第242話 戦いの火蓋は落とされた
私と亜子ちゃん、風馬くんめがけて投げられた【鉄壁】。
そのあまりの速さに、私達は目を見開き、自分達にめがけて飛んでくる鉄壁を見ていることしか出来なかった。
このままじゃ全員潰されちゃう……!
そう焦っていると、目の前に水色の魔方陣が出現。
「【暗黒剣】!」
私達に激突するはずだった鉄壁は、黒い剣によって破壊される。
私達を庇うようにして目の前に姿を現したのは、黒髪の吸血鬼だった。
「イアンさん!」
イアンさんに続くように、黄色の長髪の吸血鬼も魔方陣からその姿を現す。
「申し訳ありません、遅くなりました!」
「ミリアさん!」
「オトナがコドモをいじめるなんて、感心しないな、グリン・エンジェラ」
イアンさんは、私達の方を振り返らずにグリンさんに鋭い言葉を投げかける。
「これ以上、あなたの好きにはさせません!」
ミリアさんも手を広げて私達を庇う動作。
「へぇ、余がユキの『ガッコウ』を襲うって知ってたんだ」
黒みがかった羽を伸ばしていたのを元に戻し、グリンさんは眉を上げた。
「知ったと言うよりは気付いたんだよ。亜人界からあれだけ多くの吸血鬼や氷結鬼が人間界に向かってるんだ。人間界で何かが起こってるって気付くのは当然じゃないか」
「まぁ、そうだろうね。てっきり誰かが密告した、とかの理由だと思ってたけど」
イアンさん達が助けに来ることを想定していたような口調のグリンさん。
すると、二人の吸血鬼が立つ隣の地面に、またも魔方陣が出現した。
そこから姿を現したのは、赤い短髪の男の亜人と赤い長髪の女の亜人だった。
「パパ! ママ!」
二人を見て、亜子ちゃんが嬉しそうに声をあげる。
亜子ちゃんのご両親__亜人の亜雄さんと亜美さんは、娘の無事を確認した後に、イアンさんとミリアさんの姿を見て顔を綻ばせる。
「おっ、急いで戻ってきたが、その必要はなかったみたいだな」
「亜子達を助けてくれてありがとうね、イアン、ミリア」
イアンさんは首を横に振って、
「いえ、僕達が来る前にアコはちょっとやられちゃってます。だから間に合ったとは言えなくて」
その言葉に、亜子ちゃんの方を振り返る亜美さん。
「亜子、まだいける?」
母から問われた亜子ちゃんは力強く頷き、勢いよく立ち上がった。
「勿論よ! あたしだって亜人なんだから!」
「無理はするなよ」
亜雄さんの言葉に、亜子ちゃんは無言で頷いた。
「ひとまず、皆を全員亜人界に転送しよう。流石に人間界で戦うわけにはいかないし」
「そうですね、イアン様」
「そういうことなら任せとけ」
「ええ、お安いご用よ」
イアンさんの言葉に賛同するミリアさん、亜雄さん、亜美さん。
「「「「【魔法陣】!!!!」」」」
四人の詠唱が響き渡った。
グリンさんを含め、学校を襲撃に来た吸血鬼と氷結鬼達の足元にたくさんの魔方陣が出現したかと思うと、全員が淡い水色の光に包まれた。
「よし、じゃあ僕達は__」
「イアンさん! 私も一緒に行きたいです!」
「お、俺も!」
私達の方を振り返ったイアンさんに、私と風馬くんは同じ意思を示す。
無数の吸血鬼や氷結鬼を亜人界に戻すことが出来たとしても、またイアンさん達を襲うようになってしまえば意味がない。
私も風馬くんも負けたけど、スピリアちゃんを守るために一度はマーダと戦ったことがある。
それに、怪我をした誰かの手当てくらいなら出来る。
人手が多いに越したことはないし、何よりイアンさん達の役に立ちたい。
「……分かった。一緒に行こう」
勿論イアンさんは相当迷っていたけど、最終的には私と風馬くんの同行を認めてくれた。
イアンさんが拡張してくれた魔方陣が、私と風馬くんの足元にも出現。
淡い水色の光に包まれて、私達は亜人界へと転移した。
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「まさか、強制的に戻されるとはね。吃驚仰天。驚きだ」
それでも、どこか余裕そうに笑うグリンさん。特徴的な四字熟語もすっかり元に戻っている。
でも、グリンさんは高い高い時計台の天辺に立っていた。
「さぁ、そなた達、日頃の恨み辛みを爆発させる時だ!」
「うおおおぉぉぉぉ!!」
両手を広げて声高々に叫ぶ天使を合図に、吸血鬼と氷結鬼達は一斉にイアンさん達に向かって迫っていく。
「イアン!」
「隊長!」
キルちゃんとレオくんも合流し、本格的な戦闘が始まった。
「ユキとフウマは下がってて! 僕達の家に居て!」
イアンさんが剣を振りながら、私達に向かって叫ぶ。
「この吸血鬼と氷結鬼は全員、グリンに操られてる! 操りが解けた時に皆を手当てしてほしいんだ!」
「「分かりました!」」
私と風馬くんは同時に返事をして、イアンさん達の家へと向かった。
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それから私達は全速力で走り、イアンさん達の家に着いた。
ドアを半ば乱暴に開けると、そこには二人の天使の姿があった。
「る、ルーンさん! フェルミナさん!!」
ベッドに上体を起こした白髪の天使・ルーンさんと、その横に付き添っているフェルミナさん。
「ユキ……一体どうした。……そなたは以前会ったな」
私を見て危機感を露にするルーンさんは、ふと風馬くんに視線を移した。
風馬くんも覚えていたらしく、ペコリと会釈をする。
そう、風馬くんとルーンさんは、以前一度だけ会っている。
ルーンさんが私を天界に誘った時、その現場をちょうど風馬くんに見られてしまったことがあった。
その時の私のあまりにも酷すぎた行動は、後で風馬くんに謝罪して、有り難くも優しく許してもらったけど。
「イアンさん達が今、グリンさんに操られた皆と戦ってくれてます。私達は、操りが解けたヒト達の手当てをするために来ました」
私が言うと、ルーンさんは顔を曇らせた。
「そうか……ついに……」
それからルーンさんは顔を上げて、私をまっすぐに見つめた。
「ユキ、今からそなたに伝えなければならないことがある。本当は伝えまいと思っていたのだが、ユキは知っておいた方が混乱せずに済むだろう」
どういうことだろう……。言ってもらわないと私が混乱するかもしれないようなこと……?
私は唾を呑み込んで、ルーンさんの言葉を待った。




