第226話 挑み続けた先に
彼の羽に縛られたまま外に放り出された私を追って、イアンさん、キルちゃん、レオくん、ミリアさん、ウィスカーさんもログハウスの外に出る。
「何だ、これ……」
「まだ居たのか!」
イアンさんは呆然と立ち尽くし、レオくんが怒りの声をあげる。
「本当に懲りないわね! 牢獄行きよ!」
キルちゃんは短剣を構えると、吸血鬼達を倒すべく真っ先に走り出した。
「【剣光】!」
「へぇ、吃驚仰天。驚きだね。吸血鬼達を守る立場の鬼衛隊ともあろうそなたが、真っ先に奴らを倒すなんて」
「勝手に言ってなさい。皆はユキを助けて!」
「わ、分かった!」
イアンさんが俊敏に反応してグリンさんの方へ走るのを、レオくんとミリアさんも追いかける。
「何で来るんだよ。この人間が死んじゃうのに」
「分かってないな。ユキを死なせないためにお前を倒すんだよ。【炎嵐】!」
「くっ……!」
レオくんが放った炎の技に、一瞬ひるむグリンさん。
「【回復華】」
続け様に、ミリアさんが私に回復魔法をかけてくれる。
すると、たちまち私の身体の痛みが薄れていった。
「ユキ、もう少しの辛抱だ。【暗黒剣】!」
「あっ!」
イアンさんがグリンさんの羽を斬り裂いたことで、私は縛り付けられていたものから解放される。
支えにもなっていた羽を失って地面へと落下していく私を、イアンさんが受け止めてくれた。
「ありがとうございます、イアンさん……」
イアンさんは私をそっと地面に下ろすと、グリンさんを睨み付けたまま声をあげる。
「ユキは家の中に居て!」
「で、でも___」
「早く!」
「は、はい!」
いつになく厳しいイアンさんの言葉に、私は弾かれるようにして家の中へ。
と言っても何かあったらすぐに飛び出していけるように、玄関前で待機することにした。
私が見守っている間にも、目の前で戦闘は繰り広げられる。
次第に鬼衛隊は劣勢へと追い込まれていき、ついに、
「無駄無駄! そなた達の技は全部把握してるんだからね! 【破滅鎚】」
「「うああああっ!!」」
思いきり縦に揺さぶられ、イアンさんとレオくんが地面に倒れ込む。
「皆様! 【回復華】!」
ミリアさんの回復魔法を受け、二人が淡い黄色の光に包まれた。
そんな吸血鬼達を見下すように、グリンさんは目を細める。
「弱いねー。もう終わりかい?」
余裕綽綽と言った表情でハンマーを肩に担ぎ直したグリンさん。
「そんなわけないでしょ。【剣光】!」
素早い剣撃を受け、グリンさんは反射的に後ろへ飛んでそれを回避。
ハンマーで消し去らなかったことから考えて、キルちゃんの加勢は予想外だったみたいだ。
「キル!」
「ごめん、お待たせ。あいつらのこと転送するのに時間かかっちゃって」
キルちゃんはた上体を起こしたイアンさんとレオくんの前に立つと、首だけで振り返る。
「まさか、全部王宮に転送してくれたのかい?」
驚くイアンさんに、キルちゃんはさも平然と頷いてみせる。
「うん、当たり前じゃない」
「魔力残ってるか? 無理しなくて良いからな」
「大丈夫よ。まだまだいけるわ」
レオくんが心配そうに言うと、キルちゃんは力こぶを作って笑った。
「へぇ、吃驚仰天。驚いた。同胞を倒したのにそんなに笑顔で居られるんだ。こわーい」
馬鹿にするような口調で、グリンさんは二の腕をさする。
「あんただって、何してもずっとニコニコしてるじゃない。あんたにだけは言われたくないわ。それに、倒した訳じゃないから」
「でも、剣向けてたじゃないか」
呆れたように息を吐くキルちゃんに、グリンさんが抗議の声をあげる。
「こっちよ」
キルちゃんは手にしている柄の方をグリンさんに向けると、
「こっちで気絶させていったの。だから倒してないわよっ!」
地面を蹴ってグリンさんの懐に潜り込み、今度はちゃんと刃を振るう。
「【剣光】!」
「ぐっ! や、やるね……流石、キラー・ヴァンパイア」
「どこまで知ってんの」
「勿論、全部だよ」
そこまで言うと、グリンさんはハンマーを下から上へ振り切った。
キルちゃんのお腹に直撃するかと思ったけど、彼女は持ち前の反射神経を使ってすんでのところで後ろに飛ぶ。
「グリン。君が何を考えているのか分からないけど、ユキを襲うのはやめてくれないかい?」
「ん? どうして?」
不思議そうに首を傾げるグリンさんに、イアンさんはさらに畳み掛ける。
「決まってるだろ。ユキが怖い思いをするからだ」
「そんなの余に関係ないよ」
平然とそう言うと、グリンさんはまた黒みがかった羽を私の方へ伸ばしてくる。
さっきみたいに私を縛り付けるつもりなのだろう。
「しまった! ユキ!」
イアンさんが慌てて走るけど、グリンさんの羽の方が圧倒的に速い。
私が逃げようと家の中へ踵を返した時だった。
「おーっりゃあー!」
天空から叫び声が響いたかと思うと、ドン! と地面に着地する音がする。
驚いて振り返ると、そこには二人の天使が居た。
「フォレス!」
「ウォル!」
ルーンさんとフェルミナさんが一緒に声をあげる。
一人は、緑色の跳ねた髪に白髪のメッシュという髪型の天使で、手には茶色の蔓で出来た双剣を持っている。
もう一人は、水色のマッシュルームヘアーに白髪のメッシュという髪型の天使で、手には水の泡のような物体で作られた弓矢を持っている。
天空から降りてきた双子の天使は、開け放たれた家のドアの方を振り返った。
「よー! ボス! 大丈夫か?」
「なかなかフェルミナさんがお戻りにならないので、嫌な予感がして来てみたんです」
まるで友人と接する時のように親しげに手を挙げるフォレスとは対照的に、ウォルはおずおずとここに降りてきた訳を話した。
「ご、ごめんなさい。色々とあって伝えていたことと全く違う形になってしまったの」
フェルミナさんが申し訳なさそうに謝罪すると、フォレスは手をブンブンと振って笑った。
「気にすんなよ、フェルミナさん。オレ達は、ボスとフェルミナさんが無事だっただけで嬉しーんだぜ?」
「そ、そうですよ。なので、フェルミナさんが謝ることじゃないです!」
両手を握り、ウォルも懸命に訴えている。
「二人とも……」
「すまない、我の力不足で」
フェルミナさんが瞳を潤ませ、ルーンさんは不甲斐なさそうに頭を下げる。
すると、フォレスがドアの前で地団駄を踏んだ。
「だーかーらー、ボスも謝るなよ。オレ達は謝られるために来たんじゃなくて、ボス達を助けるために来たんだぜ?」
そう言ってグリンさんの方に向き直ると、彼を勢いよく指差して、
「おい! てめーがボスの恋人か!」
「なっ!」
「「「「「えっ?」」」」」
ルーンさんはたちまち赤面。
衝撃的な事実を耳にした私、イアンさん、キルちゃん、レオくん、ミリアさんは、驚きの声をあげてしまった。




