白と黒の剣が激しく衝突して火花を散らし、辺り一面を眩しく照らした。
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二人の天使は互いに剣を交えて戦っていた。
「何で余に歯向かってくるんだい? ルーン。余の父上……グリオネス・エンジェラを殺したのは、そこの吸血鬼でしょ? 余じゃない」
イアンさんを剣で指し示すグリンサンに、ルーンさんは一歩踏み込んで彼を押す力を込める。
剣の刃同士がキリキリと音を立てながら、小刻みに震えていた。
「抜かすな! 貴様は父上__先代が死んだことをイアンに感謝していたではないか! 魂の破壊に感謝の意を表するなど、許されることではない!」
「どうせなら、余じゃなくてイアンって奴を殺せば良いじゃないか。父上の敵だよ? 取りたいんでしょ?」
「それはいつでも良い! それよりも我は、貴様が先代を侮辱したことに腹を立てているのだ! この恩知らずめ!」
ルーンさんは声をあげながら、さらにグリンさんを押し込んでいく。
「何が恩知らずだ。それはそなたの方じゃないか。余に強くしてもらったと言っても過言じゃないのに、そなたは平然と天兵長の座についた。恩知らずはルーンの方だ!!」
突然、声を荒げたグリンさん。
弾かれるように肩をビクッと震わせたルーンさんは、さっきとは打って変わって弱気の口調で言う。
「それはっ……先代の遺言だと伝えられたからで__」
「本当に余のおかげで強くなれた……いや、並大抵の強さを手に入れられたって思ってるなら、あいつの遺言でも何でも無視して、余を天兵長にするように頼んでくれるのが普通だろ!」
今度はルーンさんが押し返される番だ。
グリンさんの漆黒の剣がキリキリと火花を散らしながら、ルーンさんの純白の剣をルーンさん本人へと近付ける。
「グリンには感謝している。そのおかげで我は強くなれた。だが何故、我がそのようなことを頼まなければならんのだ。先代のご意志に逆らうことなど出来るものか!」
ルーンさんも負けじと主張するけど、グリンさんの声にはそれよりも遥かに大きな恨みが宿っていた。
「何が『先代のご意志』だ。小さい頃からずっと父上に騙されてたくせに! 父上のことを自分の本当の父親だってずっと勘違いしてたくせに! そのせいで余がどれだけ悔しい思いをしてたか……そなたには想像も出来ないでしょ!?」
「グリン!」
「ああもう黙れ!!」
グリンさんはやけくそになったように叫ぶと、ルーンさんのお腹に鋭い蹴りを入れた。
「ぐっ!」
「ルーン!」
勢いよく後ろに飛ばされて倒れるルーンさんを、第一部下のフェルミナさんが素早く支えた。
それを見やって、グリンさんは短く息を吐く。
「そなたは良いよな。つまずいて転んでも、助けてくれる仲間が居る。余には居なかった。余は、ずっとずっと孤独で、ずっとずっとひとりぼっちだったんだよ!!」
剣の柄を強く握りしめながら、グリンさんは私に視線を移した。
その瞳は、さっきみたいに怒りで燃えているわけではない。ただ純粋に、自分と同じ境遇の者に同意を求めるような、すがりつくような弱々しさを宿していた。
「なぁ、ユキ。そなたなら分かってくれるよね? ずっとひとりぼっちだったんだから」
グリンさんの言葉に、私は慌てて首を振る。
「そ、それは違います! 私がひとりぼっちになったのは……亜子ちゃんが私のためを想ってしてくれてたからで__」
氷下心結ちゃん__氷結鬼・グレースを私から遠ざけるために、わざと私に冷たい態度を取り続けていた、と亜子ちゃんは打ち明けてくれた。
その時の彼女の苦しそうな表情は、今でも忘れられない。
「でも結果的にはひとりぼっちになった。その事実は変わらないでしょ? ねぇ、アコ」
グリンさんは私から亜子ちゃんに視線を移し、地面を力強く蹴って彼女に迫る。
「ぐぅっ!」
__そう思った次の瞬間には、亜子ちゃんはグリンさんに蹴られて後方へ飛ばされていた。
「亜子ちゃん!」
「「亜子!!」」
私、亜子ちゃんのご両親・亜雄さんと亜美さんは同時に声をあげ、仰向けに倒れた亜子ちゃんに駆け寄る。
「ユキ、今から余がそなたの敵を討ってあげるよ」
いつの間にか、グリンさんの手には丸太のようなハンマーが握られていた。




