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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第216話 受け入れるということ

「事の発端は、グリン様からのお手紙でした」


 そう言って、フェルミナさんは自分とルーンさんが大怪我を負うことになった経緯を私達に説明してくれた。


「王宮での決着の件を謝罪したいから会えないか、という内容のお手紙だったのですが、あまりにも怪しくて。私は『罠かもしれない』と止めました。でも」


 フェルミナさんはそこで言葉を切ると、ベッドに横たわるルーンさんを見下ろして暗い表情をした。


「ルーンはグリン様のお心遣いが珍しく思えたようで、そのまま指定された場所へ向かいました。勿論、私もこっそり後を追いかけました。絶対に罠だと確信していたので」


 フェルミナさんの予測通りに、グリンさんはルーンさんを呼び出して大怪我をさせたってことだよね。


「じゃあルーンさんは、グリンさんに騙されたってことですか?」


 私が尋ねると、フェルミナさんは黙って顎を引いた。


「簡単に言えばそうなります。彼もちゃんと謝罪はしていましたが……」


「油断した隙を襲われた、と」


 イアンさんの言葉に、フェルミナさんはまたも重く頷く。


「でも、グリンさんはどうして、ルーンさんをいきなり襲うような真似をしたんでしょうか。決着なら、グリンさんが勝ったんですよね?」


 グリンさんが決着に負けて、その腹いせに……とかならまだ分かるけど、グリンさんはルーンさんに勝利してる。


 今更ルーンさんに怪我をさせる理由が無いように思えるけど……。


「ええ。でもその後、ルーンがグリン様を王宮から追放したんです」


「どうしてですか?」


 まさか、自分が決着に負けたからって理由じゃないよね。ルーンさんだもん、そんなことするわけないよ。何か別の理由があったんだ。


「決着の場にはマコト様も同席してくださっていたのですが、グリン様がルーンに対してあまりにも容赦ない攻撃を繰り返したのがきっかけで、マコト様とグリン様の口論が始まりそうになったんです。おそらく、ルーンは『これ以上誰かを傷付けたくない』と思ったのでしょう」


 なるほど、決着の直後ならグリンさんにもまだ戦闘意欲が残ってる。頭に血が上って誠さんやフェルミナさん、他の天使達に八つ当たりする可能性だってあるかもしれない。


 ルーンさんはそれを危惧したってことか。


「じゃあグリンは、天兵長に王宮を追い出されたことを根に持って、天兵長に仕返しをしようとしたんだね。だから彼女を呼び出していきなり襲った……」


「おそらくそうだと思われます」


 イアンさんの言葉を肯定してから、フェルミナさんは私達に向き直って頭を下げてきた。


「吸血鬼の皆様、ユキ様、本当に申し訳ありませんでした」


「えっ、フェルミナさん?」


 突然の彼女の謝罪に、私は驚いてしまう。何で、何も悪くないフェルミナさんが謝っているのか。


 フェルミナさんは暗い表情のまま顔を上げ、


「日頃から、天界は亜人界に対して奇襲を仕掛けてきました。そしてユキ様にも、以前にルーンが厳しいことを申し上げてしまいました」


 私やイアンさん、キルちゃん、レオくん、ミリアさんを順番に見回してから、もう一度頭を下げる。


「このような数々の非礼をお許しください。そして、そんな中でも私とルーンを助けてくださり、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げ、なかなか頭を上げないフェルミナさん。そんな彼女に歩み寄り、その肩に手を置いたのは鬼衛隊長のイアンさんだった。


「大怪我してて今にも死にそうなヒトが敵だからって、見て見ぬふりして放置するなんて酷い真似、流石にしないよ。当然じゃないか」


 それでも、フェルミナさんは不安そうに言葉を紡ぐ。


「本当はマコト様に、人間界にお願いするつもりでいました。でも、ルーンの状態があまりにも危険だったもので、近かった亜人界に___」


「大丈夫だよ、フェルミナ」


「イアン様……」


 しどろもどろになっていたフェルミナさんは、イアンさんを見つめて瞳を揺らした。


「今ので全部事情は分かった。だから、もう大丈夫だよ。怪我が治るまでここでゆっくりしていって……って言いたいところだけど」


 イアンさんはそこで言葉を止めて、フェルミナさんを見つめた。


「天界は大丈夫かい? 天兵長も第一部下も居ない状態なんて、流石にまずいと思うんだけど」


 フェルミナさんはそこで笑顔を作り、


「ご心配ありがとうございます。第二、第三部下であるフォレスとウォルには連絡を入れているので、暫くは彼らに任せます。私の怪我が少しでも治ったら私は先に天界へ戻ります。その間、ルーンのことをお願いする形になってしまうのですが……」


「ああ、任せてくれ」


「治療に関しては得意分野ですので」


 イアンさんとミリアさんが口を開き、キルちゃんとレオくんも同意するように頷く。


 鬼衛隊の快諾を聞いて、フェルミナさんは心の底から嬉しそうに勢いよく頭を下げた。


「本当に、何から何までありがとうございます」


「たまには協力しようよ、フェルミナさん」


「これだけボロボロなんだ。あんたも今日は休め」


 キルちゃんとレオくんも、フェルミナさんに優しく言葉をかける。


「はい……! 本当に、本当にありがとうございます」


 今までは必死に堪えていたのだろうと思う。フェルミナさんの潤んだ瞳から、ついに涙が零れ落ちた。


 敵でありながら、それでもルーンさんやフェルミナさんを受け入れることに異論のなかった鬼衛隊。


 そんな彼らを見ていると、私の脳裏にあの言葉がよぎった。


 氷結鬼の村を後にする際に、『お母様』である氷結の女王ルミレーヌから貰った言葉。


 ___早く、この世界が……亜人界も人間界も天界も、互いに争うことのない平和な世界になると良いわね。


 互いが争うことのない平和な世界。


 実現できるんじゃないか、と本気で思えるような一日だった。

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