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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第211話 会えないかな?

「ルーン、おはよう。調子はどうかしら」


 朝、ちょうど目を覚ましたルーン・エンジェラの元に、フェルミナ・エンジェラがやって来た。


 ルーンは身を起こし、フェルミナに笑顔を向ける。


「ああ、ありがとう、フェルミナ。だいぶん楽になった。もう普通に動けるしな」


 鈴木誠やフェルミナに治療をしてもらってから、実に数日が経過しているが、明言通りに体が楽になっていた。


 少し前までは身を起こすのも一苦労だったのが、今日などはすんなりと起こすことが出来ている。


「ありがとう。フェルミナやマコトのおかげだ」


 ルーンがお礼を口にすると、フェルミナは安堵の笑みを浮かべた。しかしすぐに表情を引き締めると、ルーンの眼前に立てた人差し指をつき出してきた。


 思わず顔をのけ反らせてしまうルーンをよそに、フェルミナは注意喚起をしてくる。


「でも、あまり無理しちゃ駄目よ。体に毒だわ」


「全く、フェルミナは心配性だな。我がそんなにひ弱に見えるか?」


「ええ。特にここ最近はね」


「うっ……!」


 ルーンは喉を詰まらせた。


 確かにフェルミナの言う通りだった。


 ここ最近はグリンとの決着があって彼に敗北、大怪我をしたことで、ベッドから一歩も動けなかったのだ。


 意識を失っていたというのもあるが、意識が戻ってからも痛む怪我のせいで、思い通りに身体を動かすことが出来なかった。


 ルーンが何も言えないでいると、フェルミナは呆れたように言った。


「ほら、図星じゃない。あなたのことはすぐ分かるんだから。私達、幼なじみでしょ?」


「確かにそうだが。フェルミナの勘が鋭すぎるんだ。いくら幼なじみだからと言って、そこまで何でも見抜かれると弱る」


「もう、ルーンってば」


 ルーンとしては本当のことを言ったつもりだったのだが、フェルミナにとっては可笑しかったようだ。思わず吹き出してしまっている。


 クレームのつもりだったのだが、そんなに面白いことを言っただろうか、とルーンが思案していると、


「そうだ、はい、これルーン宛てに手紙よ」


 フェルミナがワンピースのポケットから一枚の紙を取り出し、ルーンの方へ差し出した。


 ルーンはその紙を受け取りながら、フェルミナに聞き返す。


「我宛てに?」


 こんなときに手紙を出してくるような相手など、限られている。ルーンの今の状況を知っているのは、誠ぐらいのものだ。


 しかし、誠ならば直接天界に足を運ぶことも出来る。わざわざ手紙をよこす必要性があまりない。


 それとも、何か忙しい用事があって天界に顔を出せないからなのだろうか。


 などなど、ルーンが色々と考えを巡らせていると、フェルミナが困ったように言った。


「ええ。でも差出人が不明だったのよね」


 そう言いつつ、フェルミナはいとも簡単に封を開けようとしている。


 ルーンは慌てた。差出人が不明なのなら、その相手が誠であるはずがない。


 誰か、別の人物である可能性が極めて高くなる。


 それも、封筒の中身がただの手紙である可能性など、低いに等しいのではないか。


「お、おい! グリンとのことがあったばかりじゃないか! 手紙に何か仕込まれていたら___」


 自分宛ての脅迫状か何かかもしれない。そう思ったルーンはフェルミナの手から封筒を奪おうと手を伸ばす。


「だからよ。ルーンに怪我はさせられないもの」


 しかし、フェルミナはスッと封筒を上げてルーンが奪えないようにしてしまう。


「フェルミナ!」


 ルーンがもう一度叫ぶが時既に遅し。フェルミナはその間に封を切ってしまっていた。


 ルーンは思わず息を呑んだ。


 中に入っているのは脅迫状か。それとも爆弾か。封が切られた瞬間に爆発するよう仕込まれているものだとしたら__。


「ほら、大丈夫よ」


 だが、実際には何も起こらなかった。封筒の中には紙が一枚入っているだけ。


 しかし、封を切ってその手紙を読んだフェルミナの顔が曇る。


 やはり、自分宛ての脅迫状だったのか、とルーンは思う。そしておそるおそるフェルミナに尋ねた。


「……どうした? フェルミナ」


 フェルミナは、手紙の一番下を読んでいた。そして、


「差出人、分かったわ。グリン様からよ」


「グリン、から……!」


 脳裏にふわふわの銀髪の天使の姿がよぎり、ルーンは無意識のうちに身震いしてしまう。


 数日前と言ってもつい最近。


 剣を交えて戦い、そしてボコボコにされた相手だ。


 そんなルーンの恐怖を見て取ったのか、フェルミナはルーンに手紙を渡すことはせずに、そのまま読み上げてくれる。


「えっと、『ルーン、久しぶり。この間は乱暴してごめんね。直接謝りたいから会えないかな?』って……」


「ん……」


 想像していた以上に短い手紙だった。


 もっと長文で、ルーンよりも自分の方が天兵長にふさわしいだとか、天兵長の座を譲れだとか、そんな脅迫じみたことが書かれていると思っていたのに。


 何だか拍子抜けした気分だった。


「やめた方がいいと思うわ、ルーン。また何かの罠だったら危険だもの」


 しかし、フェルミナはいたって真剣な表情で手紙を封筒の中にしまった。


「そ、それは分かっているが……」


 思わず、ルーンは言葉を濁してしまう。


 フェルミナが自分を心の底から心配してくれている気持ちが痛いほど伝わるからこそ、曖昧な返事しか出来ない。


 しかし同時に、グリンの改心を思わせる文章が引っかかっていた。


 どうしても行って直接会わなければいけない。そう思わせてくるような何かが、彼の文章にはあった。


「やっぱり、行くの?」


 フェルミナに問われて、ルーンの中で決意が固まる。


「ああ。あいつがこんなにも反省しているのは珍しいくらいだからな」


「ルーン……」


 やはりフェルミナは心配そうな視線を送ってくる。


 しかし、グリンは謝りたいと言ってきた。まずはその気持ちに応えることが先決ではないか。


「心配するな、フェルミナ。もう我は大丈夫だ」


 ルーンはベッドから降りて立ち上がると、フェルミナに向かって微笑んだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 数十分後、ルーンはとある廃墟に居た。手紙の中で、グリンに指定された場所だった。


 ルーンは天界の天兵長であるが、天界にこんなボロボロの廃墟があることは知らなかったので、少し驚いていた。


 自分が王宮からグリンを追い出してしまって以来、彼はこんなみすぼらしい場所で生きてきたのだろうか。


「ここで……合ってるのか?」


 しかし、あまりにもボロボロすぎる。本当にグリンが指定してきた場所がここなのか、思わず疑ってしまうほどだ。


 ルーンが暗い中をぐるぐると見回していると、正面からコツコツと地面を踏みしめる軽快な音が聞こえてきた。


 暗闇の中から、割れた窓から差し込む朝日に照らされて歩いてきたのは、ふわふわの銀髪の天使だった。


「やぁ、ルーン。久しぶりだね」


 その天使__グリン・エンジェラは、ルーンを見つけると嬉しそうに口角を上げたのだった。

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