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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第208話 同盟を結ぼう!(前編)

 キルちゃんの処置が終わった、とミリアさんから聞かされた私達は、すぐに処置室へ駆け込んだ。


 ベッドの上のキルちゃんを見ると、傷だらけだった身体は絆創膏や包帯などで綺麗に覆われていた。


 それから点滴もつけられていて、廃墟から帰っている途中よりも顔色が良くなっているように感じる。


「キル、大丈夫かい?」


 イアンさんが声をかけ、私やレオくん、そしてウィスカー隊長もベッドに横たわるキルちゃんを覗き込む。


「イアン……ユキ……皆も……ごめんなさい、迷惑かけちゃって」


 キルちゃんは申し訳なさそうに謝ってくれた。


 私は首をブンブンと振って応えた。


「気にしないで、キルちゃん。キルちゃんが無事だっただけで私達は嬉しいんだよ」


 そう言うと、キルちゃんは安心したように微笑んだ。


「僕とユキがあの廃墟に到着するまでの間、何があったんだい?」


 イアンさんが真剣な表情で、キルちゃんに尋ねた。


 私達が今一番気になっていること。それは、キルちゃんの身に一体何があったのか、ということだった。


 キルちゃんは一度イアンさんを見つめ、逸らした視線を落としてから話し始める。


「ハイト達を追いかけてたの。それであの中に入った。そしたら後ろからいきなり殴られて……」


 キルちゃんは、拳をギュッと握りしめた。


「次に気付いた時は、ユキが目の前に居たわ」


「なるほど、じゃあキルは、僕達があの廃墟に着くまでずっと気絶してたってことだね」


 イアンさんの言葉に、キルちゃんは顎を引く。


「うん。だからあの中の具体的なこととかは何も分からないの。ごめん、何の役にも立たなくて」


「そんなことないよ、キルがハイト達を追いかけてくれたから、ハイト達もあそこに駆け込むしかなかったんだと思う。だから、ありがとう」


 イアンさんの言葉に、キルちゃんは口角を上げて申し訳なさそうに頷いた。


 確かに、キルちゃんが追いかけてくれなかったら、ハイト達はそのままどこまでも逃げてたかもしれない。


 そうなったらあっという間に行方知らずになっちゃうし、建物の中に追い込めたのは紛れもなくキルちゃんのおかげだ。


 キルちゃんの無事を確認できて、皆が安堵の表情を浮かべている中で、ウィスカー前隊長だけが浮かない顔をしていた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ウィスカーは鬼衛隊の隊長だった。


 しかし、ある日突然、技を発動することが出来なくなってしまった。


 技の出ない吸血鬼が隊長の座にいつまでも居座っていても、他の隊員に悪影響を及ぼすだけ。


 そう考えたウィスカーは、鬼衛隊の隊長を退くことにした。


 イアン、キル、レオ、ミリアの四人は非常に寂しそうだったが、一度決めたことである。ウィスカーにその選択を変えるつもりは毛頭なかった。



 ウィスカーはそれから天界に赴いた。天兵長グリオネス・エンジェラに、鬼衛隊の隊長を退くことを報告しに行くためだった。


「____鬼衛隊の隊長を。そうですか。今までお疲れ様でした」


 グリオネスはそう言って、ウィスカーを労ってくれた。


 そうして次の隊長をイアンに任せることを伝えてから、ウィスカーは天界の王宮を後にした。


 その時だった。後ろから肩をポンポンと叩かれたのだ。


 ウィスカーが振り向くと、そこには自分よりも少し背の低い、ふわふわの銀髪を持つ天使が居た。


「何か、用かね?」


 ウィスカーが尋ねると、銀髪の天使はニコニコ笑ったまま言った。


「少し話がしたいんだ。場所、移せない?」



 銀髪の天使、グリンの提案により、ウィスカーは周りに天使が誰も居ない暗い廃墟へと移動した。


「やっぱり、亜人界の連中ってさ」


 グリンは切り出した。


「天界と人間界が勝手に同盟を結んだこと、怒ってるのかな?」


 一瞬返答に困ったウィスカーだが、ここは変に嘘をついても仕方ないと思い、正直に伝えることにする。


「あ、あぁ。少なからず混乱はあるね」


「鬼衛隊の隊長、引退するの?」


 先程の話題とは打って変わって、グリンはウィスカーのことについて質問をしてきた。


 ウィスカーが顎を引くと、グリンは暗い天井を仰いだ。


「そっかぁ。じゃあ、もう必要じゃなくなったってわけだ。遺憾千万(いかんせんばん)。残念だね」


 必要ではなくなった。それを聞いて、確かにな、とウィスカーは思った。


 今まで自分は鬼衛隊の隊長として生きてきた。大袈裟に言うなら、その生き甲斐を無くしたということになる。


「余もそうだよ」


 残念がる素振りも見せずに淡々と、グリンは言う。


「じゃあさ、余と個人的に同盟を結ぶっていうのはどう?」


 ウィスカーは瞳をしばたかせた。目の前の天使が何を言い出したのか、すぐには理解できなかった。


「流石に、天界と人間界の同盟を今すぐ解消させられるような権力は余には()()ない。でも、個人の同盟なら構わないだろう?」


()()……」


 ウィスカーは思った。そしてその思いは、口をついで飛び出していた。


「わたしと違って、君にはこれからの生があるからな。そのうち、天兵長にでもなってこの世界をまとめたり______」


 羨ましい、と直感的に思ってしまった。グリンの言葉を借りるなら、もう自分は必要ではなくなった。


 しかしグリンは違う。これから、皆に必要とされていくのだ。


「いや、それはどうだろ」


 グリンは、俯いて自嘲的な笑みを浮かべていた。


「天兵長にはならないのか? 今のグリオネスみたいに」


「理由もなく戦うのは余には合わない。どうせなら、この世界全体を統治する全知全能の神になりたいんだ」


「全知全能の神……」


 天使の前で口にすることは許されないが、果たして神と呼ばれる存在など居るのだろうか。


 ウィスカーは少しだけ疑問を持った。


「どう? そなたにとっても悪い話じゃないはずだ」


 グリンは、人差し指を突き立てて続ける。


「そなたは鬼衛隊の隊長を退いた。これからは普通の吸血鬼として扱われるだけだ。そんな世界、うんざりじゃないか?」


「まぁ、言われてみれば……」


 ウィスカーは言葉を濁すことしか出来なかった。


 確かにグリンの言い分は的を射ていた。しかし、必要とされなくなった世界で生きることを、世界そのものを、自分は『うんざりする』と感じるのだろうか。


 分からなかった。いざその場に立ってみなければ、たとえどれだけ想像しても分からないことだろうな、と思う。


 グリンは床から尻を上げて立ち上がり、腕を広げた。


「余は天兵長なんて小さなものに収まったりしない。もっと大きい存在に、神になりたい」


「だが、わたしと君とではそもそも種族が違う。異種族同士がこんなことをしていたら______」


「嫌なのか?」


「嫌、というか。見つかった時に魂の核を壊されるかもしれない」


 魂の核を壊されること。


 天界の天使や亜人界の吸血鬼達にとって、それは『死』を意味する。


「大丈夫、心配するな」


 死の恐怖を感じたウィスカーだったが、グリンは平然と言う。


「余とそなたが組めばね______」

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