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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第225話 変更された標的

「そんな奴とまともにやりあって、勝てると思っているのか!?」


 そんな奴って……と不満そうなグリンさんの声が、小さく聞こえる。


 確かに勝てる保証はない。


 亜子(あこ)ちゃんにもこれ以上無理させたくないし、かといって私自身が何か出来る訳でもない。


 ウィスカーさんの言う通り、ここは逃げた方が良いのかな。


「わ、分かりました! 魔方陣をお願いします!」


 逃げるって言っても、行き先は亜人界だよね? 


 そのために吸血鬼のウィスカーさんが来てくれたんだろうし……。


 自分の中で勝手に解釈を済ませ、私は亜子ちゃんの手を引いてウィスカーさんの元へ走った。


「よし、乗れ。【魔方陣マジカイア・サークル】!」


 ウィスカーさんは私と亜子ちゃんが自分の元へ来たのを確認すると、詠唱して水色の魔法陣を出現させる。


「逃がすかってね!」


 淡い水色の光が私達を包む中で、黒みがかった羽を生やして上昇するグリンさんの姿が見えた。


 そこで、私の視界は完全に真っ白になった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 とりあえず、亜人界に逃げたからにはイアンさん達のログハウスに行かなければいけない。


 その考えは全員一致だったようで、私達は魔法陣の光が消えるとすぐにイアンさん達の家へ走った。


「イアンさん!」


 ドアを乱暴に開けると、驚いた表情の皆が目に入る。


「ゆ、ユキ!? まだ放課後の時間じゃないは__それにアコ……ウィスカー隊長も!?」


 イアンさんが、次から次へと家の中に入ってきた私達三人を見て驚きの声をあげる。


「助けてください!」


「えっ!?」


 私はイアンさんの両腕を握って声をあげた。


「グリンさんが学校まで攻めてきたんです! それでおじいちゃんに会ってきたって……。おじいちゃんが無事かどうかは風馬(ふうま)くんに確かめてもらってるんですけど___」


「ゆ、ユキ、ひとまず落ち着くんだ。落ち着いて、深呼吸して、ゆっくり話してくれ」


 イアンさんは私の肩に手を置き、赤色の瞳で私をじっと見つめる。


 イアンさんや皆の顔を見た瞬間に安堵して、思わず今までの出来事を早口で伝えてしまった。


 そのことにようやく気付いた私はハッとして、それからイアンさんの言う通りに深呼吸をする。


 息をいっぱいに吸っていっぱいに吐くと、不思議と早っていた気持ちが落ち着いてくる。


「……すみません、取り乱しちゃって」


「良いんだよ。急にグリンが来たんだよね? 混乱するのも無理ないさ」


 イアンさんの言葉に、私は黙って頷いた。


「それでグリンは?」


「ウィスカーさんの魔方陣で転移してくる時に、空に飛び上がってたのが見えたので、おそらく私達を追いかけてきてると思いま___」


 私が言い終わるよりも早く、またも『縦』に揺れる地震が起こった。


 グラグラと揺れる家に耐えつつ、私達は何とかバランスを取る。


「ユキの推測通りだったみたいだね」


「またグリンが来たのか!?」


 部屋の奥のベッドに上体を起こして座っていた白髪の天使・ルーンさんが、驚いたように言う。


 ルーンさんの方も、グリンさんに吸血鬼領で襲われてまだ一日しか経っていないから、昨日とあまり姿は変わっていなかった。


 少し変わった所と言えば、包帯の数が減ったことだろうか。


 おそらく、ミリアさんの治癒魔法が効いてきたおかげだと思うけど。


「駄目よ、ルーン! また怪我が治ってないのに戦おうとするんだから!」


 ベッドから降りようとしたルーンさんを、フェルミナさんが止めつつピシャリと叱りつける。


「だが……これは我とグリンの問題だ。これ以上、我以外の者が傷付くのは嫌なんだ」


「これはわたしの推測だが」


 罪悪感からか苦しそうに胸を押さえるルーンさんに、黒髭を動かしながらウィスカーさんが口を開いた。


「今のグリンの標的は、ルーンからユキに変わっているはずだ。そうでないと人間界に降りるはずがない」


 それには私も同感だった。


 あれだけルーンさんやフェルミナさんに対して敵意をむき出しにしていたグリンさんが、どうして天界ではなく人間界に降りてきたのか。


 簡単な理由だ。殺すターゲットを変更したから。


 天兵長ルーン・エンジェラから、人間の村瀬雪へ。


「だから君がそこまで気に負う必要はないさ、ルーン」


 ルーンさんのベッドの方まで歩いていき、彼女の肩に手を置くウィスカーさん。


「隊長、その言い方はないんじゃないですか?」


 ウィスカーさんに楯突いたのは、キルちゃんだった。


「今の隊長の言い方だと、ユキがグリンに襲われても良いって言ってるように聞こえます」


 続けて、レオくんも一歩前に進み出る。


 黒髭の吸血鬼は鬼衛隊の元部下達の方を振り返ると、決まり悪そうに頭を掻いた。


「あ、あぁ、そうだな。失礼した」


 そして私に向かって謝ってくれる。


「いえ、大丈夫です。気にしないでください」


 私が首を横に振った直後だった。


「見ぃ~つけた」


 入り口のドアが音を立てて外され、その先に銀髪の天使が現れる。


 丸太のようなハンマーを肩に担ぎ、黒みがかった白い羽をはためかせているその天使___グリン・エンジェラ。


 彼は硬直する私達を見てニコニコと笑うと、はためかせていた羽を伸ばした。


 あり得ないほどに長く伸びた羽は、スルスルと動きを進めて迫ってくる。


 ルーンさん___ではなく、私の方へ。


「ちょっと待て! ユキ!!」


 瞬時に状況を察知したらしいイアンさんが、私に向かって手を伸ばす。


 私もそれを握ろうと手を前に出すけど、私達の手が触れ合うことは許されなかった。


 それよりも早く、グリンさんの羽が私の体を巻き上げたのだ。


「あっ!」


「ユキ!!」


 一瞬のことで身動きも取れないまま、私は呆気なくグリンさんの羽に縛られてしまった。


 鬼衛隊の皆が急いで剣を抜き、グリンさんを睨み付けつつ構える。


「ユキを返せ」


 低い声で諭すように言うイアンさん。


 でも、グリンさんは彼を嘲笑うように明るい口調で言葉を返した。


「そなた達こそ、余を攻撃したらどうなるか分からないのかい?」


 羽を自由自在に動かして、羽に縛られた私を自分の方に引き寄せるグリンさん。


()()()()が痛い目に遭っちゃうよ~」


 心の底から楽しそうに、グリンさんは高い笑い声をあげる。


 その言葉を聞いて、イアンさんが唇を噛みしめた。


「貴様……!」


 グリンさんは満足そうに笑うと、私を家の外へ投げ飛ばした。


 それでも私を縛っている彼の羽は外れていないまま。


 何とか思い通りにさせたくない、と私は必死に地面に爪を立てる。


 そうして必死に抵抗をしていた私は、あることに気付いた。


 私の周辺___鬼衛隊のログハウスを取り囲むように、またしても吸血鬼の大群が槍や石などを片手に立っていたのだった。

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