表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
213/302

第203話 何かあるはずだ

「くそ、完全に意識を失ったか……!」


 (まこと)は、ルーンの手首を優しく掴んで脈を確かめる。しかし、脈拍はゆっくりで非常に弱かった。


 このまま何もしなければ、冷たくなっていくのも時間の問題と言えるだろう。


「フェルミナ! ルーンを運ぶ! ここから一番近くて寝かせられるベッドがある場所は……」


 自分で口に出しておきながら、少し都合が良すぎるかと思う。そんな場所がある確率なんてゼロに等しくはなかろうか。


 だが、ここは訓練所。間近にそのような部屋があってもおかしくはないはずだ。誠はその可能性に賭けつつ、おろおろとうろたえているフェルミナを見上げた。


 フェルミナは溢れてきた涙を拭ってから、


「すぐ近くに救護室があります! そこなら……!」


「よし、分かった、案内してくれ!」


 誠はルーンを抱いて立ち上がる。


「は、はい!」


 フェルミナが踵を返すのを追いかけ、救護室へと急いだ。


 意外にも、救護室は本当に近所にあった。誠の推測は見事に的中したわけだ。


 誠は、未だに目を覚まさないルーンをベッドへ寝かせると、銀色の鎧を脱いで黒スーツ姿になった。そしてスーツの袖をまくり、ルーンの鎧も外した。


 鎧の下は、人間界で言う入院着のような柔らかい素材の服だったため、少しだけ首元を広げて風通しをよくする。


 次にルーンの服をめくって、グリンに殴られたであろう腹部を確認する。


「やっぱりアザになっていたか……」


 ルーンの腹部には紫色のようなアザがあり、非常に痛々しかった。


 そのため、誠は枕を背中の上に乗せて腹部を上げると、フェルミナに持ってきてもらった冷えタオルを服の上から巻く。


 それが、誠が吸血鬼抹消組織・VEOで教わった処置方だった。


「これで冷却しておけば、ひとまず大丈夫なはずだ」


 少し処置をしただけなのに、緊張と焦りがあったためか、額からの発汗がある。


 誠が汗を拭っていると、


「あとは、ルーンの意識が戻るのを待つだけですね……」


 不安そうに、フェルミナが言った。


「ああ、そうだな。なるべく早く意識が戻ってくれると良いのだが……」


 すると、コンコンと救護室のドアがノックされた。


「はい」


 フェルミナが応答すると、


「しつれーするぞ、フェルミナさん」


「し、失礼します、フェルミナさん」


 一方は躊躇なく、もう一方はためらいつつも救護室に入ってきた。双子天使のフォレスとウォルである。


 二人は誠に気付くと、鎧の胸部に拳を当てて会釈をしてから、ルーンが横たわっているベッドへと駆け寄った。


「ボス!」

「天兵長!」


 フォレスとウォルは同時に叫び、ベッドの上のルーンを覗き込む。


「なぁ、ボス、だいじょーぶなのかよ」


 フォレスが誠を見上げて尋ねてくる。


 誠は言葉に詰まったが、眼鏡を押し上げて咳払いをして何とか誤魔化す。


「処置は終わった。あとはルーンの意識が戻るのを待つだけだ」


 実際、ルーンがいつ目を覚ますかは誠にも分からない。


 天兵長であるルーン・エンジェラは、天界の中では最強の力を誇る天使だ。かつての師とも言えるグリンに殴られたからと言って、二度と目を覚まさなくなるといったことはないはず。


 少なくとも、誠はそう信じたかった。


「ありがとうございます。VEO隊長」


 ウォルが礼儀正しく頭を下げてきたので、誠は口角を上げて応えた。


「てゆーか、あいつは何なんだよ。ボスをこんなにボコボコにしやがって」


「ちょ、ちょっと、フォレス」


 フォレスが壁を拳で力強く叩いたのを、ウォルはたしなめてから、フェルミナの方へと視線を移した。


「あの天使は、天兵長のお知り合いなんですか?」


 純粋で素朴な疑問。しかし、核心をついている。


 やはり隠し玉として今まで重宝されてきた天使だな、と誠は弱々しげな天使を見て思う。


「ええ。彼はルーンの……天兵長の恋人であり、良きライバルだったわ」


「こ、恋!?」


 フェルミナの言葉に、双子の天使は目を丸くして驚く。


 今の今まで怒りを露にしていたフォレスでさえ、口をあんぐりと開けたまま、信じられないと言いたげな表情でフェルミナを見つめている。


「と言っても、あなた達がまだ天兵軍に所属する前のことよ」


 フェルミナはルーンの短い白髪を撫でながら、


「天兵長がまだ天兵長ではなかった時、彼女よりも戦闘技術の優れていたグリン様が、天兵長の教育係になったの」


「……教育係」


 誠は、天界に来て最初に聞いたグリンの言葉を思い出した。


 ______昔は僕が、君に剣術や戦闘を教えてやってたんだよ? そのおかげで天兵長の座を射止められたっていうのに。


 ルーンよりも自分の方が格上であることを見せつけるための言葉だとばかり思っていたが、教育係ということは事実だったらしい。


 だからこそ、決着をつけている時の二人の戦い方がまるで鏡を見ているかのようにそっくりだったのだろう。


 グリンはルーンのことを弱いと言っていた。


 だが、かつての師であった彼と剣の動かし方がそっくりな時点で、ルーンがグリンの教えを確実にマスターしていたということになる。


 そう考えれば、ルーンがグリンよりも弱かったのは、決着以前に受けていた傷のせいだったのではないか。


 にも関わらず、グリンはルーンを一方的に攻撃し続けた。挙げ句の果てには、彼女の意識を失わせた。


 自分よりも弱いと感じた相手を、そこまで痛めつけたりするだろうか。


 少しの情がありさえすれば、少しでも手加減を加えるものではないのか。


 しかし、誠はグリンの攻撃に一切の手加減を感じることは出来なかった。


 あれは弱者を好き勝手にいたぶる、そのものの行為だ。決してルーンのことを想った厳しさなどではない。


 グリンは、ルーンよりも自分の方が強いと暗示するような戦い方をした。


 グリンは、ルーンよりも自分の方が天兵長にふさわしいと言っていた。


 何か、あるはずだ。


 そう、誠は睨んだ。グリンがこれほどまでにルーンを痛めつけた理由が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=39470362&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ