第243話 命の結晶
「__そんな……!」
ルーンさんから全てを聞いた私は、思わず言葉を失った。
「これは前鬼衛隊長のウィスカー様が提案なさったことなのです、ユキ様。ですから、ある程度の信用度は見越しても大丈夫だとは思いますが……」
そう言うフェルミナさんも、少し歯切れが悪い。
当然だ。この作戦が前代未聞のことで、成功する確率も見積もることが出来ないのだから。
「我は、大丈夫だと、そう信じたいがな」
「ルーンさん……」
「イアンは強い奴だ。何せ、我の父上の魂を破壊したほどだからな」
「グリンさんの魂、本当に破壊する以外に方法はないんでしょうか……」
「ユキは本当に優しいな。以前はその優しさを甘えだと考えていたが……。今となっては素直に優しさだと理解できる」
「だが、あいつは仮に牢獄に放り込んでも、出てきた側から色々とやらかす可能性の方が高いからな。今のところ、そこまでの悪事は確認できていないが」
「そう、ですか……」
人間界にも死刑制度があるけど、それと同じ感覚なのかな。罪を犯したヒトは死をもって償うっていう……。
私が一人で納得しつつも重たい気持ちになっていると、突然家がグラグラと『縦』に揺れた。
「っ! またグリンか!」
この揺れは、間違いなくグリンさんのものだ。学校では手ぶらだったけど、グリンさんがハンマーを振り上げたのだろう。
イアンさん達が心配だ。ここに居てって言われたけど、それでも先にイアンさん達がやられてしまうのに何も出来ないのは嫌だ。
私が家を出ようとするよりも早く、ルーンさんが純白の剣を片手に家を飛び出した。
「る、ルーン!」
「ルーンさん!」
慌てて後を追いかけるフェルミナさんに続き、私も、そして風馬くんも家を飛び出す。
「ユキ! グリンの居場所はどこだ!」
「え、えっと、時計台の近くです……!」
ルーンさんに叫ばれて、私は思わずグリンさんの居場所を伝えてしまった。ルーンさんが間違いなくそこに向かうって分かっていたのに。
「あっ、ルーンさん!」
今までずっと自分の足で走っていたルーンさんが、背中から白い羽を伸ばして空を飛んだ。
彼女を追いかけて、フェルミナさんも白い羽をはばたかせる。
私と風馬くんも、より一層走る足に力を込めた。
時計台の近くに戻ってみると、時計台の天辺に悠然と立つグリンさんが丸太のようなハンマーを肩に担いでいた。
その下では、ハンマーの揺れにやられたのだろう、イアンさん達吸血鬼と亜子ちゃん達亜人が倒れていた。
時計台の天辺に居るグリンさんを見上げ、ルーンさんは力の限り叫ぶ。
「グリン! もう止めろと言っているだろ! 何故、我ではなく無関係の者達を攻撃するのだ!」
「おおー、ルーン、久しぶりだね。元気にしてた?」
時計台から地面を見下ろし、楽しそうに手を振るグリンさん。
「ふざけるな! 我は挨拶をしに来た訳ではない!」
言い合っているグリンさんの手が止まっている間に、私はイアンさん達の元へと駆け寄った。
「イアンさん! 皆さんも大丈夫ですか!?」
「ゆ、ユキ……ごめん、大丈夫だよ」
イアンさんは痛みに顔を歪めて小刻みに震えつつも、ゆっくりと身を起こしていく。
「あのハンマーが厄介だな……。さっさと奪って壊せれば良いんだが……」
今回、グリンさんとは初めて戦っている亜雄さんが恨めしそうに時計台のグリンさんを見上げる。
その時だった。
「なぁ! リーダー! 何だよこれ!」
時計台のグリンさんに向けてだろう。不満を叫ぶ声があった。
声の主を探すと、時計台の反対側に三人の吸血鬼が居た。私を誘拐して売ろうとした三人組だ。
そして先程声をあげたのは、三人の中では一番若そうな見た目の若人吸血鬼だった。
その後ろからは、キラー・ヴァンパイア__ハイト、スレイ、マーダが走ってきている。
えっ、六人とも王宮の牢獄に入れられてたはずなのに、何で出てきてるの!?
私が驚きを隠せないでいると、地面に倒れたイアンさん達をグリンさんから守るように、ひらりと飛び降りてきた影があった。
「安心しろ。あいつらはしっかりと、わたしに忠誠を誓ったよ」
「お父様……!」
イアンさんが目を見張る。
私達の目の前には、王宮のヒト達__国王・ブリス陛下、その秘書のテインさん、皇太子・ヴァンさん、王女・パイアさん、ホーリー・ヴァンパイアの兄妹・サレムさんとスピリアちゃんが立っていた。
「ど、どういうことですか、あの六人は__」
キルちゃんが声をあげると、テインさんが言った。
「あの者達は正直に全て話してくれました。元々、自分達はグリン・エンジェラの配下についていた、と。でも今のグリンの行動は予定にはなかったそうで、非常に腹を立てているみたいでございます」
「グリン。テメェ、勝手なことばっかりしてんじゃねぇぞ。予定と全く違うじゃねぇか!」
両手の拳をぶつけ、ハイトがグリンさんに向かって文句を言う。
「……俺達はもうお前には従わない」
「つまりぃ、裏切りってことよねぇ」
スレイに続いて、濃い桃色の髪をなびかせて不敵な笑みを浮かべるマーダ。
「残念だったな、天使よ」
「まぁ、所詮、種族が違うからな。簡単に分かり合えるはずもねぇ」
「そういうこと!」
中年吸血鬼、青年吸血鬼、若人吸血鬼が言葉を紡いだ。
どうやら、六人が王宮側、つまり私達の方に寝返ったのは本当みたいだ。
「なーんだ、つまらないなぁ。もっと楽しめると思ってたのに」
グリンさんは不満げに唇を尖らせた後、その唇を横に引いて笑みを浮かべた。
「まあでも、余が殺す敵の数が増えた方が殺り甲斐はあるけどね!」
言うが早いか、腰に差した漆黒の鞘から漆黒の剣を抜いて、六人の方に向かって時計台を飛び降りる。
「来るぞ! 避けろ!」
瞬時に判断をしたハイトのかけ声で、六人はバラバラに散る。
バラバラに散らばることで、グリンさんが標的にする焦点を定めにくくする作戦だったのだろう。
それもグリンさんは分かっていたようで、
「よく考えたみたいだけど、意味ないんだよね。先に余に歯向かった奴が最初だよ」
グリンさんはカッと目を見開くと、六人のうちの一人__若人吸血鬼に向けて漆黒の剣を深く深く突き刺した。
「ぐふっ……!」
若人吸血鬼は口から大量の血を吐き、その場に崩れ落ちていく。でも、ただ崩れ落ちていくわけではなかった。
彼の身体がどんどん透けていき、最終的には丸いガラスのようなものに姿を変える。
宙に浮かんだそれを、グリンさんは躊躇なく剣で刺し割った。
私を含め、その場に居た全員が目を見張り、驚きのあまり息を呑んだ。
若人吸血鬼が姿を変えたあの丸いガラスのようなものこそ、亜人界や天界の皆の命の結晶__魂の核なのだ、と瞬時に理解できた。
それが割られたということは、若人吸血鬼はグリンさんに殺されたということ。
つまり、たった今、彼はこの亜人界から消滅したのだ__。
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今後とも全身全霊で頑張っていきたいと思います。
(※リマインド)
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