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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第240話 使い手の能力を使って

イアン視点の三人称です!

「悪いね、急に皆を呼び出して」


 鬼衛隊の前隊長・ウィスカーは、そう言って髭を撫でた。


 イアン達鬼衛隊、スピリアとサレムの吸血鬼兄妹、フォレスとウォルの双子天使は、鬼衛隊が住んでいるログハウスに集合していた。


 その理由は勿論、先程本人からの謝罪があったように、ウィスカーから呼び出しを受けたからである。


「急にどうなさったんですか? 隊長」


 おそらく集められた皆が持っているであろう疑問を、イアンはウィスカーに投げかける。


 するとウィスカーは、まだ髭を撫でながら言った。


「近いうちに、必ずグリン・エンジェラは亜人界を襲撃に来るはずだ。それに対抗するために、皆には尽力してもらおうと思ってな」


「僕達が、ですか?」


「ああ」


 イアンの言葉にウィスカーが頷くと、ベッドからルーン・エンジェラが身を起こした。


「流石に申し訳ない。グリンがここを襲撃に来るのは、間違いなく我がいつまでも居座っているからだ。我が天界に戻れば__」


「待って、ルーン。まだ完全に回復したわけじゃないのよ?」


 そんな彼女の体を支え、起こさせまいとするフェルミナ。だが、ルーンは幼なじみの制止も聞かずに、


「回復を待つだけなら天界でも出来るではないか。我のせいで亜人界が襲われるのは嫌だ」


 ルーンの言葉に、悲しげに顔を見合わせるフォレスとウォル。


 その間にも、ルーンはベッドから降りて家を出ていこうと足を踏み出している。


 だが、少し歩いたところで崩れ落ちるように前のめりに倒れてしまう。


「ルーン!」


「おっと……大丈夫かい? 無理は禁物だ。別に天兵長のせいじゃないんだから、責任を感じる必要はない」


 叫び、駆け寄ろうとするフェルミナよりも早く、近くに居たイアンがルーンを受け止めた。


 だが、ルーンはイアンの言葉に噛みつくように反論する。


「事実ではないか! グリンが狙っているのは確実に我だ」


「それでも、言ったよね。僕に君を守らせてほしいって」


 ルーンの体を起こし、イアンは彼女の両肩を掴んでじっとルーンを見つめた。


「それは……そなたが勝手に言っていただけで__」


 未だ苦しそうに顔を歪めつつも、イアンから離れようとするルーン。


「天兵長、よろしく頼むって言ったよ。君がここに居てくれないと、僕が君を守れなくなる」


「だ、だが__うっ!」


 何とか身をよじり、イアンから離れようとしたルーンだったが、グリンに攻撃された腹部に痛みが走ったらしく、呻きながら崩れ落ちるように膝を折った。


「そんな体じゃ、天界の皆を心配させるだけだ。ここに居て良いから。早く元気になるのが一番だよ」


「イアン……」


 イアンはルーンを横抱きして、再びベッドに寝かせる。


 すると、話を中断させてしまった責任を感じたのか、フェルミナが薄紫の長髪をなびかせて勢いよく頭を下げた。


「も、申し訳ありません、皆様!」


「フェルミナも謝らないでくれ。君達は何も悪くない」


 イアンはルーンを寝かし終わってから、フェルミナに向かって優しく微笑む。


 彼女に向けた言葉はイアンの本心であり、ルーンやフェルミナが責任を感じる必要は全くないと思っているのも事実だった。


「__では、話に戻るぞ。まず、グリンの対抗策として使い手の能力(ちから)を使おうと考えている」


「使い手の能力(ちから)を?」


 炎の使い手・レオ。

 草の使い手・フォレス。

 水の使い手・ウォル。

 雷の使い手と同等の能力(ちから)を手にしたサレム。

 聖の使い手と同等の能力(ちから)を手にしたスピリア。


 その五人を見回し、再びウィスカーへと視線を戻すイアン。


 ウィスカーは黒髭から手を離して真剣な顔つきになってから、


「使い手と呼ばれるべき存在は亜人界、天界を合わせても五人、いや、六人しかいない。その強大な力を使って、グリン・エンジェラの魂を消滅させるんだ」


「六人って、あと一人は……」


「イアン、お前だ」


「ぼ、僕ですか!?」


 使い手の六人目に全く心当たりはなかったが、まさか自分自身が任命されるとは思っていなかったイアン。


 驚くイアンに向かって顎を引き、ウィスカーは言葉を紡ぐ。


「急激な能力(ちから)の増幅のせいで、使い手と呼ばれる者達と同等の力を得る者も居る。ちょうどサレムくんやスピリアちゃんのようにだ」


 ウィスカーの言葉に、嬉しそうに兄を見上げるスピリア。


 それを横目に見ながら、ウィスカーはさらに続けた。


「だが本来、使い手と同等の能力(ちから)を得るなんていうのは奇跡に等しいんだ。ホーリー・ヴァンパイアが例外だっただけで他の種族には不可能だろう」


 ホーリー・ヴァンパイアは神からの加護を受けている種族の吸血鬼である。だからこそ、例外的に能力(ちから)の増幅が可能だったのだ。


「だから使い手の能力(ちから)を取り込めば、イアン、お前も闇の使い手としての力でグリン・エンジェラに対抗できるかもしれない」


 ウィスカーの言葉にハッと目を見張るイアン。


 確かに、今から使い手と呼ばれるほどの能力(ちから)を取得することは極めて困難である。だが、その能力(ちから)を外部から取り込めば__。


 なす術が見つからず途方に暮れ、真っ暗な闇の中に佇んでいたイアン達に、一筋の希望の光が差し込んだ気がした。


 だが、ウィスカーは不安げに目を伏せ、


「勿論、こんなことは前例がないから、能力(ちから)を取り込めるかどうかも、取り込んだ能力(ちから)を自由に操れるかも不明だが」


「それでも___」


 イアンはウィスカーの言葉を半ば遮るようにして、


「今の僕達の力じゃ、逆立ちしたってあいつには勝てない。勝算が全くないわけじゃなくて、勝てる可能性が一欠片でもあるなら、僕はやります」


「そうか。イアンならそう言ってくれると思っていたぞ」


 ウィスカーは不安げな顔を明るく輝かせ、待ってましたとばかりに人差し指を立てた。


「グリンの対抗策はこうだ。まず、個々で戦っても絶体絶命のピンチに追い込まれて、それ以上の戦闘が困難になった時、イアン以外の五人は自分の能力(ちから)の一部をイアンに渡してほしい。目を瞑って念じれば、自ずと能力(ちから)は受け渡される」


 ウィスカーの言葉に頷くレオ、フォレス、ウォル、サレム、スピリア。


 それを確認してから、ウィスカーは続ける。


「それをイアンの闇の魔法で吸収して、使い手全員の能力(ちから)を使い、再度グリンに立ち向かうという作戦だ」


「分かりました、隊長」


 イアンも頷き、ウィスカーに向かって返事をする。


「ただ、さっきも忠告したように、イアンが闇の能力(ちから)に飲まれて自我を失い、暴走してしまう可能性もある。そんなリスクを抱えての作戦になるが……」


 再び不安そうに俯いたウィスカー。


 よほどのリスクを抱えているのだろう、とイアンは察した。


 何せ、前代未聞のやり方だ。一歩間違えれば、ウィスカーが言ったような事態を引き起こすことになってしまう。


 責任は重大だ。それに、能力(ちから)を受け渡す作戦のため、予行演習を行うことは出来ない。


 ぶっつけ本番、一か八かである。


 それでも、イアンを含めた使い手の五人は力強く頷く。


「大丈夫です。この作戦、絶対に成功させますから!」


「ああ、期待しているぞ。イアン、皆」


 ウィスカーも満足げに、黒髭を撫でた。


 この作戦に意を唱える者は一人もいなかった。


 __グリン・エンジェラの魂を破壊する。


 目的は、皆同じなのだから。

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