第237話 恋はまるで光のように
風馬くんと一緒にイルミネーションを観賞する当日___日曜日がついにやってきた。
その日の夕方、私は絶賛迷い中だった。
何せ、風馬くんとの初めてのお出かけなのだ。服のおしゃれセンスには疎くても、少しは小綺麗にしていかないといけない。
まず、一つ目の候補はワンピース。でも足が寒いよね。ストッキングとかタイツを履けば済む話だけど、履き方が悪いせいで破りたくないし。
それに万が一、イルミネーションの最中にストッキングが破れてることが発覚、みたいなことがあったら恥ずかしすぎる。
風馬くんにも迷惑かけちゃうし、ストッキングさえ履きこなせないのかと幻滅されてしまうかもしれない。
じゃあジーパンを下に履いていく?
でもワンピースに合うような、薄くて細いジーパンなんて持ってない。
長い靴下っていう選択肢もあるけど、歩いている途中にずり落ちちゃうよね。
あ、スキニー! スキニーならある!
それと、今の流行りはニットみたいだからモフモフの服を着ていこう。
寒くなるだろうし、ジャケットとか着ていったらおしゃれに見えるかなぁ。
私はとりあえず全部着替えて、鏡の前に立った。
うんうん、ちょっとはおしゃれ女子に近付けたかな?
自分で言うのも変だけど、いつもよりはおしゃれなコーデだと思う、なんて。
あと、帽子。ニットの服とニットの帽子だとモコモコになっちゃうから、ちょっとモコモコ抑えめのニット帽子にしよう。
玄関からニット帽を持ってきて、再び自分の部屋まで上がって鏡の前に立つ。
おぉ、我ながら結構イケてるかも! これなら風馬くんにも幻滅されないかな。
やっぱり、年頃の女の子の格好が変だと興ざめしちゃうよね。そこはちゃんとしないと。
とりあえず服装が決まったところで、私は顔を上げて壁にかかった時計を見た。
集合時間が十八時で、イルミネーションの時間が十八時三十分。
今の時間は十七時を回った直後だから、もうそろそろ家を出た方が良いかもしれない。
出た先で何があるか分からないし、もしかするとアクシデントに見舞われる可能性だってある。
それに風馬くんが意外と早めに来るタイプの人だったら、ギリギリに集合場所に行って待たせてしまうことになる。
そう思いつつ、私が階段を降りて玄関に行くと、おじいちゃんがリビングのドアを開けてひょっこりと顔を覗かせた。
「雪、集合時間はまだじゃろ? そんなに早く行くのか?」
「あ、うん。出た先で色々トラブルが起こっちゃっても困るし」
「本当に雪は心配性じゃのう」
笑いながら、おじいちゃんは『仕方ない』と言いたげな表情。
「本当に良いのか? わしが駅まで送って行かんくて」
「うん、大丈夫だよ。せっかくの休みなんだからゆっくりして、おじいちゃん。私だってもう十七歳だよ? 自分で行けるもん」
「成長したのう。寒くなるじゃろうから、防寒対策しっかりするんじゃぞ」
「はーい」
マフラーを首に巻きつつ返事をして、私は冬用のブーツに足を入れる。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい。楽しんでくるんじゃぞ」
笑顔で手を振ってくれるおじいちゃんに手を振り返し、私は駅への道を小走りで進んでいった。
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集合場所______駅の中央出口までは、そうかからなかった。
小走りで行ったせいか、中央出口に着いた時はまだ十七時二十分だった。
……いくら何でも早く来すぎちゃったよ。集合時間まで四十分もあるじゃん。
走ったせいで荒くなった息を整えつつ、髪の毛がボサボサになっていないか手櫛で確認。
ついでにアウターの襟を直してみたり、ニット帽をかぶり直してみたり。
風馬くんを待っている間は、ひたすら自分の身だしなみを弄ってばかりだった。
時計を見ると、まだ十七時四十分。集合時間まであと二十分という時間帯。
改めて、早く来すぎてしまったことを痛感し、後悔してしまう。
それに私が早く来すぎていたら、後に来た風馬くんに申し訳ない思いをさせてしまう。
私だって風馬くんが先に来ていて、私の方が後だったりしたら全力で謝罪するから。
遅く行って待たせるのも駄目だけど、早く行って気を遣わせて謝らせるのも駄目だ。
何でこんな単純なことにもっと早く気付かなかったんだろう……。
私が後悔の念に苛まれて思わずため息をつくと、
「村瀬?」
「風馬くん……!」
私は思わず息を呑んだ。
振り返った先に居た風馬くんは、学校の制服を身に纏っている時とは全く違っていたのだ。
一言で言えば、とても大人びていた。男子高校生とは思えないほどに。
白いシャツの上に前を開けた状態で黒のコートを羽織っていて、下には私が諦めたジーンズを履いている。おまけにリングのついたネックレスが蛍光灯に反射して白く光る。
私がまじまじと見つめていると、風馬くんは恥ずかしそうに頭を掻いて、
「村瀬、何か学校とはやっぱり違うな」
「ふ、風馬くんも! あ、悪い意味とかじゃなくて、その……大人っぽくてカッコいいよ!」
あ! カッコいいって言っちゃった! 恥ずかしげもなく言っちゃった!
風馬くんは私の言葉に驚いたように目を見張ると、頬を赤らめて呟く。
「む、村瀬もその……可愛い……」
風馬くんの言葉を聞いた瞬間、私の胸がドクンと波打った。
そして脳内には先程の風馬くんの言葉が永遠と流れてくる。
______可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。
「うぇっ⁉︎ いやっ、あの! あ、ありがとう……!」
『可愛い』と言ってもらえたことが嬉しくて、つい真面目な反応を返してしまう。
私が風馬くんを『カッコいい』って言ったことへのお返しであって、ただの社交辞令なのに。
「そ、そろそろ行かないと、後ろの方になっちゃうし、行こうか」
「う、うん……!」
風馬くんが真っ赤な顔のまま言い、私もおそらく顔を赤くしたまま頷く。
周囲を歩くカップル達は、もう慣れているのか友達みたいに笑い合っているのに。
恥ずかしげに顔を赤らめて向かい合っている男女というのも私達くらいだ。
駅の中央出口から外に出ると、もう日は先程よりも沈んでいて冷たい風が吹き付けていた。
「うぅ、寒い……」
思わず身を縮こめていると、突然左手を包まれる感覚がした。
驚いて左手を見下ろすと、そこには風馬くんの右手に包まれた私の左手が。
「手、繋いだら、ちょっとは寒くなくなるかなって思って……」
風馬くんはより一層顔を赤らめつつ、ちょっとそっぽを向いた。
「あ、ありがとう。すごくあったかいよ」
やがて、イルミネーションの点灯時間がやってきた。
受付でチケットを二枚渡し、私達はイルミネーションのコーナーへと入っていく。
赤、緑、白、青、黄、桃______色とりどりに輝くライトは幻想的で、とても綺麗だった。
その間、私達の手は繋がれたままだったけど、イルミネーションが終わる頃にはお互いもう気にしていない感じだった。
まるで、最初から手を繋ぐことが当たり前だったかのように。




