第236話 甘々な時間は食堂で
昼休み。私、風馬くん、亜子ちゃんの三人は弁当を食べるために食堂に来ていた。
色々とプライベートな話をするには、食堂はもってこいの場所なのだ。
「イルミネーション?」
「そうなの! 今度、亜子ちゃんと行くことになってね」
私は亜子ちゃんから貰ったチケットを風馬くんに見せて、興奮ぎみに言った。
「へぇ、良いじゃん。いつなんだ?」
「えっと……確か___」
「今週の日曜日よ」
私の代わりに、食堂のジュースのストローをすすりながら亜子ちゃんが言う。
「そうなのか。楽しんでくるんだぞ」
「うん!」
私が頷くと、亜子ちゃんがボソボソと呟き始めた。
「あたしは別に行くつもりじゃなかったのよ? でも雪がせっかく誘ってくれたから」
「ありがとう。優しいね、亜子ちゃんは」
「なっ!? べ、別に……」
亜子ちゃんは顔を真っ赤にして、拗ねたように小さく言った。
「どうせなら、雪と柊木くんが行けば良いのよ」
「「えっ!?」」
またも同時に驚きの声をあげてしまった私と風馬くんを指差して、
「ほら、びっくりする時もハモるくらい息ぴったりじゃない。お似合いだと思うなぁ」
「そ、それとこれとは話が違うと思うんだけど……」
私が言うと、風馬くんもうんうんと頷いて、
「だ、だって、村瀬と後藤が一緒に行くんだろ? せっかくの約束を俺が邪魔しちゃうみたいで、何か気が引けるよ」
「でもあたし、寒いの苦手だし」
「亜子ちゃん、昨日は良いって言ってくれたのに」
私がぼやいても構わず、亜子ちゃんはマイペースに言った。
「気が変わったー」
「えぇ……。どうしよう」
私が迷っていると、風馬くんが亜子ちゃんに向かって怒ったように言った。
「後藤、子供じゃあるまいし、そんなわがまま言うなよ。村瀬が困るだろ?」
「だからあんたが一緒に行けば良いのよ」
「いや、だから俺は___」
「雪はどうなの?」
再び抗議しようとした風馬くんを遮り、亜子ちゃんは私に尋ねてくる。
「えっ?」
「柊木くんと行くの、嫌?」
私は慌てて首をブンブンと振った。
「ううん、嫌じゃない! むしろ、すっごく嬉しい!」
「ほら、本人がこう言ってるわよ?」
風馬くんに向かって言う亜子ちゃんに、私は慌てて付け足す。
「あ、でも、だからって、亜子ちゃんとの約束をないがしろにしたいわけじゃないんだよ!? あくまでも風馬くんと一緒に行きたいかって質問に答えただけで___」
「そんなこと分かってるわよ。雪、色々細かいこと気にしすぎ」
ピシャリと言い放たれて、思わず口をつぐんでしまう私。
「えっと、じゃあ、俺達で行くか? イルミネーション」
「本当に良いの? 亜子ちゃん」
私が尋ねると、亜子ちゃんはニヤニヤとしながら、
「行ってきなさいよ。もうすぐホワイトクリスマスじゃない。その前借りってことで」
「それってカップル限定の話だろ?」
「か、カップル!?」
風馬くんの言葉に、私は思わず叫んでしまう。
「えっ、どうした? 村瀬___」
私に尋ねてきた風馬くんも、私と同じことを想像したみたいで、ポッと顔を赤くする。
「ほらほらー、行ってきなさいよ。来週、感想聞かせてよねー」
「いや、別にその……あの……」
ニヤニヤが止まらない亜子ちゃんに、弁解しようとした時。
「亜子様ー」
「亜子様、今日の二番、一緒に行きましょうー!」
食堂の入り口で、亜子ちゃんの取り巻きの女子達が亜子ちゃんを待っていた。
「あ、そういえば! 分かったわ! ちょっと待ってて!」
亜子ちゃんは取り巻きの二人に向かって叫ぶと、補助カバンを肩にかけて立ち上がりつつ、
「そういうわけだから。あとはお二人で楽しんでー」
「あ、亜子ちゃんってば……」
地味に冷やかす亜子ちゃんは、そのまま取り巻きの子達のところに行ってしまった。
「ありがと、タイミングバッチリ」
「「はい!!」」
ちょっとよく分からないことを言いながら、三人は食堂から出て行った。
「後藤のやつ、俺達を冷やかしすぎて日直に遅れるとか。あいつも何だかんだ言って天然だよな」
「そ、そうだね」
すっかり二人きりになってしまったテーブルで、私は思い切って尋ねてみる。
「え、えっと、本当に私達で行く? イルミネーション」
「後藤があんな感じなんだったら、何回言っても無駄だろうけど。本当に俺で良いのか? 村瀬。せっかく後藤と約束してたのに」
「だ、大丈夫! 私は亜子ちゃんとでも風馬くんとでも、すっごく嬉しいから!」
私は両手拳を握って、一生懸命言ってから、
「それに、元々は亜子ちゃんが貰ってきたチケットだったから、藤本くんとか誘って行けば良いのにって言ったんだけど……」
「嫌って言ったんだろ? 今ので何となく察した」
「うん。一緒に戦ったことがあるだけで、あまり仲良くないから藤本くんの方から断られちゃうって」
「藤本、何だかんだ言って結構優しいけどなぁ」
そこまで言ってから、風馬くんはハッとしたように私を見た。
「あっ、ごめん。何故か村瀬には塩対応って感じだけど」
藤本くんが私は当たりが強いことを気にかけてくれたみたい。
私は首を横に振って、風馬くんに同意した。
「私もあの二人はお似合いだと思うんだけどなぁ」
「後藤は、俺達がお似合いだって言うしな……」
「私と風馬くんなんて全然釣り合わないよ。風馬くんにはもっと可愛い女の子が必要だよ。私なんかじゃなくて」
「何言ってるんだよ……村瀬だって可愛いじゃんか」
ボソッと声を漏らす風馬くん。
「……えっ!?」
私が驚いて彼を見上げると、風馬くんは口を片手で覆いつつ少し顔を背けて、
「俺は、嬉しかったけどな。村瀬とお似合いって言ってもらえて」
風馬くんの言葉に嬉しくなって、私も慌てて本音を口にする。
「わ、私も! 私も……すごく嬉しかった。風馬くん、すごくカッコいいし、私にも優しくしてくれるし、いざとなったら頼りになるし、良いところしかないから!」
「褒めすぎだよ。俺だってそんな完璧な人間じゃないのにさ」
「少なくとも、私はそう思ってるよ!」
「そんなこと言うなら、村瀬だってそうじゃんか」
「えっ!?」
風馬くんはより一層顔を赤らめながら、
「村瀬は可愛いし、相手に対してものすごい気配りが出来て優しいし、考えるよりも先に動けるし、自分がピンチになっても逃げないし……。良いところばっかりだろ」
「わ、私、そんな完璧な人間じゃ___」
「さっきのお返しだよ。俺だって同じだ。自分が完璧な奴だなんて思ってない」
「う、うん……」
そうだよね。ちょっと悪いことしちゃったなぁ。
「ま、まぁ、でも、村瀬に褒め殺しにされたことは嬉しいけど」
「わ、私も……」
二人で顔を真っ赤にしながら黙り込み、少し気まずい雰囲気に。
それを破るように、風馬くんが勢いよく立ち上がって時計を指差した。
「とりあえず、もう教室戻ろうぜ。昼休みももうすぐ終わりだし」
「そ、そうだね」
食堂の壁にかけられた時計を見ると、予鈴が鳴る時間まであと十分というところだった。
互いに顔を真っ赤にしつつ、私達はいそいそと教室に戻ったのだった。




