第235話 あんた達ってお似合いよね
教室の引き戸をガラガラと開け、私と亜子ちゃんは教室の中に入っていく。
そこで、教室の奥の方に座っている風馬くんを発見。
「風馬くん」
私が声をかけると、風馬くんは読んでいた本を閉じて私達の方を見上げた。
「ああ、おはよう、村瀬、後藤」
「おはよう」
「おはよう」
私と亜子ちゃんが挨拶をすると、風馬くんは何かを思い出したかのように目を見張った。
「あ、そうだ! 村瀬のおじいさん、大丈夫だったぞ。あの後学校に戻ったら、村瀬も後藤も居なくなってて伝えるのが遅れた。悪い」
「ううん、大丈夫! さっきおじいちゃんには会ってきたから」
私が両手をブンブンと振ると、風馬くんが不思議そうな顔をした。
「会ってきた……?」
「あ、私達ね、ウィスカーさん……イアンさんの前の鬼衛隊長と一緒に亜人界まで逃げてたの。昨日は向こうに泊めてもらったんだ」
クラスの皆に聞かれてしまうと厄介なので、なるべく聞こえないように声を潜めて話すと、
「そういうことか。なら安心した。あのグリンっていう天使も居なかったから、てっきり連れ去られちゃったのかと思って怖かったんだ」
「ご、ごめんね、心配かけちゃって」
「良いよ良いよ。二人が無事で何よりだ」
その言葉通り安心したように頬笑む風馬くんに、私は言った。
「おじいちゃんには全部話してきたんだ」
「……えっ!? 全部って……」
驚き、目を見張る風馬くんに頷いて続ける。
「前に私が風馬くんに言ったようなこと。それと、これからはもっと危険なことが起こるかもしれないっていうこと」
風馬くんは、一瞬理解が追い付いていないような困惑した表情を浮かべていたけど、
「そ、そうか。まぁ、村瀬が自分で決めたことなら良いんだ。全部知ってもらってた方が、村瀬としてもおじいさんとしてもやりやすいだろうし」
「うん! あっ、風馬くん、本当にありがとう。わざわざ私の家まで、おじいちゃんが無事かどうか確かめに行ってくれて。ごめんね、手間かけさせちゃって」
私は返事をしてから、今の今まで肝心のお礼と謝罪をしていなかったことに気付き、慌ててそれらを口にする。
すると、風馬くんは片手を軽く振って笑った。
「全然良いって。気にするなよ。俺もちょっと不安だったから」
頬を指でポリポリと掻きつつ、風馬くんは続ける。
「それにさ、グリンに狙われてる村瀬が家に帰るわけにもいかないし、後藤は確実に戦力になるし。だったら何もない俺が行かないとだろ?」
「風馬くん……」
「だから村瀬のせいじゃない。俺が自分で行ったんだしさ」
「ありがとう」
風馬くんの優しさに、私はとても嬉しくなってしまう。
そのまま何となく風馬くんの笑顔を見つめていると、少し遠いところから声がした。
「お熱くなってるとこ、悪いんだけどー」
「「えっ!?」」
私と風馬くんが同時に声のした方を向くと、いつの間にか自分の席に座った亜子ちゃんが、背もたれに肘をついて私達を見ていた。
「朝礼、始まるわよ」
言いつつ、教卓の方を親指で示す亜子ちゃん。
彼女の言う通り、朝礼の開始を報せるチャイムと共に先生が教室に入ってきていた。
「あっ! 本当だ! じゃあ風馬くん、またね」
「あ、ああ、また!」
風馬くんに手を振ってから私も自分の席に戻ると、前の席の亜子ちゃんがニヤニヤとしながら言ってきた。
「ホント、あんた達ってお似合いよね」
「えっ!? い、いや、そんなんじゃないけど……多分」
「ふふっ、分かりやすいんだから」
私が風馬くんとお似合いだなんて……。
嬉しい気持ちもあるけど、正直なところ風馬くんに申し訳ないな。
カッコいい風馬くんには、もっと可愛い人がお似合いなんだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「えっ、イルミネーション?」
その日の休み時間、私は亜子ちゃんからイルミネーションのチケットを貰った。
「そうそう。今度駅前でやるんだって。チケット二枚貰ったんだけど、あたしは行かないから雪にあげるわ」
そう言って、チケットを二枚私に渡してくれた亜子ちゃん。
「そ、そんな! 申し訳ないよ! せっかくなんだから、亜子ちゃんが行けば良いのに!」
私が慌てて言うと、亜子ちゃんは『いやいや』と手を振って、
「あいにく、あたしにはそんな相手も居ないから」
私にも居ないんだけとなぁ。
ていうか、せっかく亜子ちゃんが貰ったものなんだし、亜子ちゃんが誰かと一緒に行くべきだよ。
「えっ、あ、じゃあ、藤本くんとか」
咄嗟に私の脳裏をよぎったのは、藤本剛くんだった。
誠さんの弟で、性格は誠さんとは正反対だけど、亜人界では何となく亜子ちゃんと居る時が多い気がする。
「別にそこまで仲良くないもの。一緒に戦っただけで」
「じゃ、じゃあ、これを機に親睦を深めてみるのはどう? 亜子ちゃんと藤本くん、一緒に戦えるくらい息ぴったりなんだし」
私がもう一度念押しするけど、亜子ちゃんは首を横に振った。
「あたしは良くても、向こうがお断りよ。雪にあげる」
と、私が亜子ちゃんに差し出していたチケットを、人差し指で軽く押し返してくる。
「えぇ……。あっ、じゃあさ、二人で行かない?」
散々迷ってから、私は割と良い考えを思い付いた。
「二人って……雪とあたし?」
私と自分を交互に指差す亜子ちゃんに頷き、
「そうそう! 行く相手が居ない者同士!」
「確かにそうね……。分かった。じゃあ、当日まで雪が持ってて」
亜子ちゃんはもう一度、チケットを指で私の方へと押し返してくる。
「えっ、何で?」
「あたしじゃ、すぐに無くしちゃうもん」
あ、なるほど。そういうタイプなんだ。何か意外だなぁ。
「そ、そっか。私も無くさないようにするね」
私はそう言いつつ、亜子ちゃんから貰った二枚のイルミネーション観賞用チケットを、大切に制カバンにしまったのだった。




