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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第230話 完璧じゃないから

 それから私達は、皆で家に戻った。


 ミリアさんが私へと手をかざすと、私の中に温かいものが流れてくる。


「【回復華(リカバー・フローラル)】」


「ありがとうございます、ミリアさん」


「いえいえ。すぐに良くなると思いますので、少し待っていてくださいね」


 私に向かって微笑んでから、ミリアさんは疲れたようにホッと息をついた。


 私だけじゃなくてイアンさんやレオくんにも回復魔法を施していたから、その分負担も大きいのだろう。


 グリンさんとの戦闘時、先に吸血鬼達を王宮へと転送していたキルちゃんは、彼からの攻撃を受けていない。


 そのため、回復魔法を施す必要はなかった。


 だから、キルちゃんもミリアさんやフェルミナさんと一緒に怪我をした皆の治療に当たっているのだ。


 私達の中でも特に重傷だったのが、双子の天使フォレスとウォル。


 グリンさんからの攻撃をもろに受けてしまっていたから、回復魔法に加えて手作業での処置も必要だった。


「すまえねーな……」


「ごめんなさい。吸血鬼の方にもお世話になってしまって……」


 ベッドに横になったフォレスとウォルが謝罪の言葉を口にした。


「こういう時はお互い様よ」


 以前、互いに剣を交えたことのある双子天使に、キルちゃんが包帯を巻きながら言う。


「実際、あなた達が割り込んでくれたおかげで、一回はユキをあいつから守れたんだし。そこは感謝してる」


「何かよく分かんねーけど、グリンのことは好きじゃねー。彼氏だったくせに、ボスのことボコボコにしやがったからな。つまり、オレ達はてめーらと共通の敵が出来たってわけだ」


 処置されている間も傷が痛むのか、フォレスは顔を歪めながら言った。


「そうね……。暫くは空気を読んで、私達を襲撃するのも止めてほしいんだけど」


 キルちゃんがフォレスの顔を見ることはせずに、包帯を巻く手を止めないでいると、


「だから、今はしてねーだろ」


 反抗的な態度のフォレスに続いて、隣のベッドに座ったルーンさんが口を開く。


「我が言ったんだ。ユキが亜人界に出入りしている以上、我々天使が吸血鬼領を襲撃すればユキにも被害が及ぶから、とな」


「ありがとうございます、ルーンさん」


 私がお礼を言うと、ルーンさんは私を見やってからまた正面を向く。


「別にユキのためではない。同盟を結んでいる関係上、人間に危害を加えるわけにはいかないだけだ」


 た、確かにそうだよね。同盟を結んでる相手側の世界のヒトを怪我させたってなったら、ルーンさん達も面目ないだろうし。


「勘違いするなよ、吸血鬼ども。我々天使が最近、貴様らを襲撃していない本当の理由は、天界と人間界が結んでいる同盟があるからだ。それに、イアン」


 ルーンさんはイアンさん達鬼衛隊、そしてヴァンさん達王宮組を見回してから、もう一度イアンさんを見つめた。


 イアンさんもルーンさんを真剣な表情で見つめている。


「こうして匿う場所も使わせてもらっている身だが、我はまだそなたのことを許したわけではないからな」


「___」


 イアンさんの表情が曇ったのを、ルーンさんは見逃さない。


「当然ではないか。あの時、我は目の前で父上の魂の核が割れるのを見たんだ。フォレスやウォルを介抱したからと言って、我が素直に礼を言うとでも思ったか。貴様に父上を殺されたこの屈辱は、今も消えてなどおらん」


 そういえば、イアンさん達と会って間もない頃に、あの吸血鬼三人組に売買されそうになってた私をレオくんが助けてくれて、帰り道でルーンさんと鉢合わせしちゃったことがあったっけ。


 その時に、イアンさんが自分の口からそんなことを言ってた。


 ルーンさんの前の天兵長、グリオネス・エンジェラを殺してしまったって___。


「る、ルーン」


 明らかに重くなった空気。


 それを俊敏に感じ取ったのか、フェルミナさんがルーンさんをたしなめるように言う。


 すると、ルーンさんはフェルミナさんにさえ厳しい視線を向けて、


「何だ。我が何か間違っているとでも言いたいのか、フェルミナ」


「そういう訳じゃないけど……。せっかく色々してくださってるのに、皆様に失礼よ」


 ルーンさんは顔色一つ変えずに正面を向くと、


「所詮は敵同士だ。構わん」


 それから、自分に向かって近付いてくる気配に気付いてそちら___家の玄関側を仰ぎ見る。


 深刻な表情のイアンさん、ヴァンさん、パイアさんが、ルーンさんのベッドの近くまで歩んできていた。


「本当に、あの時は申し訳なかった」


「わたし達からも謝罪させてほしい、天兵長ルーン・エンジェラ」


「弟があなたの心を深く傷付けるようなことをしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」


 三人は謝罪の言葉を口にすると、深々と頭を下げた。


 それでもルーンさんは、頭を下げ続ける三人から視線を外す。


「謝罪など不要だ。そうやって頭を下げたところで父上は戻ってこない。そなた達も父上を失えば___」


 そこまで言って、ルーンさんはハッとしたように目を見張った。


 気付いたのだろう、自分が今どれだけ不謹慎なことを口にしたか。


「すまない、言い過ぎた」


 俯き加減になりつつ、ルーンさんも暗い表情に。


「いや、大丈夫だよ」


 イアンさんは何も気にしていないような笑顔を向けると、踵を返して玄関の方へ歩いていく。


「あ、あの、イアンさん」


 私が思わず声をかけると、イアンさんは立ち止まって首だけで振り返った。


「ちょっと、外の空気を吸ってくるよ」


 それだけ言い残して、イアンさんは真っ暗な外に出ていった。


「駄目だな、我は」


 ドアが閉まる音を聞いてから、ルーンさんが自嘲気味に声を漏らす。


「本当はちゃんとお礼を言うつもりだったんだ。敵同士なのに我々を匿ってくれるのだから。だが、グリンの姿を見たら過去のことを、父上のことを思い出してしまって……」


 ルーンさんは大きく息を吐くと、ヴァンさんとパイアさんに向き直った。


「先程は、度が過ぎたことを口にしてしまって申し訳なかった。父が亡くなった悲しみは我が一番分かっているのに、それを他の種族に望むなんて、あまりにも不謹慎だった」


 頭を下げるルーンさんに、ヴァンさんは首を横に振って、


「あなたの言う通り、わたし達はまだ父を失っていない。そんな者を前にして怒りの気持ちが沸くのは仕方のないことです」


「気にしないでくださいね。私達は誰しも完璧ではありませんから」


「そうだな……。我も、あいつも、完璧などではない」


 パイアさんの言葉を繰り返し、ルーンさんはドアの外を見やった。


「私、イアンさんのこと探してきます!」


 反射的に半ば叫ぶみたいになってしまい、皆からの視線を浴びながらも続ける。


「あっ、えっと、外も暗くなってきましたし、私みたいに誘拐されちゃったら危ないから。イアンさんは勿論そんなことされませんけど、でも心配なので」


 何言ってるの、私! 全然意味が分からないじゃん!


「分かった。ユキ、イアンのことお願い」


 でも、私の言いたいことを理解してくれたように、キルちゃんを始めレオくんやミリアさんも、亜子ちゃんも優しく頷いてくれた。


「うん。任せて」


 皆の期待を背負って、私は暗い外へと飛び出した。

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