表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
233/302

第223話 お言葉に甘えて

「ま、また!?」


 グラグラと揺れる食堂__もとい校舎に揺さぶられながらも、何とかバランスを取ろうとする亜子(あこ)ちゃん。


「これって……」


 風馬(ふうま)くんが私と亜子ちゃんを見て言う。


 私は頷いて、風馬くんの言葉を引き継ぐように口を開いた。


「あの時の地震と全く一緒! 考えたくないけど……多分、グリンさんだよ!」


 言葉だけを聞いたら、私は冷静に今の現状を分析しているように聞こえるかもしれない。


 でも実際、心の中ではものすごく混乱していた。


 理解しようとしても、それを脳が拒んできていた。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 何で学校にまで来るの!? 明らかに普通の地震とは違う!


 普通の地震も経験したことないんだけど、でもこの揺れは間違いなくグリンさんのハンマーで引き起こされたものだ。


 何故なら、『横』ではなく『縦』に揺られているから。


「お、おい! 何か居るぞ!」


「えっ!? 天使……?」


 食堂の外からは、そんな声が聞こえてくる。


 ようやく揺れが止まったので、私達三人も慌てて食堂の外に出る。


「あっ、居た居た」


 私達を見つけたとたん、妙に笑顔を輝かせるその人物。まるで、親しい友人と再会した時の反応のような……。


 背中から黒みがかった羽を生やし、銀色に艶めく髪をふわふわとさせている。


 その手には、やはり丸太のような太くて大きいハンマーが握られている。


 やっぱり間違っていなかった。私達の想像通りだ。


 __グリンさんがニコニコと笑いながら、私達に向かって歩いてきている。


「グリンさん……!」


 私はグリンさんを睨み付けた。すると、


俯首流涕(ふしゅりゅうてい)。悲しいなぁ。そんなに怖い顔しないでよ。()()


 グリンさんが、私の名前を呼んだ。呼んでしまった。


 私の名前が呼ばれたのを聞いて、周りの同級生達の顔色が変わった。


 ぎょっと驚きながら、恐れおののきながら、顔を青くして私のことを見つめてくる。


 どうして天使に名前を知られているのか。そして親しげに呼ばれているのか。


 おかしい。ふざけている。どういうことだ。あり得ない。


 明らかに、そんなことを思っているような表情だ。


「そうだ。ねぇねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「えっ!?」


 聞き間違い? いや違う。そんな間違い方するわけない。


 グリンさんが、おじいちゃんに会いに行った!?


 おじいちゃんと会ったって言うの!?


「待って! 待って! おじいちゃんに何もしないで!!」


 もしかしたら、もう遅いかもしれないのに。私の願いは届かないかもしれないのに。


 それでも叫ばずにはいられなかった。


 私が叫ぶと、グリンさんは目を丸くした。


吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)。びっくりした。急に大声出すから……。何もしないでってどういうこと?」


「わ、分かってるでしょ……!」


 身体が震える。視界が揺らぐ。地震のせいじゃない。


 その先を、その理由を、言いたくなかった。言えなかった。


 言えるわけ、ない。


 おじいちゃんが、死んだかもしれないなんて。


 その可能性は十分にあるのに、それを追及できない。


「普通に話して、お菓子とかもらって……。それだけだよ?」


 考え込むように顎に指を当てて目だけで上を向き、自分で納得したように何度も頷くグリンさん。


「ほ、本当に……?」


「勿論。余が嘘ついたことあるかい?」


 首をかしげるグリンさんに、亜子ちゃんがボソリと呟く。


「その余地は十分にあるでしょ」


 しかし、その呟きは本人には届かなかったみたいだ。


 グリンさんは、何事もなかったかのようにニコニコと笑みを浮かべている。


「俺、村瀬(むらせ)の家に行ってくる!」


 突然、風馬くんが声をあげた。


「風馬くん……」


「前に村瀬、連れて行ってくれただろ? 道順は覚えてるから!」


 風馬くんはそう言うや否や、床を蹴って走り出す。


「ふ、風馬くん!」


 暫く呆然としていた私は、我に返ったようにハッとなって叫ぶ。


 その時にはもう、風馬くんの姿はなかった。


(ゆき)、今はこっちに集中して。柊木(ひいらぎ)くんを信じるのよ」


 叫ぶ私を、亜子ちゃんはグリンさんから視線を外さずに諭す。


 そっか、そうだよね。


 最初に私の名前を呼んだ時点で、グリンさんの目当ては私だ。


 私が校内に居る限り、学校の皆の危険は消えない。


「う、うん。分かった……!」


 私は意を決して走った。


 とりあえず学校の外に出よう。


 またハンマーを下ろされたら今度こそ学校が崩れちゃう。


 私が学校の外に出れば、ひとまず皆は安全だ。


「ちょっと待ってよ。どこに行くの? ユキ」


 グリンさんの声が追いかけてくる。


「ユキ、学校でいじめられてるんでしょ? 居場所がないんでしょ? そんな場所、守らないでよくない?」


「___!!」


 ゾッとした。何でグリンさんがそのことを知ってるの!?


 そ、それよりも、まずは学校の外に出るのが先決だ。


 大丈夫大丈夫。落ち着け、私。


 上靴のまま走り走り、私は校庭の土を踏んだ。


 学校の敷地の外に出ても、グリンさんと暴れ回ることが出来るような場所はない。


 近所の人達を危険に曝してしまうだけだ。


 結局、学校の敷地からは出られなかったけど、校舎の中に居るよりは百倍もマシなはず。


 それから私は校庭のほぼ中心と思われる場所まで走り、振り返ってグリンさんと対面した。


「あれ? どうしたの?」


 グリンさんが不思議そうに首をかしげる。


「私が目的なんですよね。殴るなり蹴るなり、好きにしてください」


 拳を握り、足を肩幅まで開いて仁王立ちのような体勢になる私。


 もう何かされる心の準備は出来ている。


 グリンさんに拳銃を向けられたあの時から___。


「へぇー。ふむ」


 首を横に傾けたまま、グリンさんは口を開いた。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 首をまっすぐ元に戻して校庭の土を蹴り、ものすごいスピードで迫ってくる。


 気付いた時には、グリンさんの挑戦的な笑みが目の前にあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=39470362&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ